vol.7 彦根市【後編】
嚥下食を“見える化”、進む情報共有
湖東には、彦根市立病院、彦根中央病院、友仁山崎病院、豊郷病院の4つの病院があります。これらの病院の管理栄養士と栄養士が中心となり、医療圏内の病院と介護施設の情報共有に取り組んでいるのが、「湖東・食と栄養を考える会」です。
会で最も力を入れているのが、嚥下食に関する知識の普及です。退院後に介護施設に入所したり、在宅から病院に入院したり、その方の居場所が変わると、提供される食事の内容も変わります。湖東のどの病院や介護施設にいても、あるいは在宅へ戻った際にも、栄養支援を継続することができるよう、会では食事の“見える化”も進めています。
例えば、同じ嚥下食の「一口大」でも、病院や介護施設によって刻みの大きさがやや異なる上、名前そのものが統一されていない実態があります。使い慣れている名前を突然変えるのは難しいので、せめて 病院や老健、特養の刻みの大きさが一目で分かるよう、2017年度に写真の一覧表を作成しました。現在、4病院を含む、医療圏内23施設で共有しています。
一覧表は、 滋賀県のホームページ で公開され、どなたでもご覧になることができます。食事形態の“見える化”を行ったことで、 栄養士だけでなく、ケアマネジャーや介護施設の相談員といった他の職種とも、嚥下食の共通理解を持つことができた と感じています。県内の他の医療圏でも同様の取り組みが始まっており、こうした動きは徐々に広がりを見せています。
同じ書式で栄養の情報を共有
別の病院に転院したり、退院後に介護施設に入所したり、患者さんの居場所が変わった際に、 病院や介護施設の間で栄養に関する情報を引き継げるよう、統一した書式(栄養管理情報提供書)も作成 しています。
例えば、病院で朝食を終えてから、お昼に施設へ移ったとしても、 その書式を見れば、それまでの食事の内容、栄養量、嚥下障害などの問題などが分かる ようになっています。担当した栄養士の連絡先も載せてあるので、もう少し詳しく知りたいと思ったら、直接問い合わせることもできます。 連携先の病院などからは、「安定した食事の提供につながる」と歓迎する声が上がっています。
会では、発足した10年前にこの取り組みを始めました。当初は、身長・体重、食事の内容、嚥下障害の情報など、シンプルな中身でしたが、今では20項目以上もあります。
2017年の秋には、日本栄養士会が栄養情報に関する統一した書式例を初めて示し、全国で研修会が開かれました。今後、栄養に関する情報共有の取り組みが、全国的に広がっていくと思います。
管理栄養士との連携不足が課題
こうした情報共有の取り組みが進む一方、多職種が連携する上での課題もあります。2018年1月に、「彦根医療福祉推進センター」がアンケート調査を行ったところ、 管理栄養士と他の専門職との連携が不足している実態が明らかになりました。
医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャー(地域包括支援センターの職員を含む)に、 管理栄養士との連携について尋ねたところ、「連携していない」との回答がいずれの職種も上位 を占め、連携の要となる ケアマネジャーでも、「連携している」との回答は約1割 にとどまりました。連携が困難な理由としては、「連携の経験がないから」「役割分担が明確ではないから」といった意見が数多く出ました。
「栄養ケア・ステーション」で窓口が明確化
こうした状況を打開しようと、 地域の栄養支援に関する相談窓口を整備する動き も出ています。日本栄養士会が2018年度にスタートした「栄養ケア・ステーション」の認定施設として、彦根中央病院が選ばれたのです。
「栄養ケア・ステーション」は、地域の栄養支援の拠点となる施設で、地域住民はもちろん、自治体、健康保険組合、民間企業、医療機関、薬局などを対象に、管理栄養士や栄養士が、日々の栄養相談からセミナー、料理教室に至るまで、食に関する幅広いサービスを提供します。
これまで ケアマネジャーからは、「ご利用者の栄養の問題について、誰に相談したらよいか分からない」といった声をよく耳にしてきました。彦根中央病院が認定を受けたことで、湖東の栄養支援に関する相談窓口が明確になったと思います。 今後、「栄養ケア・ステーション」が拠点となり、管理栄養士・栄養士と他職種との連携が進むことが期待されますが、まだ存在を知らない方も多いので、引き続き周知を図っていきたいと思っています。
年々、食に関する問題は多様化しています。これまでは、摂食・嚥下障害を抱えていたり、胃ろうを増設したりしている患者さんに関する内容が多かったのですが、最近では、糖尿病や肥満の方の疾病管理などで、多職種が栄養指導に関わるケースも増えてきています。
在宅で栄養のマネジメントがうまくできるかどうかは、ケアマネジャーに懸かっていると言ってもよいと思います。 この地域には熱心なケアマネジャーが大勢います。地域住民による主体的な介護予防、健康づくりを進めるためにも、これからも力を合わせて、一緒に取り組んでいきたいと思います。
データで見る彦根市の高齢者
2018年6月末現在、総人口は11万2870人。65歳以上の高齢者人口は2万7571人、高齢化率は24.4%(参考:2017年10月1日現在の全国平均は27.7%)で、2025年に26.6%を見込む。また、総人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は12.2%。一人暮らしの高齢者世帯は6209世帯(2018年6月末現在)で、全世帯に占める高齢者のみ世帯の割合は24.0%に達する(参考:2017年6月現在の全国平均は26.2%)。要介護・要支援者の認定者数は4893人、要介護認定率は17.8%(2018年6月末現在)となっている(参考:2018年4月現在の全国平均は約18.1%)。