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生活支えるプロとして、保険の枠を超えて連携をVol.7 田中滋/埼玉県立大理事長、慶大大学院名誉教授【前編】

2018/07/30 配信

介護保険が誕生して18年。制度発足に関わった「生みの親」の一人である田中滋・埼玉県立大理事長は、この4月の介護報酬改定でも、社会保障審議会介護給付費分科会の分科会長を務めるなど、中心的な役割を担った。その田中理事長に、4月の改定の意義と今後、ケアマネジャーに期待する役割などについて、大いに語ってもらった。

田中滋/埼玉県立大理事長、慶大大学院名誉教授

■改定で強まった「果たす役割と機能」重視する潮流

―今年4月の介護報酬改定は、今後の日本社会の方向性を決める上で極めて重要な改定と位置付けられていました。改めて、今回の改定の意義をご教示いただけますか。

まず挙げられる特徴は、事業所の「サービスの名前」ではなく、「果たす役割と機能」によって報酬が決まる潮流が、介護でも強まった変化でしょう。機能に応じて加算を付けたり、減算を強化したりするサービスが増えたと捉えられます。各種のリハビリや老健はもちろん、デイサービスにも、その考えに基づく加算が導入されました。

これこそが今回の改定の大きな特徴であり、これからの保険給付の新たな概念といえます。「プロである以上、レベルの高いサービスには高い報酬が付き、低ければそれなりに低い報酬が付く」と要約できます。

もう一つの大きな変化が、地域包括ケアシステムの構築をさらに後押しするための工夫が、さまざまなサービスに盛り込まれたことです。具体的には、多くのサービスの運営基準などに「地域に開かれた~」や「地域支援」という言葉が加えられました。他の事業所と連携し、住民に開かれた事業運営をする姿勢が、事業を運営する条件として示されたわけです。

もちろん、今回の改定だけで地域包括ケアシステムが完成し、多世代共生型社会が実現するとは考えていません。しかし、多世代共生型社会を構築するための方向性は示されたのではないでしょうか。

―地域包括ケアシステムの構築を進め、多世代共生型社会を実現する上で、ケアマネジャーには、どのようなことを期待していますか。

介護保険にとどまらず、地域にあるさまざまなサービスを組み立て、利用者の生活全体を支えるプロフェッショナルであってほしいですね。

―逆に言うと、今のケアマネは、先生が指摘したような役割には十分取り組めていない、ということでしょうか。

残念ながら、「介護保険給付サービスを組み合わせ、給付を管理する仕事」だけに取り組んでいるケアマネが多いと批判する声も耳にします。もちろん、それだけでも大変な仕事である実情は十分に分かっていますが。

ただし、高齢者人口がピークを迎え、死者数も最多となる2025年から40年の日本社会の趨勢(すうせい)を踏まえれば、ケアマネは、「介護保険給付サービスを組み合わせ、管理する仕事」だけにとどまってほしくはない。既に述べた通り、40年に向け「多世代共生型社会を実現するために地域包括ケアシステムを活用する」という、大きな設計図が描かれ、そこに向かって社会が動き始めています。介護保険サービスの果たす役割は今後も重要ですが、大きな設計図の中では、その一部に過ぎないのです。

■ケアマネが多世代共生社会で果たすべきこと

ケアマネが多世代共生型社会の深化に貢献するには、次の取り組みが必要です。

・介護保険給付対象に限定されない地域のニーズを把握する
・介護保険サービスはもちろん、それ以外のサービスまで積極的に取り込んだサービスの組み合わせを利用者に提供する
・介護や福祉の専門家として、その知見を個別事例対応だけではなく地域づくりに生かす

介護保険のサービスとは、「素人では対応できない困った状態」にある人を、プロフェッショナルの手でなんとかする介入が目的です。ただし、人は常にプロの手を借りて生活しなければならないわけではありません。社会全体を見渡せば、「プロの手は借りるほどではないけれど、小さな支援があると、とても助かる」人の方が圧倒的に多いでしょう。

例えば、杖を使う状態になった人でも、家族と買い物や散歩に出たいと思うはずです。週末は夫婦で映画やお芝居を観に行きたいと望むかもしれませんし、記念日には温泉でゆっくりしたいと考えても不思議はありません。ちょっと手がしびれているため、タブレット端末はうまく使えないにしても、孫とスカイプなどを使って話をしたい人だって少なくはないでしょう。

ただし、「困った状態にある人をプロが助ける」介護保険サービスでは、そうしたニーズすべてを支えるための取り組みは完成できません。だからこそ、保険外のさまざまな地域の資源を組み合わせる必要が出てきます。

日々高齢者と向き合ってきたケアマネこそ、その役割を担う存在であると期待しています。

■地域ケア会議でケアマネが果たすべき役割とは?

―先生が指摘されたケアマネの現状を思うと、その域に達するには、なかなか難しいようにも思います。

その後押しをするために地域ケア会議があります。地域ケア会議は、15年の法改正によりすべての自治体で開催が義務付けられました。特にケアマネは、地域ケア会議で主導的に発言できる広がりを持った職種といえます。ぜひ積極的に参加し、発信してほしいですね。

―地域ケア会議には医師を始め、多くの医療系職種も参加されます。その中でもケアマネが積極的に発信すべきということですね。

医師を始めとした医療系職種は、診療や看護の視点から情報を伝え、提言します。それに対し、ケアマネを始めとした介護職種は、生活を支えるプロの視点から声を上げればよい。その両輪があってこその地域包括ケアシステムです。

ちょっと話が脇にそれますが、福祉系の資格からケアマネになる人が多い現実を課題とし、「医療系のケアマネを増やすべき」との意見を言う人がいますが、必ずしも賛成できません。福祉系の資格でケアマネになった人は、生活全体を支えるプロとして、自分の知見に誇りを持ち、医療のプロと知恵を出し合うべきです。そのための場として地域ケア会議を存分に活用していきましょう。

そして、生活全体を支えるプロである以上、意識と活動の幅も介護保険の枠を超えてほしい。「介護保険サービスの利用は、活動と参加にとって役に立つ手段ですが、それだけで生きる意欲につながる」とは限りません。

利用者が生きる意欲を取り戻すためには、その生活に何が欠けているのか。家族友人との交流か娯楽か食か―。それを探る過程は簡単ではないでしょうが、何もケアマネ一人で考える必要はありません。それこそ、リハビリや訪問介護、あるいは生活相談員や民生委員など、地域のさまざまな立場の人、あるいは家族と連携し、チームでアセスメントすればよい。それを実現するためにこそ地域ケア会議があるからです。

繰り返しますが、地域の人が生きる意欲がわくようなプランをつくるためには、多職種によるアセスメントと、機能するケア会議が欠かせません。事業所が存在する市町村で地域ケア会議があまり機能していないなら、ケアマネが市町村に問題提起をしてください。生活を支えるプロとしての誇りを持ち、その知見を深め、活動の幅を広げる力を持っているはずですから。

―地域ケア会議というと、困難事例を検討する場として位置付けられているようですが。

もちろん、それも大切な役割です。本当に残念な状態ですが、虐待を受けているケースや貧困で身動きが取れない例が、結構、発見されるようになりました。そうした事例と向き合うには、介護職だけの力ではどうにもなりません。医療と介護との連携だけでも無理です。医療と介護、そして福祉との連携が不可欠と言えます。

このインタビューの続きはこちら→「主任ケアマネ=管理者で、事業所統合が進む可能性も

田中滋(たなか・しげる)
埼玉県立大理事長、慶大大学院名誉教授
専門は医療政策・高齢者ケア政策・医療経済学。1971年慶大商学部を卒業。75年には同大院商学研究科修士課程を修了し、80年に同博士課程単位取得満期退学した。77年に慶應義塾大学助手。その後、同大助教授を経て、93年から2014年まで慶大大学院経営管理研究科教授。15年からは同大名誉教授となった。18年には埼玉県立大理事長に就任した。
主な公職は、医療介護総合確保促進会議座長、社会保障審議会委員(介護給付費分科会長、福祉部会長、医療部会長代理)、中医協・医療機関の消費税負担に関する分科会長、大学病院のガバナンスに関する検討会座長、協会けんぽ運営委員長など。学会は日本介護経営学会会長、日本ヘルスサポート学会理事長、日本ケアマネジメント学会理事、医療経済学会理事、地域包括ケア研究会座長。

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