vol.7 彦根市【前編】
周辺4町と多職種連携に取り組む
第7回は、滋賀県彦根市の食事支援の取り組みをご紹介します。滋賀県は、2015年の都道府県別の平均寿命で男性が初の日本一に輝き、「長寿県」として注目されています。彦根市は、男女共に県全体の平均寿命を上回り、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、より一層の健康づくりに取り組んでいます。特に力を入れているのが多職種連携で、周辺の4町と協力して、地域全体で食に関する支援も行っています。今回は、市の医療福祉推進課と医療福祉推進センターの皆様、そして病院と介護施設などで働く管理栄養士の方々にお話を伺いました。前編・後編の全2回でご紹介します。
周辺4町と多職種連携に取り組む
糖尿病と高血圧の予防、食は課題の一つ
彦根市の2014年度の健康寿命は、男性が79.4歳、女性が83.4歳で、男性は滋賀県と全国の平均をいずれも上回っています。一方、女性は全国の平均よりは長いですが、県の平均よりはやや短くなっています。平均寿命との差は、男性が1.62歳、女性が3.35歳で、男女差が大きい状況です。
疾病の状況を見ると、 糖尿病と高血圧の割合が滋賀県の平均よりも高く、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患も多くなっています。 2016年度の外来医療費も、糖尿病と高血圧が上位2位を占め、これらの患者は、虚血性心疾患を合併していたり、人工透析を受けていたりするケースが多いことが分かっています。 同年度の要介護者の疾病も心臓病がトップで、高血圧が2番目に多い結果 となりました。
県が2015年度に行った「滋賀の健康・栄養マップ調査」によると、市民の1日当たりの食塩摂取量は、男性が9.9グラム、女性が8.8グラムで、いずれも国の目標(男性8グラム未満、女性7グラム未満)よりも多くの塩分をとっていました。また、1日当たりの野菜摂取量は249グラムと、国の目標から約100グラム不足していることも分かりました。 糖尿病や高血圧を予防する上でも、食は課題の一つです。
連携の課題を抽出、専用の相談窓口も
「人生100年時代」といわれる今、一口に高齢者と言っても、実にさまざまです。これからの健康長寿を考えた際、高齢者一人ひとりの状況に応じた支援が必要になるでしょう。 こうした多様性に対応するため、当市では今後、多職種連携の重要性がさらに高まると考え、チームケアの質の向上に取り組んでいます。
琵琶湖の東側にある医療圏は「湖東(ことう)」と呼ばれ、当市と周辺の4町(愛荘、豊郷、甲良、多賀)で構成されています。 湖東の多職種連携の拠点となっているのが、「彦根医療福祉推進センター」 です。センターは2014年1月に開設され、当市と4町が共同で運営しています。
センターの最大の使命は、医療と介護、福祉の専門職が連携する際の課題を見つけだし、関係団体や行政機関に解決策を提案した上で、それを実現させること です。平日には、センター内に専用の窓口を設け、さまざまな職種からの相談に応じています。
「かかりつけの先生に相談したいけれど、診療時間中のどのタイミングで電話したらいいのか分からない」―。こうしたケアマネジャーの声を受け、地域の医師会と協議し、 診療所の医師が電話連絡しやすい時間帯などを一覧表にまとめ、ケアマネジャーに配布する「ケアマネタイム」の取り組みにもつながっています。 開始から3年が経過し、ケアマネジャーからは「先生の忙しい時間帯が分かり、安心して連絡できるようになった」「ケアマネとの連携を考えてくれていると思うと、連絡しやすい」といった声が上がっています。
2018年の秋には、医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師とケアマネジャーによる個別の研修会も企画しており、さらなる連携に向けた課題について意見交換を行う予定です。センターでは今後も、連携の要となるケアマネジャーと他職種との関係づくりに取り組んでいきます。
研究会で「手をつなぎ合える関係」目指す
「彦根医療福祉推進センター」の事業の一環として、 「ことう地域チームケア研究会」も開催 しています。 さまざまな職種が顔を合わせ、互いの専門性を理解し合ったり、地域の課題を共有したりすることが目的です。
この研究会は、2013年3月に発足しました。合言葉は、「“顔の見える関係”から“手をつなぎ合える関係”へ」。企画・運営を担当する世話人会には、市の医師会や歯科医師会のほか、湖東にある4病院の相談支援部門、ケアマネジャーの連絡協議会など、10団体が名を連ねています。
会合は、およそ2カ月に1度のペースで開かれ、毎回、特定のテーマについて多職種で意見を交わします。2017年度は延べ444人が参加しました。
摂食・嚥下障害や栄養の問題など、食がテーマになった際は、介護現場のスタッフも数多く参加しました。 通所介護事業所やグループホームでは管理栄養士がいないケースもあり、多くの介護職員の方が、ご利用者の栄養管理のことで悩みを抱えている のです。参加者からは、「入院中の栄養管理を在宅で継続するのは難しい」といった意見が出たほか、入院患者の栄養管理を多職種で行う栄養サポートチーム(NST)の「在宅版」の創設を求める声もありました。
2018年5月で丸5年を迎え、開催回数は既に30回を超えました。これまで意見交換を重ねてきたことで、“顔の見える関係”づくりは進んでいます。問題は、それを実践の場でどう生かすか。研究会では、各団体からさまざまな実践事例をご提供いただいています。こうした 「集合知」を生かし、各職種がそれぞれの立場で考え、チームケアを意識した話し合いを続けることで、さらにステップアップした連携の在り方を模索していきたい と思います。
次ページ>> 嚥下食を“見える化”、進む情報共有