vol.5 広島市【後編】
市内400カ所以上の介護予防拠点を活用し
2018年度、栄養への意識向上を図る
「自治体による食事支援について」の第5回後編です。 前編 に引き続き、広島市健康福祉局高齢福祉部地域包括ケア推進課の荻原和宏さんにお話を伺いました。 前編 では、2017年度からスタートした介護予防・日常生活支援総合事業での栄養改善サービスと共に、専門職の連携強化、栄養改善支援の意識付けへの取り組みについてお伝えしました。後編は、介護予防の3つめのポイントである地域の受け皿の整備、ケアマネジャーへの期待などについてのお話です。
カープ球団の力を借りて地域の受け皿を整備
住民の意識を栄養に向けていくため、活用しようと考えているのが介護予防拠点です。 広島市には、地域包括支援センターが立ち上げをサポートし、地域住民主体で運営している 介護予防拠点が、市内に413箇所あります(2018年1月22日時点)。これは交流が中心の住民サロンとは異なり、週1回以上、運動を中心とした介護予防活動に取り組む通いの場で、広島市では高知市が開発した「いきいき百歳体操」を推奨しています。
この介護予防拠点について少し説明すると、2015年度から立ち上げを進めてきましたが、あまり拠点数は増えていませんでした。そこで、効果的な立ち上げができている拠点を調べると、最初の立ち上げ支援にしっかりとリハビリ専門職が関わっているという共通点がありました。そこで、 リハビリ専門職と地域包括支援センター職員が一緒に立ち上げに関わり、正しい体操の仕方などを伝えていくことにしたのです。
同時に、女性に比べて参加率が低く、自宅に閉じこもりがちな男性の参加を増やす方法についても検討しました。そこで力を借りたのが、地元のプロ野球球団、広島東洋カープです。また、地元テレビ局の情報番組出演などで広島市民にはなじみのある、 往年のカープOBに出演いただき、広島東洋カープとコラボレーションした「がんばれ!!カープ ひろしま百歳体操」のDVDを制作しました。このDVDは、マツダスタジアムを背景にした体操となっており、BGMはカープの応援歌、ナレーションにもカープらしさ、広島らしさを入れ込んだものになっています。
このDVDを、既存、あるいは新設の介護予防拠点で、週1回以上、体操の実施に取り組む住民団体に差し上げることにしました。これがなかなか好評で、 拠点数はこの1年3ヶ月で約4倍に、参加者数は6倍以上になりました。そこで、2018年度からは、この介護予防拠点を地域の受け皿とし、栄養に関する教室を行っていきたいと考えているのです。
今後は介護予防拠点を活用し、潜在的な対象者の発見も
住民を対象とした栄養教室は、これまでも地域包括支援センターが町内会など住民団体と連携しながら、公民館等で開催してきました。食生活で気をつけることや低栄養、減塩食など、その時どきでテーマはいろいろですが、全市で年間100回以上は実施していたと思います。
今回、 介護予防拠点を活用して栄養教室を開催しようと考えたのは、実は2017年度に口腔に関しての取り組みを行い、手応えを感じたからです。口腔も栄養と同様に、見過ごされがちだという課題があります。そこで、介護予防拠点に歯科医師等を派遣して、拠点に来られた住民20~30人の口腔の状態チェックをしてみると、問題がある方が2割くらいいるのです。
その場には地域包括支援センターの職員もいますので、そういう方にはすぐに働きかけることができます。ツールを渡して口腔ケアに取り組みましょうと伝えたり、総合事業の短期集中通所口腔ケアサービスをお勧めしています。 これで実際、サービス利用に結びつくケースもあり、こうした場の活用は効果的だと感じたのです。
そこで、栄養についても、介護予防拠点を活用してみようと考えました。しかし現在の栄養教室は、地域包括支援センター職員が日頃のつながりの中で講師を依頼しており、栄養面の支援ができていない地域もあります。それを、 確実に管理栄養士を派遣できるような仕組みにして、住民に栄養についての意識付けをすると共に、潜在的な対象者を見つけ出せるようにしていければと考えています。ここが、総合事業のサービスからの移行先であると共に、生活機能を維持し、自立した日常生活を送るための拠点となると考えています。前述した、総合事業のポイントの3つめ、「地域の受け皿」の一つとなるわけです。
ケアマネジャーには栄養面の支援への橋渡しに期待
高齢になると、多くの方が何らかの疾病を抱えて暮らしています。当然、その疾病に応じて栄養面の支援を行っていく必要があります。そこを きめ細かくアセスメントし、フォローしていただけるのは、やはりケアマネジャーだと考えています。そういう意味で、 ケアマネジャーへの食の支援についての期待はかなり大きいですね。
当市では、前述の独自のアセスメントシートを用意したほか、 摂取できている食品を自分で確認できる「10食品群のチェック表」も作成。低栄養等、栄養改善の必要があると思われる高齢者に配付しています。また、このチェック表等で、 栄養改善の必要があると思われる方に説明するためのイラスト入り「食事バランスの達人」というパンフレットも作成しました。ケアマネジャーにはそうしたツールも活用していただいて、 栄養面での支援が必要な高齢者の方を必要なサービスに結びつける役割を担っていただきたい。そう期待しています。
データで見る広島市の高齢者
広島市の総人口は、2018年1月末現在で約119万5328人。平成27年1月末時点での住民基本台帳に基づく人口では、65歳以上の高齢者人口は約29万2786人、高齢化率は約24.5%。政令指定都市20市の中では比較的低い方である。平成29年の在宅高齢者基本調査によれば、平成26年に比べ、在宅の高齢者数全体もだが、「ひとり暮らしの高齢者」「ともに65歳以上の夫婦2人暮らし」「全員が65歳以上の世帯」がいずれも増加している。また、在宅高齢者の高齢化率を市内8区で見てみると、最も低い安佐南区の19.2%から最も高い安佐北区の29.0%まで、地域によるばらつきがある(平成29年2月末時点)。要介護認定者数は、平成29年11月末時点で約3万7290人、要介護認定率は約12.8%。要介護認定率の全国平均約18.0%(2017年11月末時点)と比べると、やや低い。