vol.4 在宅高齢者の栄養問題は「生活環境」にあり
第4回のインタビューは、訪問管理栄養士の中村育子先生。
在籍する福岡クリニック在宅部では、およそ600名の在宅患者の在宅診療を行っており、中村先生も毎月110軒ほどの訪問をこなす。単なる栄養指導だけにとどまらず、一人ひとりの生活環境をつぶさに観察し、その人にとって最適な食を考える、訪問栄養指導の第一人者として知られる。
2014年10月のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演。
在宅訪問管理栄養士としての仕事の流儀
在宅の現場で訪問管理栄養士に求められる役割とは?
現在の在宅は、独居世帯や高齢者世帯が増加し、介護力がとても低下しています。そのため、本人が食事をつくることが困難であったり、男性介護者の場合には調理能力がなかったり、あるいは介護者の介護疲労が大きく、食事の用意を負担に感じたりしていることが少なくありません。
在宅を訪問する管理栄養士に求められるのは、そういった一人ひとりの生活環境を踏まえた食支援を行うことです。
本人・家族の意向を最優先に、家でどのような生活を送りたいのかを聞き取り、その想いに添った支援を行うことが、在宅における重要な視点になります。
そして栄養スクリーニング、アセスメントから抽出された問題点を多職種連携で解決し、摂取栄養量の調節から栄養状態の改善、栄養食事療法による疾病の改善を目的に、多彩な栄養ケアを行うのが訪問管理栄養士の特徴です。
訪問栄養食事指導までの基本的な流れ
私の属する福岡クリニック在宅部には、在宅診療の医師、看護師、相談員、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がおり、部署一丸となって診療にあたっています。
基本的な流れは、まずグループ病院に入院している患者さんの退院が決まると、在宅部の相談員と看護師が、病院の退院時カンファレンスに参加します。その後、患者さんが在宅に戻られたら、理学療法士、看護師、相談員がお宅を訪問し、状況を確認します。そこから在宅診療が開始となります。そして主治医から訪問栄養指導の指示が出ると、その指示をもとに管理栄養士が訪問を開始します。
なお、管理栄養士が介護保険の枠内で訪問栄養指導を行うことができるのは、以下の特別食の栄養指導を行う場合に限られます。
介護保険で訪問栄養指導ができる特別食
- 低栄養
- 膵臓食
- 腎臓食
- 脂質異常症食
- 肝臓食
- 痛風食
- 糖尿食
- 嚥下困難者のための流動食
- 胃潰瘍食
- 経管栄養のための濃厚流動食
- 貧血食
- 特別な場合の検査食
- 高度肥満食
- 心臓病食
- 高血圧のための減塩食
- <詳細は関係法規(介護保険法)をご覧ください>
食支援は、生活環境の整備から
はじめて訪問する時は、口腔内の問題、普段の食事内容や間食習慣などはもちろん、世帯構成や経済状況、食欲不振があればその原因まで、細かく生活状況をみていきます。
栄養状態は、その人の生活上の問題を解決しない限り、改善しないからです。
もし生活上の問題が経済的困窮であるのなら、ケアマネジャーやケースワーカーに相談したり、ご家族と直接交渉したりします。
また、経済的困窮以外にも、独居そのものが1つの大きな生活問題となります。独居の場合はホームヘルパーの位置付けが重要で、調理や買い物などの生活援助を増やしたほうがよいのか、あるいは転倒予防のために部屋の中を掃除したほうがよいのかといったことまで考えます。
在宅訪問栄養食事指導は、食事の中身だけでなく、継続して1日3回食事が提供されているか、本人の嗜好にあっているか、食べたい物を購入することができているか、さらには経済状況やメンタル面まで含めた生活環境の整備から始めることが少なくないのです。
管理栄養士の専門性を活用して、栄養状態の改善を
高齢者が低栄養になりやすいことは、多くの人が認識していることだと思います。
しかし、その方が1日に必要とするエネルギー量がどれくらいか、普段の食事でどれほど摂れているのか、不足している栄養素は何かを示すことができるのは、われわれ管理栄養士です。
管理栄養士はその専門性により、不足している栄養を食事にどう組み込むのか、どのようにすれば必要な栄養を効率よく吸収できるのか、食事内容を科学的に分析し、カウンセリングや指導を行います。例えば、普段の食事において、栄養の偏りがないように副食の品数を増やすこと、栄養補助食品をうまく取り入れること、あるいはとろみ調整食品など、嚥下困難者への具体的な指導も行います。
訪問管理栄養士は、食支援が必要な方に対して、医療の目線から多角的に栄養ケアを提供し、その方の生活の質を向上させる役割を担っています。
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中村 育子 先生
管理栄養士。医療法人社団福寿会福岡クリニック在宅部栄養課課長。
1994年、女子栄養大学栄養学部卒業。2009年、女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程入学。2011年、女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程卒業。2012年、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程食品栄養科学専攻入学。2015年、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程食品栄養科学専攻満期退学。
1997年より福岡クリニック在宅部。
2008年、全国在宅訪問栄養食事指導研究会会長 就任。2012年6月、全国在宅訪問栄養食事指導研究会会長から副会長に就任。2014年6月、日本在宅栄養管理学会(旧全国在宅訪問栄養食事指導研究会)副理事長 就任。