白木裕子の「実践! 仕事力の磨き方」 VOL.04
何がポイント?在宅での看取りへの対応(後編)
日本ケアマネジメント学会副理事の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回の在宅の看取りへの対応の後編では、看取りを進める上で深く関わる医療関連の加算の考え方や注意点をお送りします。
残念なターミナル加算の要件
昨年4月の介護報酬改定では、居宅介護支援でも、在宅での看取りを後押しするための加算が新設・拡充されたり、要件が変更されたりしました。
このうち、拡充された「退院・退所加算」や「入院時情報連携加算」は、それほど算定は難しくありません。積極的に要件に取り組み、算定を目指すべきでしょう。
一方、新設ということで注目される「ターミナルケアマネジメント加算」ですが、残念ながら、在宅では、なかなか算定は難しいでしょう。というより私としては、あまり算定は勧められません。
この加算の主な要件は次の通りです。
- 対象は末期がんで死亡した利用者
- 24時間連絡がとれる体制を確保し、必要に応じて指定居宅介護支援を行うことができる体制を整備
- 利用者またはその家族の同意を得た上で、死亡日及び死亡日前14日以内に2日以上在宅を訪問し、主治の医師らの助言を得つつ、利用者の状態やサービス変更の必要性等の把握、利用者への支援を実施する
- 利用者の心身の状況等の情報を記録し、主治医やケアプランに位置付けた居宅サービス事業者へ提供する
400単位を算定できる加算ですから、要件のハードルが高くなるのは、やむを得ないでしょう。しかし、それでも「本人や家族に、事前に同意を得る」という要件は、現場の実情を思えば、強い違和感を覚えます。
この要件は、いわば「利用者の死が目前に迫っています。だから、われわれも重装備で臨みます」というメッセージを、家族に伝えるようなものです。肉体的にも精神的にも重い負担を強いられている家族に、そのようなメッセージを伝えるのは、やはり違和感を覚えるのです。
実際、「ターミナルケアマネジメント加算」を算定する居宅介護支援事業所は、全体の0.1%にも達しません。0.01%とか0.02%とか、そんな実績しかないのです。私と同じように違和感を覚え、算定をためらうケアマネが多いのでしょう。
現場の実情を思えば、次の改定では「事前の同意」に関する要件を外してほしい。さらに対象も末期がんに限らず、がんではない人のターミナルケアまで拡大してほしいですね。そうなれば、本当の意味で在宅での看取りを後押しできる加算になるでしょう。
入院時加算の要件の見直しで、「お行儀のよくないケアマネ」が増えた
別の意味で注目しなければならないのが入院時情報連携加算(I)です。この加算は、要件が少し変わりました。情報提供のタイミングが7日以内だったものが3日以内に短くなった一方、これまでは医療機関での面談に限定されていた情報提供の方法が、メールやファックスなどでも認められることになりました。
この変更が、ちょっとお行儀のよくないケアマネを増やしています。具体的には、一面識もない医師や、一度も行った事がない医療機関にファックスだけ送り付けるようなケアマネが出始めているのです。
もちろん、何度となく入退院を繰り返している利用者が、改めて入院したようなケースであれば、病院側もケアマネ側も、お互いをよく知っています。ファックス一枚・メール一通の連携もあり得るでしょう。
ただし、十分な関係性がない医療機関に対し、「いきなりメールやファックスを送り付けるだけ」という対応はありえません。
考えてみてください。ケアマネであることだけが記されたファックスやメールを医療機関が信頼し、連携を図ろうとするでしょうか?そんな雑な連絡をしてくる「ケアマネかもしれない人」に、大切な患者の個人情報を伝える医療機関があるでしょうか?
連携実績のない病院や医療機関とは、面談を!
やはり、連携の実績がない病院や医療機関には、電話でアポを入れた上で、都合のいい日時を調整し、面談すべきです。
どうしても面談が難しい場合は、ファックスを送る旨を連絡した上で、届いた後には連絡を折り返しもらうようお願いしましょう。個人情報を扱っているという意識をしっかり持ち、慎重に情報のやり取りをしなければならないのです。
そもそも、この加算は「利用者のために医療機関と情報を共有し、有効に連携する」ことを後押しするためのものです。面識もない医師や医療機関に、メールやファックスをいきなり送り付けるだけで、その目的が達せられるとは思えません。
雑な医療との連携が、経営の危機を招く?!
さらにいえば、「連携の実績も、面識もない医療機関に、メールやファックスをいきなり送る」といったことを繰り返していると、事業所の経営にも悪影響が出る可能性すらあります。
医療機関は、それぞれの居宅介護支援事業所からどのような形での情報提供があるか、ちゃんと見ています。雑な連絡ばかりする居宅介護支援事業所の「悪評」は、病院や医療機関の関係者の間で、あっという間に定着してしまうでしょう。
そうなると今度は、その医療機関を使った利用者に、その「悪評」が伝わる恐れも出てきます。例えば、退院を前に看護師や医師から「もうすぐ家に帰れますね!でも…あの事業所が担当だからちょっとねえ…。何かあったらすぐに病院に来てくださいね」などと言われた利用者の気持ちを想像してみてください。おそらく、その瞬間に、居宅介護支援事業所への信頼は失われるでしょう。
私も事業所を経営していますから、事務は少しでも効率化したいという気持ちは痛いほど分かります。入院時情報連携加算(I)の要件の変更にしても、現場の負担を少しでも減らしたいという狙いがあったことも事実です。ただし、効率化を進めた結果、「利用者の生活を支える」という大目的に悪影響が出るようでは話になりません。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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