

結城教授の深掘り!介護保険
24改定の行方、診療報酬改定から読み解く
- 2022/01/28 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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コロナ禍でも大幅プラスは実現しなかった診療報酬改定
2021年12月22日、政府は22年4月からの診療報酬改定で本体部分をプラス0.43%とすることを決めた。もっとも、薬価引き下げなどの影響で全体はマイナス0.94%となっている。このことで医療費全体の負担(国費ベース)は約1320億円削減できる見込みだ。それでも、「看護師の処遇改善」「不妊治療の一部保険適用」などが本体引き上げによって実現できるという。
ここ数回の診療報酬改定は、「薬価を引き下げて本体部分を上げ、全体としてはマイナス改定にする」といった形での決着が続いている。コロナ禍で医療現場は深刻な事態に陥っているにもかかわらず、このパターンに変わりはなく、重要な収入源である診療報酬(本体)での大幅プラス改定は実現しなかった。
24改定は「ゼロ改定」か?
この診療報酬改定の結果から、24年度の介護報酬改定(24改定)を予想してみたい。結論から述べると、せいぜい、プラスマイナスゼロの「ゼロ改定」が御の字といったところだろう。
現行制度において、介護報酬を引き上げることは保険料を引き上げることと、ほぼ同義だ。そして報酬の引き上げ幅が大きければ大きいほど、保険料の引き上げ幅も大きくなる。
だが、既に65歳以上の保険料の全国平均は6014円に達している。介護保険制度の誕生当初と比べると実に倍以上の高騰ぶりである。さらに思い切った引き上げを望める状況とは、とても思えない。
保険料を引き上げずに大幅なプラス改定を実現する方法としては、介護保険財源の半分を占める公費負担を増やすしかない。例えば、現在は「1:1」となっている保険料と公費の負担割合を「4:6」や「3:7」に変更すれば、保険料の負担を抑えつつ、思い切った報酬引き上げが可能だ。
だが、コロナ対策で公費はかつてないほど盛大にばらまかれている。そして24改定を議論するころには、盛大にばらまいた分を少しでも取り戻すために財政引き締めを求める声が高まるはずだ。
財政引き締めを求める声が高まれば、その分、介護報酬を上乗せしようという機運は衰えていく。介護保険において公費負担割合を高めることなど、夢のまた夢という状況になる可能性の方が高い。
同時改定では、必ず「介護」は「医療」以下に
さらに24改定は6年に一度の医療・介護の同時改定だ。そして同時改定には、「厳しい結果を突きつけられる」ことと、「介護の改定率は医療のそれを下回る」という、2つの特徴があるようだ。(表参照)
診療報酬改定 | 介護報酬改定 | ||
---|---|---|---|
本体 | 全体 | ||
2024年 | ? | ? | ? |
2022年 | 0.43% | -0.94% | |
2021年 | 0.7% | ||
2020年 | 0.55% | -0.46% | |
2018年 | 0.55% | -1.19% | 0.54% |
2017年 | 1.14% | ||
2016年 | 0.49% | -0.84% | |
2015年 | マイナス2.27% | ||
2014年 | 0.73% | 0.1% | |
2012年 | 1.379% | 0.004% | マイナス0.8%(実質) |
2010年 | 1.55% | 0.19% | |
2009年 | 3% | ||
2008年 | 0.38% | -0.87% | |
2006年 | -1.36% | -3.16% | マイナス2.4% ※2015年10月改定分を含む。 |
2004年 | 0% | -1% | |
マイナス2.3% | |||
2002年 | -1.3% | -2.7% |
厚労省資料より作成
この表を見れば、先述した2つの特徴がはっきり見て取れる。ちなみに18年度の同時改定がプラス改定となっているのは、15年度の大幅なマイナス改定の反動にすぎない。
そして、最近の診療報酬(本体)の改定率は0.5%前後で推移していることもわかる。
こうしたプラ状況を鑑みれば、たとえプラス改定となったとしても、せいぜい「プラス0.5%前後で御の字」といったところではないだろうか。
もちろん、23年10月から同年12月の社会情勢次第で結果は変わるし、今年の参議院選挙の結果も大きく影響してくるから断言はできない。だが、今年10月には処遇改善のための臨時の介護報酬改定が行われ、公費がさらに捻出される。それを思えば、0.5%どころか「ゼロ改定」だって実現できるかどうか、怪しいところだ。どちらかといえば、マイナス改定となってしまう可能性の方が高いと思う。
居宅介護支援の基本報酬も削られる可能性
仮に、24改定が「ゼロ改定」やマイナス改定となれば、多くのサービスの基本報酬は削られる可能性がある。居宅介護支援費も例外ではないだろう。
その一方で、「科学的介護」を推進する取り組みに力を注げば、報酬増が期待できる仕組みが居宅介護支援に設けられることも考えられる。実際、過去のマイナス改定時には、基本報酬の引き下げ分を加算でリカバリーできる仕組みが何度も導入されてきた。
現在、居宅介護支援にはLIFEの活用などを要件とする「科学的介護」関連の加算はない。だが、既に厚労省の老健事業では「訪問系サービス」と「居宅介護支援事業所」でLIFE を活用することを見据えた分析・検証が行われている。断言はできないが24改定では居宅介護支援にもLIFEに関する加算が設けられる可能性は十分にある。
コロナ禍の後にやってくる大きな変化の「波」
そのほかにも24改定に向けた議論では、「ケアマネジメントへの自己負担の導入」「2割負担層の拡充」「軽度者の訪問・通所サービスの総合事業化」など、介護保険制度の根本にかかわる変更が検討される見通しだ。コロナ禍がいつ収束するのか、まだ分からない。だが、ケアマネや介護業界の関係者は、コロナ禍の後にも、大きな変化の「波」がやってくると予測し、備えねばなるまい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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