vol.10 遠野市【後編】
産官学が連携、データ活用で食事指導も
高齢化率4割、在宅の食事どう支える?
2019年7月1日現在、市民の高齢化率は39.1%に上ります。第7期介護保険事業計画の作成に先立ち、市が行った在宅介護実態調査によると、主な介護者の年齢は「60代」が37.3%で最も多く、60歳以上が全体の7割を占めました。また、介護を続ける上で不安に感じていることを尋ねたところ、「食事の準備(調理等)」が、「認知症状への対応」と「夜間の排泄」の次に高い結果となりました。
市では、65歳以上の一人暮らしや高齢者のみの世帯など、調理をすることが困難だったり、栄養状態の改善が必要だったりする方のご自宅に、栄養バランスの良い食事を届ける配食サービスを提供しています。民間の宅配業者なども増え、登録者数は減少傾向にありますが、2018年度は82人(延べ4470食)の方が利用しました。
市社会福祉協議会と社会福祉法人、高齢者のボランティア団体の3者に委託し、メニューについては、できるだけ地元の食材を使用するようにしています。
利用開始時には、ケアマネジャーのアセスメント票が必要となるため、市としては、ケアマネジャーに食事支援の大切さを再認識してもらい、通常のモニタリングの際の参考にしていただければと考えています。一方、アセスメント票を提供していただくのは申請時のみのため、その後のフォローアップも課題の一つとなっています。
訪問栄養指導、支える人材足りない
高齢者への食事支援をさらに進める上での課題としては、在宅で栄養指導を行う訪問管理栄養士などの人材不足があります。
市内の施設に勤める管理栄養士の方々も、さまざまな事情でお辞めになったり、定年を迎えた後にお休みされたりと、在宅で活動していただくのは厳しい状況です。最近、訪問管理栄養士が全国的に認知され、これから少しずつ増えていくとは思いますが、遠野での確保はなかなか難しいと考えています。
また、低栄養状態の高齢者を正確に把握できないという問題もあります。運動教室に参加する方はまだお元気ですし、健診を受ける方とはつながりを持つことができますが、それ以外の方の生活の状況はつかみにくいのです。
要介護認定を受けていない高齢者を対象に、市が2017年に行った調査によると、「閉じこもり」の傾向にある方が全体の3割を占め、75歳以上になると、その割合は急増する結果となりました。最近では認知症の方も増えていますし、独居の方の「孤食」の問題もあるでしょう。
おそらく、市が把握しているよりも多くの方が、低栄養などで困っていると思いますが、なかなか、全体像が見えてこない。さらに、その方々をフォローアップできる人材も足りないため、支援が行き届かないというのが、行政側の悩みです。
ケアマネは、予防の視点で食の再認識を
食事支援は即効性がないため、長い目で見ないと、効果が出にくい面もありますが、ぜひケアマネジャーの方には、予防的な視点で食を再認識していただき、自立支援に向けた取り組みの一つとして捉えていただければと思います。
遠野でも、ケアマネジャーと管理栄養士が連携して、栄養バランスを考えた献立を高齢者に提案する取り組みも行っていますが、まだ件数が少ないのが現状です。
月1回の地域ケア会議の場に、管理栄養士の方も参加していただき、自立支援の検討に加わってもらうことで、ケアマネジャー側が一つの“相談資源”として、管理栄養士を認識していただく。そして、事例検討を重ねながら、専門職の連携をさらに進めていきたいと考えています。
データで見る遠野市の高齢者
2019年3月末現在、総人口は2万6899人。65歳以上の高齢者人口は1万494人、高齢化率は39.0%(参考:2018年10月1日現在の全国平均は28.1%)で、2025年に42.5%を見込む。また、総人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は22.9%。一人暮らしの高齢者世帯は2195世帯(2019年3月末現在)で、全世帯に占める高齢者のみ世帯の割合は32.9%に達する(参考:2018年6月現在の全国平均は27.6%)。第1号被保険者の要介護・要支援者の認定者数は2044人、認定率は19.5%(2019年3月末現在)となっている(参考:2018年度の認定率の全国平均は18.4%)。