コラム【リハ専門医に聞く】
おむつを拒否する高齢者の心理と
活動量低下のリスク

川手信行教授(昭和医科大学医学部 リハビリテーション医学講座)

人間が生きる上で欠かせない営みの一つが、排泄です。介護現場で問題になりやすいテーマでもありますが、利用者にとって望ましい、真に適切なケアが実現できているでしょうか。ここでは、リハビリテーション領域において臨床・研修の両面で知見が深い川手信行教授(昭和医科大学医学部 リハビリテーション医学講座)にインタビューを実施。「高齢者の自立と排泄」をテーマに、ケアマネジャーが知っておきたい課題解決の視点を伺います。

高齢者の多くが「おむつは嫌!」と感じてしまう理由

ケアマネジャーの皆さんも実感されていることだと思いますが、介護や医療の現場では、おむつを拒否したり否定的に捉えたりする高齢者とよく出会います。多くの高齢者にとって、おむつは「老いを認めること」「介護される立場になること」と結び付いてしまうもので、心理的抵抗感が強くなりやすいのです。客観的に必要性が明らかな場合でも、「まだ自分にそんなものはいらない!」と頑なに拒否するケースが散見されます。

人によっては、赤ちゃんがしている布おむつのイメージが強く、拒否感につながっている場合もあるようです。「赤ちゃんのように下の世話をしてもらうようになるなんて……」と悲観し、喪失感を抱える人も少なくありません。しかし、近年ではおむつ製品は大幅に改良され、機能やデザインも多様化しています。下着のような見た目で気軽に手に取れるものもあり、こうした情報を伝えておむつのイメージを一新させることも、スムーズな導入のためには大切だと思います。

一方で、おむつを使用していても、その人に合っていない製品であることから、不快感や羞恥心を強める結果になっている場合もあります。大き過ぎてずれてしまう、小さ過ぎて圧迫感が強い、吸収量が足りず漏れる、過剰に厚い製品で動きにくい――。こうしたことがあれば、「やっぱり使いたくない」と否定的な感情が強まっても仕方ありません。おむつは、ただ使えばいいというものではなく、その人に合っているかどうかを見極めることが欠かせないのです。

排泄の不安を抱える利用者が陥りやすい「悪循環」とは?

おむつを適切に活用できず、排泄への不安を抱えたままだと、高齢者の活動性は大きく制限されてしまいます。「途中で漏れたら困る」「トイレが見つからなかったらどうしよう」という不安があると、通院、買い物、趣味活動、デイサービスへの参加などを控えるきっかけになってしまいます。たとえ本人が「足腰が悪いから行けない」と話していたとしても、実際には排泄の不安が背景にあり、それを表に出していないだけ――ということもよくあります。リハビリテーションが必要な人が、歩行練習や外出練習を避けてしまえば、機能回復に遅れが出かねません。

こうして活動量が落ちた高齢者では、筋力、歩行能力、食欲、認知機能などの低下が連鎖的に進みやすく、廃用症候群と呼ばれる状態になることが珍しくありません。例えば、尿失禁への不安があるのに適切におむつが使えていない場合、水分摂取を控える、外出しない、部屋から出ない、といった行動につながります。その結果、脱水、便秘、筋力低下、歩行能力低下が進み、さらにトイレに行けなくなる――という悪循環が生じるのです。

廃用症候群予防のためにも、おむつの活用を視野に入れて

訓練を積んだ宇宙飛行士ですら、筋肉の負荷が極度に少ない宇宙では、毎日数時間のトレーニングが欠かせません。地球上にいても、寝たきりのような状態であれば、人間の筋肉はあっという間に衰えていきます。高齢者であればなおさらで、排泄の問題が発端となり、その人のQOL低下に直結するようなダメージが生じることもあるわけです。

適切なおむつの活用は、単なる失禁対策ではなく、活動量を維持し、廃用症候群を防ぐための有効な支援策です。おむつやパッドを着用して「もしもの時も安心」と感じられるだけで、外出範囲や活動量が大きく改善する人は少なくありません。活動性が上がれば自然に筋力がつき、ADL全般の向上が見込めます。つまり、おむつは活動を妨げるものではなく、「その人が動き続けられる生活」を支える重要な手段だと言えます。

排泄の問題は本人から言い出しにくく、表からは見えにくいものです。だからこそ、ケアマネジャーの皆さんからの働きかけが重要ではないでしょうか。「何も使わずに頑張ること」が自立ではありません。「必要なサポートを上手に活用して自分らしい生活を続ける」という視点を、ぜひ利用者さんに伝えていただきたいと思います。

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