vol.8 札幌市【後編】
8カ条の「食生活指針」で食育支援
“要介護予備軍”の増加を防ぐには、食育支援も重要です。「介護予防センター」では、管理栄養士と食育ボランティアの協力の下、高齢者にバランスの良い食事を摂ってもらうための食育支援にも取り組んでいます。それが「すこやか食育支援事業」です。市内に53カ所ある「介護予防センター」ごとに講習会を開き、高齢者の食に対する意識を高めています。
札幌市では2008年度、▽食事は、3食決まった時間に適量を▽肉や魚のおかずも大切に▽毎食、野菜をたっぷりと▽毎日、牛乳・乳製品と果物を▽ゆっくりとよくかんで▽食事を楽しみましょう▽体を動かしましょう▽こまめに水分をとりましょう―の8カ条からなる「高齢者のための食生活指針」を定め、熊谷修先生が提唱する「10食品群」をまんべんなく摂ることを勧めています。
講習会では、市内に10カ所ある保健センターの管理栄養士が、「高齢者のための食生活指針」の内容を説明した後、毎日の献立の栄養バランスを調べる「10食品群チェックシート」を使って、参加者の食事内容をチェックする機会を設けています。また、食育ボランティアの「食生活改善推進員」が、手軽でバランスの良いメニューを紹介し、それを参加者と一緒に作って楽しく食べる試食会も開いています。
70代が半数、満足度も高い結果に
「介護予防センター」ごとに毎年度1回の開催を目標としていますが、2017年度には54回の開催が実現し、計1166人が参加しました。終了後のアンケートを見ると、参加者の半数は70代で、70代以上が実に9割近くを占めました。
講習会の内容については、「大変参考になった」が66.6%、「参考になった」が25.9%で、9割超の方が満足している結果となりました。また、「10食品群チェックシート」を活用して、参加者の5日間の食事について調べたところ、参加者の平均で毎日8点(10点満点)を超え、比較的バランスの良い食生活を送っていることが示唆されました。
また、次回の講習会については、「是非参加したい」が62.3%、「時間が合えば参加したい」が31.8%となりました。
栄養士によるアウトリーチ支援も実施
一方、参加者の9割近くは女性で、男性に対するアプローチが課題となっています。「介護予防センター」の中には、男性限定の料理教室で人を集めている成功例もあります。また、地域の老人クラブでは、男性の参加者の方が多いケースもあるので、男性が集まりやすい場所で食育について啓発する機会を設けるなど、まだ工夫の余地はあると考えています。
また、こうした講習会や「通いの場」に参加されない方に対するアウトリーチ支援も重要です。札幌市では、食事の悩みを持つ高齢者の自宅を管理栄養士が訪問する、短期集中型の栄養指導を行っています。
要支援者かそれに準ずる方のうち、▽低栄養状態またはそのおそれがある方▽食事療法が必要な方▽偏った食生活になっている方―などが対象で、年2回まで無料で指導を受けることができます(※医療機関などで栄養指導を受けている方は対象外)。
本人や家族からの相談を受け、地域包括支援センターのケアマネジャーがアセスメントを行い、栄養指導の必要性が高いと判断された場合に、保健センターで委託契約している選任の管理栄養士が訪問する流れです。2017年度の利用実績は10件とまだ少ないですが、今後、さらに周知していきたいと考えています。
介護予防、保険外サービスにも意識を
これまでさまざまな事業についてお話しましたが、札幌市の食事支援とケアマネジャーとの関わりは、現段階ではそれほど多くないというのが正直なところです。ただ、一部の事業については、ケアマネジャーのご協力を得て行っています。
例えば、配食サービス事業者の協力で行っている見守り事業では、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターのケアマネジャーが行うアセスメントの結果を踏まえ、サービスを利用すべきかどうかを判断しています。
利用者さんのQOLを向上させるためには、介護保険サービス以外のサービスの活用も重要です。特に要支援者のケアプランについては、地域包括支援センターの運営方針などで、介護保険外のサービスもケアプランに位置付けていただくことをお願いしています。
ぜひケアマネジャーの方には、地域のインフォーマルなサービスについて知ってもらい、ケアプランを作成する際に意識していただけると嬉しいです。もちろん自治体としても、地域にどんな資源があるのかを広く周知するよう、情報発信に力を入れたいと考えています。
データで見る札幌市の高齢者
2019年1月1日現在、総人口は195万5457人。65歳以上の高齢者人口は52万1841人、高齢化率は26.7%(参考:2018年9月1日現在の全国平均は28.1%)で、2025年に30.3%を見込む。また、総人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は12.8%。一人暮らしの高齢者世帯は10万4650世帯(2015年10月1日現在)で、全世帯に占める高齢者のみ世帯の割合は22.1%に達する(参考:2015年10月1日現在の全国平均は27.2%)。第1号被保険者の要介護・要支援者の認定者数は10万6952人、認定率は20.5%(2018年12月末現在)となっている(参考:2018年12月末現在の全国平均は18.3%)。