白木裕子の「実践! 仕事力の磨き方」 VOL.40
福祉用具の「選択制」―知っておくべきこと、そして心がけるべきこと(前編)
日本ケアマネジメント学会副理事長の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、4月から一部の福祉用具で貸与か購入かを選べるようになった制度改正(選択制)に関し、ケアマネジャーが心がけるべきポイントなどについて、白木先生がアドバイスします。
4つの用具で始まった「選択制」
2024年度の介護報酬改定に伴い「杖」「多点杖」「固定用スロープ」「歩行器」では、借りて使うか、買って使うかを選べるようになりました。
ご利用者がこの制度を活用する時、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員には「選択するために必要な情報の提供」や「医師や専門職の意見、利用者の身体状況などを踏まえた提案」が求められます。また、「長期利用が見込まれる場合は販売の方が利用者負担額を抑えられること」や「短期利用が見込まれる場合は適時適切な福祉用具に交換できる貸与が適していること」と説明する必要もあります。
「福祉用具を購入する」ことのリスク
この「選択制」、残念ながらあまり前向きには評価はできません。介護保険制度の枠の中で、簡単に用具を買い取ることができる仕組みができてしまった点が課題と考えます。
現場のケアマネジャーであれば誰もが認識していることですが、ご利用者の身体状況は、日々変わり続けています。「杖を使っていた人が数カ月後には歩行器を使うようになり、一年もしたら車いすのユーザーになった」といった変化は、現場ではごく見慣れた光景です。このような身体の変化に応じて福祉用具を使い分けていくには、柔軟に用具を交換できる貸与こそが適しています。
また現在ある多種多様な福祉用具は、ちょっとした変化に応じ、次々と用具を変更できる貸与を前提に開発され続けてきたものです。その福祉用具を買うということは「ちょっと体の状態が変化するだけで、使いにくくなってしまう用具を購入する」ということに他なりません。この一点だけでも、販売という選択肢は前向きには評価できません。
さらに、ご利用者が福祉用具を購入してしまうと、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と関わる機会が減ってしまうという課題もあります。特に福祉用具のみしか使っていない人が用具を購入すると、ケアマネジャーが関与するための機会は事実上、失われます。それが独居の認知症高齢者だったら…と、考えてみてください。福祉用具が貸与から販売になった、ただそれだけで、1人の高齢者が社会から孤立し、地域に埋もれてしまう可能性が高まるのです。当然ながら、認知症は悪化し、要介護度は重くなっていくでしょう。
福祉用具の販売とは、介護保険への「入口」を狭め、利用者の要介護度や認知症の悪化を招きかねないリスクをはらんだ施策なのです。
そもそも、レンタルだと不要になれば返却すればいいのですが、購入の場合は廃棄をせざる得なくなります。SDGsの観点に立てば廃棄は適切といえるでしょうか。さらに廃棄にも費用が掛かることまで思い合せれば、購入という選択には至らないのではないでしょうか。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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