vol.1 渋谷区
介護予防=運動という高齢者の意識をもっと“食”に向けていきたい
地域包括ケアの時代を迎え、自治体の役割は重要性を増しています。
平成29年度末までに、全ての区市町村で「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」を開始しなくてはならないため、要支援者対象の訪問介護、通所介護の総合事業への移行が進んでいます。
介護予防で重要な役割を果たす“食”の支援についても、今後は自治体がよりきめ細かく取り組んでいくことになります。
一方、平成30年度には居宅介護支援事業所の指定権者が区市町村に移行されることが決まっており、ケアマネジャーは今まで以上に区市町村と密に連携していくことになります。
そこで、このシリーズでは、総合事業などによる介護予防のサービス、中でも食支援の取り組みについて紹介。
ケアマネジャーは市区町村と連携しながら、どのように介護予防、食支援に取り組んでいけばよいかを考えていければと思います。
第1回目は、キユーピーの本社所在地でもあり、包括提携協定(S-SAP協定)を結んでいる東京都渋谷区の取り組みについて、渋谷区役所福祉部高齢福祉課課長の小野健一さんに伺いました。
高齢者の意識をもっと“食”に向けていきたい
年齢で区切らずあえて総合事業外での取り組みも
訪問介護、通所介護の介護保険予防給付から総合事業への移行には、渋谷区でも平成28年4月から取り組んでいます。
しかし、介護予防は本来、65歳以上から取り組めばいいというものではありません。
渋谷区では予防給付に代わる受け皿として、国基準相当のサービスや人員配置基準等を緩和した渋谷区独自の「サービスA」などを整備しました(表1)。
しかし、住民主体で提供する「サービスB」は、あえて総合事業としては行っていません。
総合事業は基本的に65歳以上が対象ですが(※)、年齢や要支援認定を受けているか否かなどで区切らず、対象を広げたかったからです。
たとえば、退職直後の60歳の方にも地域デビューし、参加してほしいと考えました。
渋谷区では、昨年から高齢者向けに作ったオリジナル体操の指導をするリーダー役を、元気高齢者に担ってもらう取り組みを進めています。
これは、高齢者が高齢者を支える、渋谷区独自の介護予防事業です。
こうした取り組みによって、早い段階から介護予防に取り組む意識を持ってもらえればと考えています。
(※)一般介護予防事業は65歳以上の方が対象。介護予防、生活支援サービス事業は要支援1、要支援2(40歳以上の2号も含まれる)、基本チェックリストで事業対象者と判定された方が対象
国基準相当サービス | サービスA | サービスC(※1) | ||
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訪問型サービス | 事業所数 | 区内43事業所 | 区指定49事業所 | - |
サービスの担い手 | 訪問介護事業所のヘルパー | 訪問介護事業所のヘルパー(区主催の約12時間の研修修了者含む) | ||
サービス内容 | ヘルパーによる身体介護、生活援助 | 身体介護を除く、自立支援・介護予防のための生活援助 | ||
自己負担の目安(1割負担の場合) | 例)週1回程度利用 1,332円/月 |
例)1回45分程度利用 209円/回 |
||
通所型サービス | 事業所数 | 区内25事業所 | 区指定34事業所 | 2事業所 |
サービスの担い手 | 通所介護事業所 | 病院、総合福祉センター | ||
サービス内容 | 1日を通して行う機能訓練 | 90分以上(※2)半日程度の機能訓練(入浴、昼食なし) | 3ヶ月間、自宅でも行えるリハビリの方法を学ぶ | |
自己負担の目安(1割負担の場合) | 例)週1回程度利用 1,796円/月 |
例)週1回程度利用 1,232円/月 |
現在のところ自己負担なし(以後変更有) | |
ケアマネジメント | サービスの担い手 | 地域包括支援センター 居宅介護支援事業所 |
||
サービス内容 | 総合事業の訪問型サービス及び通所型サービスのみ利用する場合のケアマネジメント |
(※1)平成29年1月からサービス開始
(※2)平成28年4月のサービス開始当初は120分以上の設定
介護予防ケアマネジメントへの移行はスムーズ
総合事業の開始に伴い、介護予防ケアマネジメントにも変更がありました。
総合事業への切り替えに際しては、一括での事業者説明会とした自治体もあったようです。
しかし渋谷区では、訪問介護事業所と通所介護事業所対象の説明会とは別に、ケアマネジャーと地域包括支援センター対象の説明会を行いました。
総合事業のサービスを組み込み、自立支援に資するケアマネジメントを実践してもらうには、地域包括支援センターやケアマネジャーにきちんと理解してもらう必要があったからです。
ケアマネジャーと地域包括支援センターを対象とした説明会では、総合事業のサービスの内容やその意図するところ、渋谷区が作成した「介護予防ケアマネジメント手順書」に基づいたケアマネジメントのやり方、請求などの事務手続などを伝えました。
ケアマネジャーに対しては、このほか、以前から年4回実施している渋谷区独自のケアマネジャー研修の場でも説明を行っています。
このように回を重ねて説明をしてきたせいか、大きな混乱なく移行されたものと理解しています。
適合者にはケアマネジャーから「サービスA」の提案を
総合事業は今後、ケアマネジャーの力を借りながら、利用者の状態に応じ、従来利用していた国基準相当のサービスから「サービスA」等への移行を進めていきたいと考えています。
その際、ケアマネジャーに活用してほしいのが、先に述べた「介護予防ケアマネジメント手順書」です。
これが、どのような利用者に「サービスA」が適しているかを客観的に判断する基準となります。
利用者は、たとえば通所サービスなら、通い慣れたサービスに引き続き通いたい、1日過ごせるサービスが良いと希望されるかもしれません。
それでもケアマネジャーには、短時間型でも介護予防の効果が上がる利用者には、「サービスA」をケアプランに組み込む提案していただきたいのです。
訪問サービスも同様です。
慣れたヘルパーさんに来てほしいという要望が多いことは承知しています。
そこを、利用者の意向に耳を傾けながらも、「サービスA」が適合する方には、ケアマネジャーから頑張って提案をしていただきたいのです。
これまでも、ケアマネジャーには伝えてきたことですが、ニーズに応じたケアプランの提案を引き続きお願いしていきたいところです。
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