ケアマネジメントスキルアップ講座 VOL.15
2015年度 介護保険制度改正の影響は?(後編)
ケアマネジャーに求められるスキルや知識について、その分野の専門家からのアドバイスを紹介する「ケアマネジメントスキルアップ講座」。今回は介護保険の制度改正、報酬改定の影響と、この改正・改定を受けてケアマネジャーに求められることについて、東京都武蔵野市健康福祉部の笹井肇部長にお話を伺っています。利用者負担割合の変更など制度改正の影響についてお伝えした前編に続き、後編では介護報酬改定による影響について取り上げます。
加算が増えて報酬体系がますます複雑化
今回の報酬改定では、基本報酬部分が引き下げられましたから、今後の地域包括ケアのあり方や、市町村が進めていく総合事業の委託単価への影響があると考えています。また、今回は中重度者と認知症高齢者への対応の強化や、リハビリテーションの推進が基本方針として打ち出されました。これに伴って、さまざまな加算が創設されています。ケアマネジャーはケアプラン作成にあたって、どの事業所がどの加算を算定しているのか、これまで以上にしっかり把握することが求められます。
加算が増えたことで、利用者も、ケアマネジャーや事業者も、ますます報酬の仕組みを理解しにくくなりました。利用者と直接、接するケアマネジャーや事業者は、説明を求められることが多くなると思います。当市では、改定関連の資料を配付するだけでなく、繰り返し事業者向けの説明会を開催し、市としての方針と共に説明。さらに、Q&A票での質問も受け付けて、グレーゾーンについては文書で回答しています。
また、ケアマネジャーの業務支援のために、平成13年から「武蔵野市ケアマネジャーガイドライン」を発行しています。これは、当市で取り組んできたケアマネジメントの理念や帳票類の利用方法等を解説したもの。現在、改正内容を盛り込んだ第4版を作成中です。ケアマネジャーが報酬の仕組みを十分理解できていないと、不適切なケアプランによって、利用者の負担を増やしてしまうこともあります。そうならないよう、ケアマネジャーやサービス事業者が、制度改正や報酬改定について十分理解できるよう支援するのは、保険者として当然の役割です。分かりにくい点は保険者にどんどん質問して、きちんと理解してほしいと思います。
中重度者シフトで軽度者対応は大丈夫か
前述の通り、今回の報酬改定では中重度者への重点化という方針が打ち出されました。この方針自体は、制度の持続可能性を考えると、当然の流れだと思います。しかし気になるのは、それで軽度者向けの自立支援がおろそかにならないかということ。今回の改定関連の通知には、「自立支援」という言葉がありませんでした。平成18年度に導入された介護予防、自立支援の成果が総括されないまま、「軽度者には多様なサービス主体で対応する」という方針に転換されたことには、正直なところ、疑問を感じています。
特に、予防中心に自立支援に向けたケアの提供に力を入れてきた事業者は、これでは報われません。今までの努力が評価されないまま、大幅な報酬引き下げにあい、運営方針の変更を迫られているからです。経営効率で考えれば、利用者を軽度者から中重度者にシフトした方がはるかにいい。しかし、事業者が一斉に中重度者にシフトした場合、はたして軽度者を支えることができるのか。そこを危惧しています。
当市の場合、予防給付の一部が移行される総合事業を今年の10月から開始しますが、現行の訪問介護・通所介護相当のサービスについては水準を下げないことを「基本方針」として市民に約束しています。また、住民主体による支援等のいわゆる「通所型サービスB」に関しては、すでに実施中の「不老体操浴場開放」(※1)、「地域健康クラブ事業」(※2)など、さまざまな予防事業を活用して対応していきます。
ただ、保険者としては、住民主体のサービスなどについて、質の担保が必要です。そこで当市では、市独自の研修を受講した上でサービス提供してもらう仕組みづくりを進めています。そうして揃えたサービスを市民のみなさんが利用した際、隣の家にはプロの介護職が来ているのに、なぜ私のところには住民ボランティアが来るのか、という不満は出ないか。そのあたりもよく見極めながら取り組んでいきたいと考えています。ケアマネジャーは、サービス提供エリアの総合事業開始の時期や内容などについても、把握しておくほうがよいでしょう。
- ※1 武蔵野市内の浴場やコミュニティセンター等で実施している体操教室。60歳以上が対象。
- ※2 武蔵野市内のコミュニティセンターなどで実施している生きがいと健康づくりのプログラム。60歳以上が対象。
- 笹井 肇 氏のご紹介
- 1980年、武蔵野市役所入庁。1998年より介護保険準備室主査として、介護保険制度導入準備に携わる。その後、市民協働推進課長、介護保険課長、防災安全部長等を経て、2013年4月より現職。利用者を支えうる介護保険運営のため、事業者と密に協働する武蔵野市を牽引する。全国を回って講演活動を行うとともに、国に対しても積極的に意見を上申していく行動派行政マンとして知られている。厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護保険の保険者機能強化に関する研究委員会」などの委員を歴任、現在「地域包括ケア『見える化』システム構築・運用業務に係る工程管理支援等検討委員会」委員。主な著書に『医療の危機に抗して 新しい地域医療の戦略』(共著:医歯薬出版株式会社)、『地域包括ケア サクセスガイド』(共著:メディカ出版)などがある。
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