知っておきたい高齢期の食事と栄養 知っておきたい高齢期の食事と栄養

vol.3 在宅歯科診療に取り組む歯科医が、ケアマネに伝えたいこととは?

嚥下障害のある人は、ほぼ脱水傾向にある

気温が高まるこれからの季節に注意したいのが脱水です。 じつは嚥下障害のある人にとって、最も飲みにくいのが「水」です。そのため、嚥下障害になると水を避けるようになり、脱水傾向になります。そこへ夏場の気温上昇が加わると、一気に脱水の症状があらわれるのです。
脱水を防ぐには、水分補給ができるゼリーやとろみをつけた水分摂取が有効です。われわれが勧めているのは、毎朝とろみをつけたお茶や水をペットボトルにつくり、冷蔵庫に保管することです。冷たい飲み物は嚥下反射を起こしますし、1日どのくらい飲んだか計ることもできて便利です。

口腔ケアへの無関心が、残っている歯を失わせている

いまや、80歳で自分の歯が20本ある人は、およそ4割にのぼります。この20年で10倍に増えました。
元気な人にとっては楽しく食事をするための強い武器になるでしょう。しかしそうでない人にとっては、虫歯や歯周病のリスクを口の中にたくさん抱えているようなものです。20本もの歯をもったまま要介護状態になると、歯はあっという間に虫歯や歯周病になり、半年も経たずしてぼろぼろになってしまいます。

要介護状態になると、本人の自発性がなくなり、歯みがきをしなくなります。さらに、口の動きが悪くなるから汚れやすく、歯ブラシの扱いも下手になるため、口の中が一気にばい菌だらけになるのです。在宅へ行くと、そのような高齢者ばかりです。数年前まではしっかり上下の歯があったはずなのに、ばい菌にうずもれて、根っこしか残っていないのです。
しかし、歯はしっかりケアをすれば、ある程度虫歯や歯周病を防ぐことができます。それなのに、要介護状態になると途端に口腔状態が悪くなる。これはひとえに、まわりの人たちの口の中に対する無関心によるものです。
「歯みがきをしている」と「歯みがきができている」は別物です。特別養護老人ホームなどで調査すると、歯みがきが「自立」と評価されている人のほうが口の中は汚れており、むしろ全介助でスタッフが磨いてあげている人のほうがきれいに保たれています。
口の中を見ていないのに、歯ブラシを動かしている様子を見て「自立」と判断されているケースが非常に多いのです。しかし基本的には、要介護になった時点で介入が必要だと考えてください。

自分の歯を維持できている人ほど栄養状態がよい

歯がなくなると、食べられる物のバリエーションが減り、低栄養になります。反対に、自分の歯をきれいに保てている人の栄養状態は良好です。窒息もしないし、転倒もしにくい。義歯ではそこまでいきません。自分の歯は圧倒的に有利なのです。それなのに要介護になった途端になくしてしまうというのは、もったいないことです。
歯が抜けるのは、加齢現象ではなく、歯の病気によるものです。これまで通りきちんとケアをすれば残せますし、本人が磨けないのであれば周りの人が磨いてあげればよいのです。

ケアマネジャーに求めることは、早い段階で専門家に相談すること

もし歯みがきやうがいによる誤嚥が心配なのであれば、ケアの方法をわれわれ専門家に聞いてください。それをつなぐのがケアマネジャーの役目です。
ケアマネジャーが専門的な知識を持つ必要はありません。ケアマネジャーに求められることは、専門家に相談すべきかどうかを判断するスクリーニングツールを自分の中にたくさん持ち、適切なタイミングで専門家につなぎ、そこから得た情報を他職種の人たちに伝えることです。

口腔ケアについて、専門家に相談すべきタイミング

  • 口臭がある
  • 食事中にむせやすい
  • 嚥下障害がある
  • 体重が減った
  • 麻痺がある

ですからわれわれも、在宅に行くと、必ずケアマネジャーに情報をフィードバックしています。たとえば家族から「先生、デイサービスでも食べさせたいのだけど、どうですか」と聞かれると、「いいですよ、デイサービスには私から連絡しておきますね」と言いながら、実際にはケアマネジャーを経由させています。
またデイサービスでの毎月の体重測定も、家族ではなくケアマネジャーに依頼させます。ケアマネジャーが依頼することで、測定結果がケアマネジャーに届き、毎月確認することができるからです。
そのようにして、すべての連絡をケアマネジャーが経由することで、利用者さんの変化にも気付きやすくなり、ケアマネジャーとしての自覚も高まるのだと考えています。

かかりつけ歯科医の意識を変えられるのはケアマネジャー

歯科業界でも、在宅診療への意識が少しずつ高まってきています。しかしこれまで歯科医院にしか行ったことのない歯科医にとっては、やはり在宅診療へのハードルは高いものです。訪問車両の確保や訪問体制の整備なども必要ですし、そもそも院内でしか治療をしたことがないので、訪問診療で何をどうすればよいかわからない人が多いのです。
そのため在宅歯科診療を行う歯科医は、全体の1割ほどしかいません。その多くが義歯をつくる義歯技工士などで、在宅訪問診療の実績がある歯科医師は数パーセントにすぎません。

そうした状況で、ケアマネジャーができることは、在宅歯科診療の重要性を伝えることです。家族と在宅医療について話をしている際に、歯科医の訪問診療についても話題にあげるなど、意識して話すようにしてみてください。
ケアマネジャーの意識次第で、かかりつけ歯科医が訪問診療を始めるかもしれません。

かかりつけ歯科医の乗り換えは、定年のタイミングがベスト

会社員が歯の治療をしようとするとき、多くは勤務先近くの歯医者を選ぶ。仕事が終わった後、すぐに寄れるからだ。しかし定年後はどうだろうか。元気なうちはなんとか通えるだろうが、そのうち足を運ぶのが億劫になり、いずれは諦めてしまうだろう。
だから菊谷先生は、「定年のタイミングで、自宅近くの歯医者に乗り換えることが大事」と言う。定年とともに通っていた歯医者から遠ざかり、そのままどこにもかからないケースが多いのだ。
歯科について、多くの人は“漠然とした怖さ”と“死に直結しないことへの楽観”を抱いている。しかしケアをおざなりにすることへの代償は、思っている以上に大きいものだということを私たちはもっと自覚する必要があると感じた。
熊谷 修 先生

菊谷 武 先生

日本歯科大学大学院生命歯学研究科教授。日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長。歯学博士。
1988年、日本歯科大学歯学部卒業。
東京医科大学兼任教授。岡山大学など5つの大学で非常勤講師も務める。
平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「地域包括ケアにおける摂食嚥下および栄養支援のための評価ツールの開発とその有用性に関する検討」主任研究者

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