ケアマネを支える先進自治体 VOL.20
【世田谷区】ケアマネこそ理解し、受け止めてほしいLGBTQ(後編)
LGBTQ。「性的マイノリティ」といわれる人の総称です。近年、各地の自治体は、その支援に本腰を入れ始めていますが、他に先駆けて支援に乗り出していたのが東京都世田谷区です。その世田谷区の人権・男女共同参画課の平田根久係長は「ケアマネジャーこそ、性の多様性やLGBTQへの理解を深めてほしい」と力を込めます。平田係長にお話しをうかがいました。
世田谷区 生活文化政策部 人権・男女共同参画課
人権・男女共同参画担当係長 平田根久さん
ケアマネも受講必須の研修を実施
―LGBTQへの理解を深めるため、特に介護・医療関係者向けに実施している取り組みはありますか。
最近の取り組みとして、福祉人材育成・研修センター(社会福祉事業団)で、「人権の理解促進研修・セクシャルマイノリティ研修」があります。
対象者は地域包括支援センターの職員やケアマネジャー、高齢者分野の相談員、サービス提供責任者、高齢・障害分野の介護職員や相談員、障害分野の支援職員、保健師、看護師、医療職種です。
残念ながら、介護や医療などの現場には、まだLGBTQに対する誤解が残っています。ですので、先に挙げた職種の人には、必ずこの研修を受講してもらっています。
世田谷区が作成したパンフレットとバッジ。
レインボーカラーは世界的に性の多様性のシンボルとして使われている。
―どのような研修を行うのでしょうか。
性の多様性に関する基礎知識をおさらいした上で、LGBTQに関して現場職員が直面すると予想される具体的な課題を取り上げ、配慮や支援方法を考える内容となっています。
―具体的な課題とは?
例えば支援の「形」に関する課題があげられます。
―支援の「形」ですか。
言い換えると「同性介護がいいのか、異性介護がいいのか」ということです。
「体の性」が男性で、「表現する性」と「自認する性」が女性というトランスジェンダーの場合だと、顔つきや体は男性なのに、服装や口調は女性ということになります。
しかし、高齢のトランスジェンダーの場合、長年、自分の気持ちを押し殺してきた習慣で、男性のように装い、男性のように話す方が少なくありません。それでも真に表現したいのは女性としての自分ですから、「外からは見えない下着だけは赤い女性物を着ける」という妥協をしている方もいます。
そして、その様をいきなり目にした介護職員やケアマネジャーは、同性介護がいいのか、異性介護がいいのか、悩んでしまうことがあるようです。
「性の意識」を気に掛ける前に、信頼関係を築く努力を
―これは難しい課題ですね。
そうですね。もっとも研修では、そこで悩む前に利用者と信頼し合える関係を築くことこそが大切と伝えています。「性の意識」がどうあろうと、信頼関係さえ築ければその人にあった介護を提供するのは、それほど難しくないはずですから。
相手が性的マイノリティだからといって、変に身構える必要はありません。繰り返しますが、LGBTQは個性の一つなのですから。
ただし、信頼関係を築き、維持していく上で注意してほしいポイントもあります。相手からLGBTQであることをカミングアウトされた時の対応です。
カミングアウトされた際の注意点は…
―その際のポイントを教えてください。
まずは「打ち明けてくれてありがとう」と伝えることで、その人の思いを受け止め、寄り添う姿勢を示すことが大切です。
その上で「何に困っているのか、何か力になれることはないか」を聞いてみましょう。
それから、カミングアウトされた事実をほかの人にもらす「アウティング」は、絶対にNGです。同様にLGBTQと思われる人にカミングアウトを強要することもNGです。
LGBTQを受け入れる素地を持った地域包括ケアの基本理念
―今後、貴区では介護・医療の関係者のLGBTQへの理解を深めるため、どのような活動を進められる予定ですか。
介護や福祉を担当する部局に対し、お願いしていることがあります。2024年度から2026年度を対象とした第9期の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画を立案するにあたり、LGBTQへの支援を強く意識してほしい、ということです。
もっとも、現段階の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画でも、基本理念として「可能な限り住み慣れた地域で個人の尊厳やその人らしい生き方が尊重され、自立し安心して生活できる」を掲げてはいますが。
―この基本理念は…。
そう。これは地域包括ケアの基本理念です。
言い換えるなら、地域包括ケアの基本理念は、LGBTQを個性として受け入れる素地を十分に持ち合わせているといえるでしょう。
なお、当然のことですが、LGBTQを個性として受け入れるからと言って、男女の性差に基づく考え方を持った人たちを否定するわけではありません。そうした考え方を大事にすることだって個性の一つですから。
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