ケアマネのための身守り講座 VOL.1
認知症の人の暴言などへの対応
さまざまなハラスメントが横行する介護の現場。もちろんケアマネジャーも無関係ではありません。「ケアマネのための身守り講座」では、日本ケアマネジメント学会副理事長で、ケアマネとしても20年近くのキャリアを持つ白木裕子先生が、ハラスメントの発生を防ぎ、いざという時に身を守るための術を伝授します。
第1回のテーマは「認知症の利用者からの暴力や暴言から身を守る」。白木先生は、「認知症の方でも、原因もなく急に怒り出すことは、まずありません。不安や不満、恐れなど、負の感情が積み重なる背景がある」と強調。まずは冷静なアセスメントこそが大切と指摘します。
- 暴言や暴力を生む「つらい状況」を見極めて!
- ハラスメント予防その1-体調面での課題や変化の影響を探る
- ハラスメント予防その2-抗認知症薬などの種類・量の把握
- ハラスメント予防その3-認知症の人への対応の基本を守る
- いざという時は地域包括や医療との連携を
暴言や暴力を生む「つらい状況」を見極めて!
「認知症の人の中には、突然、暴力をふるったり、暴言を投げつけてきたりする人がいる」。中には、そう考えるケアマネがいるかもしれません。
まず忘れてほしくない事実があります。暴力を振るったり、暴言を吐いたりする人は、その人なりに、とてもつらい状況に追い込まれているということです。この点は、認知症の人でも同じです。
ですので、認知症の利用者からの暴力や暴言を避けるには、その背景に何があるのかをしっかり見極め、対策を講じるのが最も有効です。
ハラスメント予防その1-体調面での課題や変化の影響を探る
背景を見極める上でポイントとなるのは、体調面での課題や変化がないかを探ることです。
例えば下痢が続いているとか便秘気味であるとか。あるいは極端に不眠が続いているといったことも暴言や暴力の原因になりやすいですね。
中でも、お通じのトラブルは、暴言や暴力につながりやすいといえるでしょう。例えば、次のようなケースがありました。
利用者の便秘が治らないことを不安に思い、家族が医師に相談したところ、緩下剤が処方されました。ところが家族は、便秘が解消した後も、利用者に緩下剤を飲ませ続けたのです。その結果、今度は便失禁が始まりました。そして、便失禁があるたび、家族は形相をかえて怒るようになりました。その家族の形相と対応にストレスを感じた利用者は、ことあるごとに家族の手をひどく強く握るようになってしまったのです。
ちなみに、この件は薬の服用回数を抑えることで、あっさり解決しました。
ハラスメント予防その2-抗認知症薬などの種類・量の把握
抗認知症薬の量や種類の変化がトラブルの原因になることもあります。
このトラブルを防ぐには、医療との連携を密にすること。具体的には、医師や薬剤師、看護師に、薬の種類や量が変わった時、必ず連絡するようお願いしておくことがポイントです。
認知症への対応方法などを勉強しておくのも重要でしょう。認知症の種類によって症状の現れ方は違いますし、対応方法も異なります。アルツハイマー型認知症と思ってレビー小体型認知症の人に接すれば、それだけでトラブルの種をまくようなものです。
自分が担当する利用者が認知症である場合、どんなタイプなのか―。リスクを回避するためにも、こうした情報はきちんと把握しておきましょう。
ハラスメント予防その3-認知症の人への対応の基本を守る
もう一つ、忘れてはならないことがあります。「認知症の人と接する上での基本が守れているかどうか」ということです。
例えば、明るく元気な声で、利用者の後ろから「コンニチワー!」と声を掛けるようなことはしていませんか?
認知症の人は、急な情報の整理が苦手です。どんなに明るく楽しい声であっても、急に話しかけられると、それだけで混乱し、強く拒絶することもあるでしょう。
「相手の視野にゆっくり入ってから、穏やかに声を掛ける」など、認知症の人への対応の基本を守ることは忘れないようにしましょう。
いざという時は地域包括や医療との連携を
それでも、時には原因も分からないまま、暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりすることもあるでしょう。
そういう場面に出くわした時は、とにかくいったん引くこと。部屋から出るなどして、相手の視界から外れましょう。なかなか状況が収まらない場合は、その日は退散し、出直すことも検討しましょう。
それでも暴力や暴言が収まらない場合は、地域包括支援センターや医療機関とも連携し、善後策を練りましょう。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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