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結城教授の深掘り!介護保険

生活援助軽視がもたらす在宅介護の危機

4月の介護報酬改定では、生活援助を中心とする訪問介護の基本報酬が2単位引き下げられる一方、身体介護を中心とする訪問介護の基本報酬は引き上げとなる。基本報酬でこれほどわかりやすく“明暗”が分かれる以上、身体介護中心の利用者へのサービスを優先し、生活援助中心の利用者へのサービスを手控える訪問介護事業所がぐっと増える可能性がある。

生活援助の引き下げが、「在宅」を根底から揺さぶる

この変化は、地域の要介護者の生活を根底から揺さぶる危険性を秘めている。

訪問介護サービスの提供実績全体をまとめたのが表1だ。

見ていただければ分かる通り、生活援助中心型サービスを受ける人の割合が高いのは、要介護1や要介護2といった軽度者だ。その軽度者の数は220万人を超えており、介護保険サービスを利用する人の中の3分の1を占めている。


これら軽度の要介護高齢者は、在宅で生活している人が多い上、近年は独居や老夫婦のみの世帯も増えている。そして、こうした人々の生活を支えているサービスこそが、訪問介護員が毎週1回から2回行う掃除や洗濯、買い物といった生活援助中心型サービスだ。

今回の改定で、訪問介護事業所が生活援助中心型サービスの供給に消極的になれば、在宅で生活する軽度の要介護高齢者は、週に1回程度だった掃除や洗濯、買い物を、さらに減らさなければならないだろう。週に1回も掃除や洗濯ができない生活は、人間としての尊厳が保たれた生活といえるだろうか。週に1回程度の買い物すらできない状況で、命を保つために不可欠な食品や日用品を確保することができるだろうか。

期待できない「生活援助従事者研修」

今回の改定では、もう一つ、注目すべき変化がもたらされる。介護職員初任者研修の半分以下のカリキュラム(59時間)で、生活援助中心型サービスのみを提供できる新たなヘルパー資格が創設されることだ。

厚労省は、その目的を人材確保のためとしている。しかし私は、この制度がヘルパー不足解消につながるとは全く考えていない。研修の導入が、他業界との人材獲得競争に勝つための“武器”になるとは思えないからだ。

生活援助中心型を担う訪問介護員の大部分は登録型の非常勤職員で、子育てが落ち着いた主婦層が主力となる。そして訪問介護と同様、子育てが落ち着いた主婦層を大切な戦力と位置付けているのが、スーパーマーケットだ。

そこで、給与面からスーパーマーケットと生活援助中心型の訪問介護を比較してみたい。

全国のスーパーマーケットなどの平均時給は852円(表3)。これらのパート・アルバイト時間給額は、1年前と比較すると「レジ担当者」で平均19.8円、「品出し担当者」で平均19.3円、引き上げられている。そして今後も、時給の引き上げは続く見込みだ。実際、私のゼミの受講生で都内に住む学生によれば、スーパーマーケットやコンビニにおける時給は、昼間帯の時間でも1050円を超えるという。

それに対し、生活援助中心型の訪問介護員の時給は、1100円から1400円程度だ。しかも、今回のマイナス改定で、時給が大幅に引き上げられる可能性は極めて低い。

一般的に、登録型ヘルパーは1日2件あたりの稼働が多く、3件を担うヘルパーは少ない。つまり、がんばってもその収入は1日約3000円にとどまることになる、これに対し、スーパーやコンビニエンスストアで働けば、時給900円としても、4時間―5時間働くことで4000円前後の収入となる。しかも、職場にはエアコンが完備されている。その上、自転車やマイカーで移動する時間も通勤以外はない。

こうした現実を思えば、いくら要件を緩和した研修を導入したところで、一部のボランティア的な動機の生活援助中心型の担い手は募ることができても、本質的な人材不足の解消には全く効果がないと考える。

ヘルパー不足により在宅介護の現場は崩壊?

訪問介護員については今後、特に深刻さを増すと見込まれている。社会保障審議会介護給付費分科会の資料によれば、現在の訪問介護員の平均年齢は、他の介護関係職種と比較しても高く、60歳以上の構成割合が3割を超えている。当然ながら、この3割の人材は、団塊世代が全て75歳以上になる2025年には、ほぼ引退しているだろう。

つまり、介護人材への需要が急増する時期、訪問介護では現場を知り尽くしたベテランの不足に悩まされることになる。

既に述べた通り、この問題は生活援助従事者研修では解決できそうにない。それでも、国がこの研修を人材確保の切り札と位置付け、他の施策を充実しないようなら、近い将来、在宅介護の現場は訪問介護員の不足によって崩壊するだろう。

生活援助が多いプランの届け出、やむを得ない側面も

そのほか、今回の介護報酬改定では、生活援助中心型の訪問介護の回数が一定数を超えるケアプランは、市区町村へ届け出ることが義務付けられる。このルールの導入については、一部の利潤追求型のサービス付き高齢者住宅系列の訪問介護事業所や居宅介護支援事業所を是正する必要性を思えば、いたしかたないのかもしれない。

当然のことだが、生活援助を必要としている利用者を担当しているケアマネジャーは、新たなルールが導入されたからといって萎縮する必要は全くない。回数などにとらわれず、必要なサービスであれば遠慮なくケアプランに盛り込めばよい。そして市区町村に対しては、「必要なものは必要!」と、理詰めで説明をすればよい。

いずれにしても、今回の生活援助軽視の介護報酬改定により、良質なヘルパーを探すことに苦慮するケアマネが増えるだろう。そして、ますます在宅介護現場の危機が加速化するのではないだろうか。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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