vol.4 甲府市
活発な地域の住民活動を活かし
適切な情報提供で食支援、健康づくりを推進
人工透析への移行率が高く、「減塩」は切実な課題
こうして住民の活発な活動があるため、行政としてはより効果的な活動になるような情報提供を心がけています。たとえば管理栄養士から、塩分摂取量が多いなど、甲府市の食に関する課題を伝え、どのようなメニュー、調理の工夫で減塩できるかといった情報提供を行っています。高齢者であれば、低栄養の問題もありますので、食べやすく、エネルギーをしっかりと摂れるメニューの紹介もしています。
具体的には、年度初めに推進員の理事に参加していただく研修を実施しているほか、全推進員を対象にした研修も、年1回行っています。全推進員を対象にした研修では、その時点での問題意識を共有し、活動の意識統一を図ることを目的としています。この研修には、おおむね95%くらいの推進員の方が参加しています。
2016年度は、「新たな国民病、CKD(慢性腎不全)」、2017年度は「適塩のすすめ」という研修テーマを設定しました。というのも、山梨県全体として、腎臓病から人工透析への移行率が高いからです。減塩は切実な課題なのです。研修では、まず座学で講義を行います。身体の仕組みや病態については保健師からお話しし、課題についての食に関する問題や、改善するための献立、調理方法については、管理栄養士から伝えています。講義のあとは、調理実習に取り組んでいただきます。そして、それらを踏まえた上で、推進員の方に29地区で地域に普及していただくわけです。こうした取り組みは、推進員の活動が始まった当初、まだ数人のころから行っています。
食塩摂取量の平均値(20歳以上)
出典:平成26年 山梨県民栄養調査結果
こうした活動の成果を見ていくため、高齢者向けに推進員が開催した教室では、各地区でアンケートを実施しています。2017年度には、繰り返し参加している高齢者の方を対象に生活の変化について確認しています。年度途中なので、まだ集計ができていませんが、「バランスよく食べられるようになった」「野菜を摂る量が多くなった」など、教室参加後には食生活に変化が見られているようです。
本市では、地区担当の保健師21人と保健分野の管理栄養士4人が、こうした各地区での教室に出向いて身体や栄養についての専門的な話もしています。また、高齢者の場合、一人で食事をしていると食が細くなりがちであることから、「共食」を意識し、教室を仲間作りの場にしていきたいと考えています。アンケートをみると、「外出が増えた」「久しぶりに話をして楽しかった」「楽しく食事ができた」などの回答も目立ちます。
元職が管理栄養士等のケアマネジャーの専門的視点を共有
食支援での、ケアマネジャーと行政との連携という点では、直接的な関わりはそれほどありません。ただ、委託している地域包括支援センターでの取り組みになりますが、地域包括支援センターごとに開催している「ケアマネ交流会」で、食についてのテーマを取り上げたことがありました。その際、元の職種が管理栄養士・歯科衛生士のケアマネジャーが多数参加し、非常に有意義な交流会ができたそうです。一般に、食についてのアセスメントは、BMI(体格指数)や食事摂取量程度になりがちです。しかし、このときには咀嚼や嚥下、食材の堅さなどまでアセスメントした上でのケアプランの話になったとのことでした。ケアマネジャーは、元の職種によって専門分野が違います。今後は、元の職種で培った専門的視点を共有するための“つなぎ”をすることで、食の支援も含めた広い視野を持ったケアプラン作成を支援していければと、地域包括の主任ケアマネジャーが話していました。
ここまで述べてきたとおり、本市では、食の支援は高齢者に限定せず全年齢を対象にさまざまな取り組みを行っています。反対に高齢者という面から見ると、食に限らず、生活全般を支えるという視点で取り組むことが重要だと考えています。そういう意味で、これからも高齢者を含め、市民全体に対して、本市での食の課題、健康課題について伝えていきながら、自分の生活を振り返る機会を持ってもらえるよう働きかけていきたいと思います。
データで見る甲府市の高齢者
甲府市の直近の総人口は、2017年12月1日現在で約19万人。65歳以上の高齢者人口は、2017年3月時点で約5万4000人、高齢化率は約28.5%となっている。高齢者のうち、65~74歳の前期高齢者が46.7%、75歳以上の後期高齢者が53.3%と、後期高齢者が高齢者の半数を超えている。介護保険が始まった2000年時点と2017年時点の人口、世帯数を比べると、約19万3000人だった総人口は約19万人に減少。一方で、世帯数は約7万8000世帯から約9万2000世帯に増えている。ひとり暮らし世帯が増えるなど、1世帯あたりの人数が減っている計算である。2014年時点でのひとり暮らしの高齢者は、約1万3600人。この時点での高齢者数は約5万2000人であり、高齢者の約4分の1がひとり暮らしということになる。2000年には約19.4%だった高齢化率は2017年には約28.5%と、年々高まっている。高齢化の進展と共に、平成37年にはひとり暮らしの高齢者もさらに約1000人増えると見込んでいる。