知っておきたい高齢期の食事と栄養 知っておきたい高齢期の食事と栄養

vol.8 高齢者の健康を守る上で極めて重要な「口腔衛生」

第8回は、高齢者の口腔衛生について解説します。お話をうかがったのは、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの菊谷武先生。外来診療以外にも、1日5軒ほどの在宅高齢者の自宅をまわる、在宅歯科診療のスペシャリストです。
菊谷先生にはこのシリーズの第3回でも、高齢者の「食べる」をテーマに、アドバイスを頂きました(vol.3 在宅歯科診療に取り組む歯科医が、ケアマネに伝えたいこととは?)。

第3回で菊谷先生は、特に口腔衛生への無関心が、せっかく残った高齢者の歯を失わせていると警鐘を鳴らしています。
「歯が抜けるのは、加齢現象ではなく、歯の病気によるものです。これまで通りきちんとケアをすれば残せますし、本人が磨けないのであれば周りの人が磨いてあげればよいのです」
要介護者の食べる楽しみを守り、栄養状態を保つためにも、極めて重要な意味を持つ歯の存在。その歯を守るために重要なのが口腔衛生です。この口腔衛生を在宅の現場で効果的に実施するためのポイントや4月の診療報酬・介護報酬同時改定を踏まえたケアマネジャーへのメッセージも頂きました。

病気がきっかけで口腔ケアへの意欲を失う高齢者

高齢者の口腔ケアに関する問題として、まず挙げられることは、急に歯磨きなどへの意欲を失ってしまう人がいることでしょう。

特に脳血管疾患などを患った人の中には、日常生活に必要なちょっとした行為にも苦労する人がかなりいます。その結果、病気を境に口のケアをやめてしまう人も少なくありません。体の不自由さが解消されない限り、こうした人のやる気を引き出すことは、なかなか難しい。まず必要なのは、家族や介護者が継続的にケアに取り組むことですが、その介護者がケアに及び腰だとちょっと困ります。

そんな時は、「自分が歯を磨くのだから、家族にもしてあげて下さい」と促すのも一つの手でしょう。

本人に意欲を取り戻してもらうためには?

ただし、在宅の現場では、ケアする人が夫や妻であっても、口の中のケアだけはしてほしくないという人が、かなりいます。そのくらい口の中というのは、私的な場所なのですので、特に重要なのは、本人に意欲を取り戻してもらうための働きかけです。

誰にでも通用するかはわかりませんが、こんな風に言ってみるのはどうでしょう。
カレーライスを食べた皿でお刺身は食べないでしょ?口もいわば食器です。口も食事ごとに洗いましょうよ

また、自分の健康維持を強く意識している人に対しては、こんな言い方が有効かもしれません。
口をきれいにすることは肺炎予防になります。リスクを回避するためにも食事ごとに歯磨きをしましょう

絶対に避けるべき!口腔ケア中の誤嚥

口腔ケアで特に気を付けてほしいのは、ケア中の誤嚥です。口腔ケアとは見方を変えれば、歯や歯ぐきなどからばい菌を口の中に削ぎ落す行為です。口腔ケア中の誤嚥は「ばい菌や汚れをたっぷりと肺に送りこむ」に他なりません。絶対に避けなければならないことです。

対応策としてはスポンジブラシで口腔内をぬぐう方法があります。注意してほしいのは、汚れたブラシを洗うコップとブラシを湿らせるコップの2つを用意し、ブラシが汚れたら、すぐに洗うことです。ブラシを洗うコップの水はこまめに取り換え、できるだけきれいな状態を保ちましょう。汚れた水でブラシを洗っても、かえってばい菌が付着させるだけ。そして、ばい菌がついたブラシで口腔ケアをしても、逆効果でしかありません。

ただし、スポンジブラシを使っていいのは、口の粘膜だけ。歯についたばい菌や汚れを取るには、歯ブラシを使用してください。

誤嚥リスクが本当に高い方の場合は、吸引器で唾液などを吸い取りながら、ケアをしましょう。

とにかく、汚れを落とすだけでなく、適切に外に汚れを排出すること。そのことを常に意識してケアをしてください。

菊谷 武 先生

菊谷 武 先生

日本歯科大学大学院生命歯学研究科教授。日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長。歯学博士。1988年、日本歯科大学歯学部卒業。東京医科大学兼任教授。岡山大学など5つの大学で非常勤講師も務める。2014年度から2016年度の厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「地域包括ケアにおける摂食嚥下および栄養支援のための評価ツールの開発とその有用性に関する検討」主任研究者

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