在宅・施設でのフレイル・低栄養の発見と予防
ご利用者様と一人ひとりにあったケアプラン、環境調整を日頃より心がけているケアマネジャーに大変参考になる在宅訪問クリニックの先生からの事例をお伺いしました。患者様はもちろん、そのご家族や、一緒に介入する医療・介護従事者の方たちにも、「一人で戦っている孤独感」を感じさせないことがポイント。思いを傾聴し、情報を細かに共有し、チームとして一丸となって同じ方向へ歩んでいけるよう願っています。
訪問診療とは、病院に来る患者様ではなく、自宅や施設で生活している患者様をこちらから訪問して体調管理をする医療のことを指します。
訪問診療の介入をスタートする時、歩行力の問題、認知機能の問題などにより、通院がしにくくなってきたという背景を抱えている方が多くいらっしゃいます。ご年齢により体力は徐々に低下することは自然なことですが、生活の仕方が変わってきたことによる変化ということもあります。例えば、口腔内の環境が悪くなり食事は柔らかいものばかりになった、スーパーに買い物に行けなくなり、宅配弁当にしたが好みが合わず食事量が減った、一日寝てばかりで空腹感がなくなり1食しか食べないなど、生活の変化、栄養状態、筋力・体力の低下は、密接に関連しています。

自分で生活の変化があったと気づいていても、その対応をどうしていいかわからないという方も多く、ご家族も「そう言われれば・・・」と変化に気づいていない場合もあります。訪問開始時に、体重や体形の変化を確認、食事を誰が用意しているか、誰とどこで食べているか、食べにくいと感じるものがないか、甘いものが好き・しょっぱいものが好きなど好みもお聞きし、その患者さんの体を支える栄養がどのように摂取されているのかを把握します。
年単位で歯医者さんに行けていない方は訪問歯科の導入をお勧めし、口腔環境の調整をスタート。味が感じにくくなり食の好みが変わった方は、内科的な疾患や微量元素の欠乏などがないかを確認、家に一人の時間が長い場合、椅子に座りっぱなし、食事も味気なく感じる方はデイサービスなどの利用で、人との交流を進め、体を動かし、誰かと一緒に食事をする機会を作ってみる。そんな工夫で少しずつ栄養状態が改善すると、体もまた変わってくるということをよく経験しています。

当クリニックに併設しているグループホームでは、18名の認知症の患者様が生活されていますが、皆様食の好みも様々で、家ではこんなに食べてなかったよという方も、逆にもっと食べていたから足りない、という方もいらっしゃいました。繊維質のお野菜は食べずに残す方も多く、便秘になりやすくなるなど課題を多く感じました。また、一つのトレイに入っているお弁当スタイルだったため、見た目にも飽きやすく、満足しにくいことも影響している様子でした。管理者と相談し、半調理型に変更、小皿を使って「家で食べる食事」を意識し、食事環境を変えたところ、利用者の皆様からも好評を得られ、全体的に食事を残す量が減りました。「食の楽しみは生きる楽しみ」であり、美味しいと思って食べてくださることが、体を動かす原動力にもなってくれると思っています。
認知症の患者様は、記憶をとどめておくことが難しく、環境の変化で不安が募りやすいため、規則正しい生活リズムを続けていくことが認知症の進行予防にもつながりますが、変わらない毎日を過ごす中でも、四季折々の行事に合わせ、土用の丑の日にはウナギのかば焼き、敬老の日は蛤のお吸い物、クリスマスはケーキの差し入れなどを行い、非日常もともに笑いあって美味しい・楽しいと思ってもらえる施設を目指しています。

先日より、当クリニックでも栄養士さんに月に1-2回来ていただき、自宅や施設でうまくお食事が管理できない方の相談に乗っていただくようにいたしました。医師が聞き取れなかった詳細な食事の様子や、患者様の食事の好み、疾患による制限がある中でもできる工夫など、本当に多くの気づきと学びを得られています。施設の利用者様にどんな食事が好きかゲームをしていただいた時は、あっさり味の和食を好むだろうという予測が全くはずれ、「大好き」にラーメン、餃子、ピザトースト、オムライス、エビフライ、ショートケーキなど、若者が好みそうなものが多く、煮物や魚料理などは「普通」と答えた方が多かったのが衝撃的でした。患者様の好きを知ることが、食事環境の改善のスタートに立つことに改めて気づかされました。そうやって、栄養士さんからいただいた情報を患者様にかかわるすべての方に共有し、ご本人にとって苦痛でない楽しい・美味しい食事ができるようになると、栄養が少しずつ体に取り込まれ、筋力や体力の改善にもつながるという成功体験もありました。
在宅の現場では、病院とは違い、栄養バランスが完璧な食事をとり続けることは難しいことだと思いますが、楽しく食べることを意識すると選択肢の幅は広がり、食事環境の調整もしやすくなると思います。一人ひとり、生活環境や家族背景、疾患なども違いますので、医療・介護のサービスの介入がある方は、ぜひ相談してみることをお勧めいたします。特に通院先がないという方も、近年痩せてきた、歩き方が変わってきたという方は、お近くの医療機関への相談もご検討していただくとよいかと思います。

- 平田 沙和(ひらた さわ)
- 大分大学医学部卒。東京で研修医をスタート、呼吸器内科専攻。
都内の訪問診療のクリニックで数年勤務し、2021年より現在のクリニックに在籍。
2024年から院長就任。好きな言葉:「感謝の気持ちを忘れずに」
患者様に寄り添う方法が無限大にある在宅医療の奥深さに触れ、日々経験を積んでいます

