白木裕子の「実践! 仕事力の磨き方」 VOL.06
認知症の人への対応のポイント(後編)
日本ケアマネジメント学会副理事の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、新しい認知症施策の基本方針のポイントや、認知症の人と向き合う時のコツなどを紹介します。
予防には適度な運動が大切。ですが…
2019年6月、国は新しい認知症施策の基本方針として「認知症施策推進大綱」を決定しました。最大の特徴は、認知症の「予防」にも力を入れる方針が示されたことです。
もちろん、認知症を予防しようとすること自体は悪いことではありません。ただ、少し気になることがあります。「運動が認知症の予防に有益」という面ばかりが強調されている点です。
適度な運動が認知機能によい影響をもたらすことは事実です。とはいえ「バリバリ運動し続ければ、認知症にはならず、生活の不活発は解消される」というわけではない。
特に運動の習慣がなかった人の場合、いきなり「さあ、体を動かして!がんばって!!」と促されたところで、単に苦痛なだけです。
大切なことは「機嫌よく生活する」こと。そのためにも傾聴を
むしろ現場のケアマネジャーは「日々、機嫌よく過ごしてもらうこと」を心掛けるべきでしょう。私の経験に照らしても、楽しく、ほっこりと生活している人は、認知症にもなりにくいように思います。仮に認知症になったとしても、機嫌よく過ごすことは、本人の生活の質を保ち、介護している人の負担を軽くする上でも大切です。
機嫌よく過ごしてもらうためにケアマネがやるべきことは、利用者が好きなことや得意なこと、昔がんばっていたことを、しっかり傾聴することです。
中には同じ話を何度も繰り返し話す人もいるでしょう。そういう人に対しては、時間が許す限り、何度でもその話をお聞きしましょう。
当たり前のことですが、何度も繰り返す話には、利用者の深い思いや人となりが込められています。その人らしい支援を実現するためにも、繰り返される話には、きちんと耳を傾けましょう。
利用者が過ごしてきた土地の文化と歴史を把握して
傾聴する際、意識しておいた方がよいことがあります。高齢者の間でも、世代によって意識や価値観に大きな違いがあるということです。例えば、太平洋戦争を体験した「戦中派」と、いよいよ後期高齢者になろうとしている「団塊の世代」は、同じ日本人とは思えないほど違います。
さらに言えば、同じ世代であっても、暮らしていた場所が違えば、経験してきたことは異なります。同じ「団塊の世代」でも、都市部で働いてきた人と、農村部で暮らしてきた人とでは、生活スタイルも考え方も、まるで違います。
それだけに利用者が生きてきた時代と土地の文化は、できる限り把握しておきましょう。そうした情報があれば、話の内容にあわせてうまく質問や相槌を挟み、本人の深い思いや願いを聞き出すことができるかもしれません。
もっとも戦時中の話は、思い出したくもないような話につながることがあります。本人から積極的に持ち出さない限り、無理に話を広げないように気を付けたほうがいいでしょう。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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