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認定ケアマネジャーについて知りたい
企業と連携し、介護離職を防ぐ「産業ケアマネジャー」-認定ケアマネが活躍する現場

企業と連携し、介護離職を防ぐ「産業ケアマネジャー」-認定ケアマネが活躍する現場写真左から:泉さん、長田さん

制度発足から約20年の歴史を持つ認定ケアマネジャー。すでに2000人余りがその資格を持ち、さまざまな現場で活躍しています。その中でも、特徴的な取り組みを推し進めているのが、42カ所の居宅介護支援事業所を運営する東京海上日動ベターライフサービス(BLS)です。同社では、認定ケアマネジャーの資格を持つ人の中から「産業ケアマネジャー」を選出し、企業と連携しながら、仕事と介護の両立支援に乗り出しています。同社で産業ケアマネジャーとして活躍する長田裕美子さんと泉洋枝さんにお話しをお聞きしました。

最大の特徴は「家族への支援」を目的とすること

―「産業ケアマネジャー」の概要と狙いを教えていただけますか。

長田:一言でいうと、仕事と介護の両立を支援する役目を担う相談援助職です。

泉:「産業ケアマネジャー」は、介護離職を防ぐだけでなく、仕事のパフォーマンスを維持してもらえるように、個別の介護に関する相談に応じるほか、仕事と介護を両立するためのアドバイスも行っております。

「産業ケアマネジャー」が仕事と介護の両立支援を行う際の、業務のおおまかな流れは次の通りです。

1.企業から業務を受注後、厚生労働省が公表している「仕事と介護の両立支援対応モデル」を基に、企業の取り組み・支援メニューを確認。また、育児介護休業法に基づく企業の介護支援制度、福利厚生制度の内容も確認
2.産業ケアマネジャーの導入に至った背景などを確認
3.相談者(従業員)に事前個別相談シートの記載を依頼
4.事前個別相談シートを基に相談内容を確認。 その上で産業ケアマネジャーが回答内容、情報提供資料準備
5.面談の実施。相談時間は1人50分程度
6.事後アンケートを実施
7.相談内容を報告書にまとめ、企業に提示

最大の特徴と言えるのが、通常、ケアマネジャーは利用者本人に焦点を当てますが、「産業ケアマネジャー」は、あくまで介護者、つまりご家族の支援をすることを目的としているという点でしょう。「産業ケアマネジャー」は、もともと持っている介護保険の専門知識だけでなく、契約した企業の介護支援制度なども習熟した上で、相談支援に取り組みます。

―ご利用者への支援とご家族への支援は、似ているようで、まったく違う役割と思います。

長田:その通り、まったく違います。だから、実際にこの仕事をするには社内での教育・認定が不可欠ですし、認定を受けた後も2日の研修受講が必須となっています。

泉:さらにいうなら、この仕事に就くケアマネジャーを「認定ケアマネジャー」か「主任ケアマネジャー」の資格を持っているスタッフに限定しているのは、特に、相談援助技術に長けた人に取り組んでほしいという思いがあるからです。ちなみに弊社では42カ所の居宅介護支援事業所を運営しており、151名のケアマネジャーがおりますが、その内、認定ケアマネジャーは、退職者を含め37名(現在27名)が資格を取得しております。その中から選出した4名が産業ケアマネジャーとして活躍しております。

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ご利用者の担当ケアマネジャーと連携し、ケアプランを工夫することも

―御社が産業ケアマネジャーの取り組みを開始したのは、いつからでしょうか。

長田:きっかけは、社長の中村一彦の思いを基に、私と当社のケアマネジャーとして活動していた石山麗子さん(※現在は同社顧問、国際医療福祉大学大学院教授)が企画した、仕事と介護の両立のための相談支援でした。ある企業様で試行的な取り組みを実施したのは2016年2月と7月でしたが、この時は、用意した12枠がすぐに埋まってしまいました。そこで、この相談のニーズの高さに改めて気づき、そのうち産業ケアマネジャーという仕組みとし、運用を開始したものです。

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―なぜ、長田さんは、この取り組みに着手したのでしょうか。

長田:いろいろと理由はありますが、やはり、現場で無力感を感じたことが大きいですね。特にご家族が困っている時、介護支援専門員としてできることは限られています。だからこそ、ご家族の仕事と介護の両立を支援できる取り組みを進めたいと思ったのです。

―これまでの取り組みの中でも、印象的だったケースについて教えてください。

長田:これまた、たくさんありますが…。あえて挙げるとすれば、ご家族がお支払いしていた介護の費用を5分の1未満に減らすことができたケースでしょうか。

―どういうケースだったのでしょうか。

長田:様々な介護保険サービスを使っていることで、区分支給限度基準額を大幅に超えてしまっていた方がいました。だいたい数十万円ほどは、超過して支払われていたように記憶しています。ご家族も「仕事が終わったあと、自分たちも介護をしているのに、なぜ、こんなにお金がかかってしまうのか。なんとかできないのか」と悩まれていました。

そこで、そのご利用者を担当されているケアマネジャーさんと相談し、一緒にケアプランを見直しさせていただきました。その結果、介護サービスを区分支給限度基準額内に収めることができたのです。実際に支払う額は、月に7万円程度まで減ったと記憶しています。ご家族も「これなら十分に余裕をもって在宅介護を続けられる」と喜んでおられました。

―担当のケアマネジャーさんと連携することもあるのですね。

長田:もちろんです。産業ケアマネジャーも、担当ケアマネジャーも「よりよい生活を実現する」という目的は一緒ですから。

―遠距離介護の場合のご家族にも支援はなさるのでしょうか。

長田:あります。その場合でも、ご家族やご利用者、企業の情報をきちんと把握した上で、対応を一緒に考えます。中には呼び寄せ介護を検討する方もいます。特に認知症の方では、環境が変わることが、大きな悪化要因となってしまうこともありますので、例え「認知症独居」であっても、地域のつながりの中で生活できているなら、遠距離介護で両立することを勧める場合もあります。

なお、認知症のご利用者に限らず、何らかの対応をお勧めする場合は、それに伴うリスクを丁寧に説明しますし、相談先なども併せて紹介します。具体的には、最寄りの地域包括支援センターを紹介した上で、該当する自治体の支援策を調べ、どこに相談すれば、どのような支援が得られるかを細かく紹介します。

―長田さんは、立ち上げ以来、「産業ケアマネジャー」として活動されていますが、この活動に取り組むことで、ご自身のケアマネジメントは、どう変わりましたか。

長田:ご家族の心境やお立場に配慮した対応を考える上で、とても良い影響がありました。何よりよかったのは、「介護力のないご家族を、社会資源の一つとして捉えることのないように配慮する」ように変わった点です。

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経験の浅いケアマネジャーの育成担当としても

―ところで御社では、認定ケアマネジャーに合格した人の受験費用を全額、補助するなどの支援をしていますが、「産業ケアマネジャー」以外でも、認定ケアマネジャーをどのように活用されていますか。

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泉:「JCMミーティング」(ジュニア・ケアマネジャー・ミーティング)という研修制度で、入社して間もないケアマネジャーの育成を担ってもらう仕組みがあります。JCMミーティングは3カ月に1回、実施しており、認定ケアマネジャーが講師役を務めます。

また、講義だけでなく、ジュニアケアマネジャーの皆さんには、グループワークを実施し、考えてもらう機会を設けていますし、学んだこと、考えたことを言語化してもらうための発表も必須としています。

長田:この言語化というのが、新人のケアマネジャーには案外、難しいのです。ケアマネジャーとしての本来業務であるケアマネジメント能力に加えて、求められる能力ですので、ここはしっかりと研修します。

泉:弊社としては、こうした研修を実施し続けてきたからこそ、日本ケアマネジメント学会での演題数が13本にまで増えてきているものだと考えておりますし、その中でも3人が優秀賞を受賞しております。認定ケアマネジャーがいたからこそ、この教育体制が整えられたものだと思っております。

―長田さんの今後の抱負ついて、お聞かせください

長田: いまや、認知症が要介護となる原因で最も多くなりました。

認知症の人を介護するご家族には、様々な不安・葛藤が生じる上、精神的な負担が大きく、体調を崩してしまう事も珍しくありません。

介護をしつつも、ご家族の人生も大切にしてほしいと感じています。そういったご家族を少しでも支えていけるような、「産業ケアマネジャー」になっていきたい。今はそう強く思っています。

―御社としては、認定ケアマネジャーを今後、どのように活用する方針ですか。

泉:現在の活動に加え、今後は「地域への貢献」ができるように頑張っていきたいと考えております。具体的な取り組みとしては、認定ケアマネジャーが旗振り役を担い、地域のケアマネジャーをとりまとめて、学会発表を行うことなどができればと考えております。

また、勿論、地域における認定ケアマネジャーの数を増やすことにも寄与していくと共に、認定ケアマネジャーと共に、地域のケアマネジメントの底上げを目指して、頑張っていきたいと考えている次第です。

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