vol.6 ケアマネジャーに必要な高齢者の「食」への理解とは?
第6回は、訪問看護ステーションや地域包括支援センターで在宅高齢者の支援に携わり、ケアマネジャーの教育・研修においても経験が豊富な吉良厚子先生にお話をうかがいます。
ケアマネジャーにもっとも近い立場から、高齢者の食や栄養について持つべき視点、介入の手法についてアドバイスをいただきました。
ケアマネジャーに求められる「食」への意識
ケアマネジャーの食への意識はまだまだ不足
ケアマネジャーが高齢者を見るにおいて、「食」への意識は、日常生活動作などへの着目に比べると少し弱いと感じています。
高齢者のなかには、必要なエネルギーやタンパク質などが不足し、体重減少や食欲減退、だるさなどの症状が起きる「低栄養」状態になっている人も少なくありません。
噛む力が弱くなった、飲み込みが悪くなったなどの障害が出てはじめて食に着目する傾向にありますが、本来はそうなる以前から食事や栄養に注意を向ける必要があります。
食への意識が低い原因の1つとして、「高齢になると食が細くなるのは当たり前」という思い込みがあります。また、メタボリックシンドローム対策が浸透し、75歳以上の人でもコレステロールを気にして肉や卵を食べないという風潮もあるのでしょう。
しかし食事は、バランスよくしっかり食べることが大切で、それは20代も80代も変わりありません。
近年、高齢者の低栄養が知られるようになり、筋肉量が減少するサルコペニアなどもマスコミで取り上げられるようになってきましたが、まだまだケアマネジャーの理解が進んでいるとは言えないと感じています。
アセスメントで食に着目する視点を持つ
ケアマネジャーには、アセスメントの際に、食についての切り口を充実させてもらいたいですね。
食事の回数、内容、食事にかかる時間については必須です。たいていの方は1日3回食事をとっていますが、細かく訊ねてみると、ごはんとお漬け物だけ、パンと牛乳だけ、というように、栄養が不足していることも少なくありません。
できれば1週間分くらい書き出し、食生活を把握したいものです。食事にかかる時間を聞き取れば、機能の低下にも早めに気づくことができます。
私が委員を務める「新しい介護食品(スマイルケア食)普及推進会議」でも、ケアマネジャー対象の普及活動でそういったことをお伝えしていますが、やはりアセスメントシートに具体的な項目がないと、なかなかアセスメントにつながらないのが実情です。
そこで、23項目のアセスメントシートとは別に、食に関することだけを聞き取るシートの作成を提案しているところです。また、スマートフォンやタブレットにダウンロードすれば、在宅高齢者の栄養状態を評価できる無料アプリ「栄養ケアパッド」の活用もおすすめしています。栄養状態や食事形態が判定でき、低栄養と判定された場合は課題を確認して、ケアプランに役立てることができます。
訪問介護やデイサービスでの観察を生かす
日々の食事の観察はホームヘルパーにお願いしていますが、食べる時の姿勢や食事にかかる時間、食べるものについて、これまでと違ってきたら「あら?」と思う感覚を常に持ってほしいと伝えています。
食べものの嗜好が変わってきたのは、噛む・飲み込む機能が低下してきたせいかもしれません。お皿の隅に噛んだものが残っていたら、うまく噛めず、飲み込みやすい食塊にまとめられなくなっていることも考えられます。食に関する変化は、「冷蔵庫の中に同じ食品がある」「たびたび醤油の買い物を頼まれる」など、サービス提供事業所からあがってくる報告にも潜んでいますから、ケアマネジャーは見落とさないことが大切です。
長い時間を過ごすデイサービスも、じっくり観察するよい機会です。利用者さんごとに食事について観察してほしい点を伝え、むせるならどんなものを食べる時にむせるのか、どんな姿勢だったのか、その時の周辺の様子は、などを報告してもらいます。
また、入浴時の全身観察も栄養状態をみるチャンスです。栄養状態は体重や皮膚の状態に現れ、低栄養であれば、足のふくらはぎがむくんだり、二の腕の肉が薄くなるなどの変化が見られます。
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