vol.6 和歌山市【後編】
外部団体とも連携しながら
1人でも多くの住民への働き掛けに取り組む
「自治体の食事支援の取り組みについて」第6回の後編です。和歌山市が課題として捉えていることの一つ、野菜摂取不足への取り組みなど、地域保健としての食と栄養の支援について紹介します。 前編に引き続き、主に和歌山市の地域保健課の皆様に伺いました。
イベント等を通して食や栄養への関心高める
野菜摂取不足などの栄養状態を改善するため、当市では、全市民を対象としたイベントなどを開き、広く啓発しています。
たとえば、毎年開催している「健康応援フェア」。成人の1日の必要野菜摂取量を“見える化”し、食事のバランスや減塩について啓発するコーナー、骨密度測定コーナーなど、さまざまなテーマの展示で、栄養改善を含む健康に関する知識の普及や啓発活動に取り組んでいます。 また、民間団体が開催する食に関するイベントへの後援も行っています。たとえば、「野菜フェスタ in WaKaYaMa」は、医療、食育、文化、産業がコラボレーションし、野菜と健康への関心を高めることが目的です。これを近畿農政局や和歌山県などと共に後援し、多世代が交流しながら野菜や食への関心を高める活動を後押ししています。
もちろん、地域での啓発活動にも取り組んでいますが、和歌山市の職員で地域保健に携わる管理栄養士は、非常勤1人を入れてもわずか5人。市の管理栄養士だけでは、すべての地域を十分にはカバーできません。そこで力を借りているのが、食生活改善推進員(推進員)です。推進員は、和歌山市食生活改善推進協議会に所属する地域のボランティア。市内に4カ所ある保健センターで開催する「保健栄養学級(食生活改善推進員養成講座)」で養成しており、現在204人が活動しています。
市内で年5回開いている「男性料理教室」も、推進員との協働で開催しています。この教室の対象は高齢者に限定していないものの、平日昼間の開催のため、参加者は仕事をリタイアした男性が中心です。参加のきっかけを尋ねると、「今後、(家族に)何かあったら自分が料理をしなければならないかもしれないので」との声も。高齢男性にとって、食の自立は健康を維持する上で重要な課題の一つです。今後も開催を重ねることで、さらに多くの男性に食や栄養に意識を向けてもらえるようにしていきたいと考えています。
また、推進員が所属する全国食生活改善推進協議会では今年度、高齢者がお茶を飲みながら健康の話をする「シニアカフェ」を開くことになり、年度内に市内で一度開催することを計画しています。推進員自身、高齢の方が中心ですが、自身が参加する運動の自主グループで「シニアカフェを開きたい」といった声も上がっており、現在、当市と調整しているところです。
地道な活動で高齢者の食、栄養への意識を高める
食と栄養に関する取り組みとしては、65歳以上を対象にした「シニアのための元気アップセミナー」があります。2006年から毎年開いており、2017年度は1コース3回を4カ所で開催し、延べ136人が参加しています。
セミナーは全部で3回。初回には栄養バランスの講話を行い、参加者の身長や体重、筋肉量などの体組成を測定します。これで健康状態をチェックし、栄養バランスに問題がないかを確認するわけです。2回目には歯磨きの指導など、口の中の健康について学び、3回目には調理実習を実施します。受講後の感想を聞くと、「栄養バランスを考えるようになった」「食事の内容が変わってきたと感じる」など、わずか3回の講座にもかかわらず、参加者の意識の変化が見られます。
高齢者に限らず、広く住民を対象にした栄養講座もあります。これは市内の保健センターで2カ月に1回開催しているもので、毎回、「野菜の摂取不足の改善」などのテーマを決め、食に関する講話と調理実習を行っています。2017年度は計23回の講座を開き、延べ375人が参加しました。
保健センターでは、栄養に関する電話相談も行っています。その相談内容は実にさまざまで、高血圧、糖尿病、痛風など、病気を考慮した食事の問い合わせもよくあります。また、「病院から食事の改善を求められたが、具体的にどうしたらよいか」という相談を受けることもあります。電話相談などを通じて、行政の管理栄養士が市民の皆様の健康づくりに役立つ情報を少しでもお伝えすることができればと思います。
これら一つ一つは小さな活動です。しかし、こうした地道な活動を積み重ねることが、住民の食や栄養への意識と知識の向上につながっていくものと考えています。
当市の地域保健の取り組みは、「元気アップセミナー」を除けば、高齢者に限らない、全市民を対象としたポピュレーションアプローチです。いずれの取り組みも、高齢者を含む一定数の住民が参加しているものの、こうした方々は、食や栄養への意識が高い人たちだといえます。本来、こうしたプログラムに参加しない住民や参加したくてもできない住民にこそ、働き掛ける必要がありますが、正直なところ、その具体的な方策はまだ模索中です。
ただ、「健康応援フェスタ」などのイベントを通して、1人でも多くの住民へのアプローチも可能だと考えています。さまざまな世代が交流しながら、食と健康への意識を高めることで、結果的に健康寿命の延伸や高齢期の栄養改善にもつながっていくはずです。今後も、食や栄養への意識向上を目的に活動する諸団体とも連携しながら、1人でも多くの住民にアプローチし、健康の維持や栄養改善の取り組みを進めていきたいと考えています。
データで見る和歌山市の高齢者
2018年3月末現在、総人口は約37万人、65歳以上の高齢者人口は約11万人で、高齢化率は約29.8%と、30%に迫っている(参考:2016年10月1日現在の全国平均は27.3%)。総人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は14.9%。2017年に65~74歳の前期高齢者14.7%を上回った。高齢者数は2020年にピークを迎えると推計されている。国勢調査によると、高齢者のいる一般世帯数は、介護保険制度が始まった2000年には約5万世帯だったが、2015年には約7万世帯に増加。そのうち、65歳以上の高齢者数は、2000年には約6万8000人だったが、2015年には約9万9000人となり、3万人以上増えている。
ひとり暮らしや夫婦のみの高齢者世帯数も年々増えており、特に、ひとり暮らしの高齢者世帯数は、2009年には約2万5000世帯だったが、2017年には約3万4000世帯に増加している。