vol.5 多職種連携から、相互補完しあうチームへ
第5回のインタビューは、歯科医師の菅武雄先生。
嚥下内視鏡を携え、在宅へ施設へと訪問する。口から食べることにこだわり、見逃されている高リスクの人たちを拾い上げる。それを可能にしているのが、これまでの多職種連携とは異なる、新たなチームのあり方だった。
「口から食べる」をチームで支えるには?
各職種は「連携」から「相互補完」へ
高齢者の栄養問題とは、今まさに進行している問題です。「今日なにが食べられるか」という事態に、今すぐに対応しなければなりません。
たとえば、入院して経口摂取が禁止された方が、退院して施設に戻ってくる。しかし施設では、経管栄養や胃ろうに対応できない。すると「栄養や水分の摂取はどうすればいいの」という問題が持ち上がります。私たちはそういう相談を受けて日々訪問に出向いています。
相談は、問題を見つけた人、ないしはその発見者とつながりのある誰かが、勉強会の場やメールなどでもちかけてくれます。それらの相談に対し、私たちは、現場のチームのうち集まれる職種で問題解決に取り組みます。チーム全員が集まれる日を調整している場合ではないからです。
だから私たちのやり方は、むかし言われた「多職種連携」とは少し様相が違う。「何でもみんなでいっしょに」というイメージではないのです。「経口摂取」に課題があるのなら、そこに的を絞り、今いる職種でチームを組む。訪問日時を決めてしまえば、もし当日間に合わないメンバーがいても始めてしまうし、成果も上げる。もちろんいればもっと成果は上がるけれど、いないからといって活動を止めるようなチームではないのです。
すべての職種が揃う病院とは違い、在宅はそれぞれの職種が相互補完するチーム体制でなければ、嚥下や栄養の問題には立ち向かえないのです。
ケアマネジャーは、ケアの展開のしかたが変わりつつあることを認識する必要があります。この流れについてこられなくなり、現場に呼ばれなくなったら大変です。
同時にケアマネジャーは、各職種の特性をよく理解するとともに、今いる職種をどのように動かすか、どうやって分担し、カバーし合うことができるかを考えられるようになる必要があります。
そのとき、図のようなツールが参考になります。ここには、摂食嚥下障害のある利用者さんの「食」の問題に取り組うとき、それぞれの職種が担うことのできる役割が記載されています。たとえば食事姿勢の調整は、リハ医、看護師、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、ケアワーカー、作業療法士のすべてができることがわかります。
このうち、現にいる職種はどれか、利用者さんの状況に応じてどの職種とどの職種に組んでもらうとよいか、欠けている職種があれば代わりに誰がそれを担うのかを考えます。それがチームアプローチです。
チームは1人の利用者さんにつき1つなので、20人担当しているケアマネジャーは20のチームを見ることになります。大変ですが、それがケアマネジャーに求められる役割なのです。
まずは口の状態を整える
「食」の問題に取り組むとき、まずは口の状態を整えることからはじめます。
たとえば2週間の入院中に一度も口腔ケアを受けることなく退院してきた人の口の中は、痰や粘膜上皮細胞が乾燥し、固まっています。しかもそれは、剥がれてズルズルと喉のほうに落ちていく。当然、喉の中も痰で埋まっており、声帯には口から落ちてきた汚れた唾液がブクブクと入っていきます。泡立った唾液は乾燥してくると粘性が高まるので、声帯は徐々に塞がれ、放っておけば窒息に至ります。
ところが歯科衛生士が入ると、口の衛生状態が改善するのはもちろん、呼吸も元どおりに戻ります。だからまずケアマネジャーは、まず歯科衛生士に口腔ケアを依頼してみてはどうでしょうか。
「口の中を整える」といっても、単に口の中をきれいにするのではありません。口腔内をきれいな唾液で湿らせ、咽頭も湿った状態にする。それが口腔ケアです。しかも適切な口腔ケアを行えば、嚥下反射が戻ることもあるのです。それができるのが歯科衛生士なのです。
歯科衛生士は単独訪問が可能に
2015年4月に法律が改正され、これまで歯科医師の直接指示、すなわち同席のもとでしか活動できなかった歯科衛生士は、単独での訪問が可能となりました。
今後、歯科医師は診療、歯科衛生士はケアとリハビリというように、専門性が対等になっていくでしょう。しかも歯科衛生士は、歯科医師よりも生活上の問題をキャッチするのが早いし、本人や家族も相談しやすい。
ですからケアマネジャーは歯科衛生士をどんどん入れてください。そして、「食」について気付いたちょっとしたことも歯科衛生士に相談してほしいと思います。
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