vol.10 高齢者の低栄養改善で、多職種連携の強化を
第10回のインタビューは、訪問栄養指導の第一人者として知られる、管理栄養士の中村育子先生です。中村先生は、東京都足立区にある福岡クリニックの在宅部で栄養課長を務め、毎月100軒を超える訪問をこなしながら、在宅の高齢者の栄養改善に取り組んでいます。
中村先生は、第4回にもご登場いただき、訪問栄養指導の基本的な流れから、管理栄養士の専門性、ご利用者の栄養問題における多職種の取り組み、さらにはケアマネジャーに対するご提言まで、幅広いお話を伺いました(vol.4 在宅高齢者の栄養問題は「生活環境」にあり)。
前回のインタビューで中村先生は、栄養状態を改善させる鍵は生活環境の整備にあると指摘し、管理栄養士が介入する意義を強調しました。
「初めて訪問する時は、口腔内の問題、普段の食事内容や間食習慣などはもちろん、世帯構成や経済状況、食欲不振があればその原因まで、細かく生活状況を見ていきます。栄養状態は、その人の生活上の問題を解決しない限り、改善しない場合が多いからです」
「管理栄養士は、食事やおやつを楽しみながら、不足する栄養を摂ってもらう方法を考えたり、十分な食事量を摂れない方に、効果的に栄養を摂れる食品などを勧めたりすることで、栄養状態の悪化を防ぎます。高齢者の食事は、必要な栄養を効率的に摂るためのアプローチが大切です。そのため、一人ひとりに合った栄養指導ができる訪問管理栄養士の意義は大きいと考えています」
今回のインタビューでは、前回の取材から約3年間の栄養をめぐる動向の変化を話していただいた後、今年4月の診療報酬と介護報酬の同時改定を踏まえたケアマネジャーへのメッセージを頂きました。
高齢者の低栄養改善で、多職種連携の強化を
「スクリーニング加算」新設、国も栄養状態の改善に本腰
ここ数年、日本在宅医学会や日本老年医学会でも、高齢者の「フレイル」(虚弱)が栄養状態の悪化によるもので、低栄養の状態は改善する必要があるという考え方が広がってきました。それ以前は、現場で体重測定や栄養状態の評価すら行われておらず、医師は病態を診ることを優先し、低栄養を見過ごしている場合が多かった。褥瘡が出現して初めて、栄養状態に目を向けていたのではないでしょうか。
介護報酬には、栄養状態の改善に取り組む管理栄養士の仕事を評価する「栄養改善加算」がありますが、算定する事業所はあまり多くありませんでした。その原因を国が調べたところ、「栄養状態に問題がない」と考える事業所が多い実態も明らかになってきました。しかし、高齢者の栄養状態の低下とともに、「フレイル」「サルコペニア」(筋肉減少症)、「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)を介護予防の重大な要因とする昨今の動きにより、栄養状態を軽視する風潮から栄養状態を重要視する風潮に変化してきています。
2018年4月の介護報酬改定では、デイサービスやデイケアなどの事業所で働く介護職員が、ご利用者の栄養状態を確認し、ケアマネジャーと文書で情報共有した場合の評価として「栄養スクリーニング加算」が新設されました。原則、すべてのご利用者が加算の対象で、ケアマネジャーに提供する情報は、▽BMIが18.5未満▽1-6カ月間で3%以上の体重の減少が認められる▽血清アルブミン値が3.5g/dl以下―などとなっています。
「栄養改善加算」は、管理栄養士の仕事を評価するものですが、「栄養スクリーニング加算」は、管理栄養士以外の介護職員とケアマネジャーとの連携に対する報酬です。多職種による栄養改善の取り組みを推進するために、国も本腰を入れてきたと言えます。
現在、地域の管理栄養士や栄養士の拠点となる「栄養ケア・ステーション」が、都道府県ごとに一カ所以上整備されています。また、日本栄養士会ではこの春から、「栄養ケア・ステーション」の認定制度を開始し、ステーション間のネットワークづくりを始めました。日本栄養士会のホームページを見れば、全国の「栄養ケア・ステーション」の場所や代表者の連絡先などが一目で分かるようになっています。
前回のインタビューでご紹介した、日本栄養士会認定の「在宅訪問管理栄養士」の数は、2017年度には849人に達し、まだ十分ではないものの、少しずつ数が増えています。管理栄養士の間では、「地域包括ケアシステムの中で何ができるのか、しっかりと考えて行動しないと、自分たちの仕事がなくなる」という危機感が広がりつつあります。管理栄養士の側が、地域のケアマネジャーの方に相談してもらえるような存在になる必要があると感じています。
またケアマネジャーの方も、管理栄養士を必要とするケースが増えると思います。互いが歩み寄り、ご利用者の栄養状態の改善に向け、さらに連携を深めていきたいと考えています。
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