vol.9 富山市【後編】
地域特有の食の課題、間口は広く、粘り強く取り組む
ケアマネの知見を生かし、高齢者の食を個別に支える!
富山市では2000年から 65歳以上の一人暮らしの人か、高齢者だけで生活している世帯の人で、調理が困難な人を対象に「食の自立支援事業」を行っています。 栄養バランスの取れた食を提供することで、住み慣れた自宅や地域で少しでも長く生活してもらうことを目指した事業です。 地域包括ケアシステムの構築を食の側面から支えるための取り組みといえるでしょう。
この事業では、利用者の心身の状況や置かれている環境、その希望などを把握した上で、配食サービスを実施しますので、 個別の利用者の食に対するアセスメントが極めて重要な意味を持ちます。
利用者のうち、 要介護1以上の認定を受けている人の食のアセスメントは、担当のケアマネジャーが実施します。 利用者と向き合い続けているケアマネの知見を生かすことで、利用者の実情により即したアセスメントを実現するための工夫です。 何らかの事情で担当のケアマネがいない場合は、利用者が住む地区の地域包括支援センターの職員が実施します。
また、 参加者が要支援の認定を受けている場合や、要介護認定を受けていない場合には、地域包括支援センターの職員がアセスメントを行います。
この事業は先に示した条件にさえ合致すれば、誰でも利用ができます。 要介護認定を受けていなくても使える点、間口が広い取り組みといえるでしょう。
アセスメントでは「健康状況」と「食に関する状況」を重視
アセスメントでは、利用者の申請理由やサービスの利用状況などの「基本事項」や「家族構成」「健康状況」「食に関する状況」を聞き取ります。
特に詳細にアセスメントするのは「健康状況」と「食に関する状況」です。
「健康状況」では、抱えている病気の有無に加え、アレルギーを起こす食品や摂食・嚥下障害の有無、BMI(体重と身長の関係から算出される、肥満度を表す体格指数)、最近6カ月の体重の増減までチェックします。
「食に関する状況」では、食に関する自立意欲や一緒に食事を摂る人の有無、食事回数などを確認します。
食の自立に深く関わる「摂食」「買い物」「配膳・下膳」「火気管理」「献立」「調理」「ゴミ出し」「食費管理」8項目については、支障の有無を確認した上で、支障がある場合は、その状況を具体的に記入することになっています。
これらの項目についてアセスメントし、さらに本人の利用の希望なども確認した上で、食事提供が必要な回数を決定します。 ちなみに1日に提供できる食事は昼と夜の2食までとなっています。
食の自立支援事業で使う「アセスメント」と「利用調整シート」(記入例)
(いずれも富山市のホームぺージより)
塩分を抑えた食事の提供も可能
実際に高齢者に食事を提供するのは、市と契約する民間事業者です。今のところ18社と契約しており、これで富山市内全域を網羅しています。
業者の中には、 「塩分カロリー制限食」を提供できる業者もあります。塩分を多くふくむ食材が豊富な土地柄であることを踏まえての工夫で、医師の食事箋があれば、利用できます。
糖尿病などでカロリーや塩分の制限が必要な人の場合、一般的には看護師や栄養士から指示された制限を守ることを心掛けつつ、自分で食事を作ったり、総菜を買ったりしなければなりません。食事を作るのも難しい人にとっては、とても大変なことです。その点、この 「塩分カロリー制限食」であれば、制限を守る上でのハードルを下げることができます。そのほか、噛む力が衰えた人などのための高齢者食も提供できます。
企業と連携した安否確認も実現
昨年度、この事業を利用した高齢者は約1000人。年間で合計30万3551食を提供しました。
取り組みの効果としては、栄養バランスが良い食を提供することに加え、民間事業者と連携した地域の高齢者の見守り体制の構築を実現できたことが挙げられます。
事業では、「当該利用者の安否を確認し、健康状態等に異常があった時は、市及び関係機関・緊急連絡先に連絡する」ことが定められています。ですので、事業に参加している約1000人は、家族や介護関係者らだけでなく、業者からも日々、見守られていると言ってよいでしょう。
最後になりますが、富山市の高齢化は、今後、さらに進むことが見込まれます。それに従い、食の悩みを抱えた要介護者もますます増えていくでしょう。それだけに、実態をよく知るケアマネは、高齢者の食の自立を実現し、その生活を支える上で、ますます重要な役割を果たすことになるはずです。
データで見る富山市の高齢者
2019年3月末現在、総人口は41万5904人、65歳以上の高齢者人口は12万2073人。高齢化率は29.4%(参考:2018年10月1日現在の全国平均28.1%)で、2025年に30.0%を見込む。また、総人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は15.0%。第1号被保険者の要介護・要支援者の認定者数は2万2979人となっている。