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弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

8050問題にどこまで関わるべき?(家庭内虐待に関する問題)

高齢の親が長年自宅に引きこもる子供を支える「8050」問題。最近は親子ともども高齢化したことで、「9060問題」ともいわれるようになりました。長引くコロナ禍は、こうした問題を抱える家族を、ますます社会的に孤立させているようです。

この状況を踏まえてか昨年、社会福祉法の改正によって重層的支援体制整備事業が創設されました。高齢・障害・生活困窮対策などセクションごとに分かれていた行政の体制を見直し、さまざまな角度から各家庭が抱える問題の解決を目指す事業です。

さらに昨年4月の介護報酬改定に伴い、高齢者虐待防止のための措置として、全事業所に「虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催」「指針の整備」「研修の実施」「担当者の設定」が義務付けられました。

このように高齢者、ひいてはその家族の権利擁護や生活支援が福祉職にとってますます重要な課題となった今、在宅のケアマネジャーにはどのような役割を求められるのでしょうか。ありがちな事例を通して考えてみましょう。

想定ケース:同居家族が親の金を使い込み、サービスに影響が出ているケース

ご利用者Aさん:(83歳女性、軽度の認知症、要介護度2)
夫は数年前に他界。福祉用具の杖を借りているほか、週に一回、訪問サービス(入浴介助)を利用。

Aさんの一人息子のBさん:(52歳、独身、無職)
普段は自宅2階の自室に引きこもっている。統合失調症の可能性があるが、正式な診断は出ていない。性格はやや粗暴。

Bさんは、「お袋はもう自分で管理できないから」という理由でAさんの通帳の管理をしている。しかし、実態としては管理というより使い込んでいる可能性が高く、自宅の廊下には宅配の空き箱が山のように積まれている。

最近はますます使い込みが激しくなってきたのか、「金がない。もう少し母のサービスを減らすことはできないのか」などと言い始めた。

一方でBさんはAさんを割とまめに世話をしている。排泄介助などにもきちんと取り組んでいるようだ。「だから、自分がいるから、介護サービスは必要ない」と言う。だが、整理整頓は苦手であるらしく、家の中は荒れ果て、食器類も洗われておらず不衛生だ。庭先は雑草が生い茂り近隣からも苦情が出ている。

Aさんは一人息子が可愛いらしく、いつもBさんをかばう。「息子はよくやってくれている。私のことはいいから」が口癖だ。なお、施設入所についてはAさん、Bさん共に望んでいないし、そのためのお金もない。

このようなケースに関わるケアマネとしては、どのように関わっていくべきでしょうか。以下の3つから、自分がとると思う行動に最も近い選択肢を選んでください。

ア Aさんが今の生活を望んでいる以上、ケアマネとしてできることはなく、現状維持するしかない。
イ Bさんによる虐待の可能性が高いため、地域包括支援センターに報告する。
ウ 生活環境を整えるサービスを増やすようAさん、Bさんを粘り強く説得する。

「経済的虐待」の恐れあり!包括との連携を

いかがでしょうか。絶対の正解はありませんが、筆者が考える良いと思う選択肢はイです。これと並行してウを行っても良いですが、このケースのようにご利用者・家族ともにかたくなである場合は、あまり現実的ではないかもしれません。

イを選ばなかった方は、「一応、親子関係は悪くはないし、Aさんも殴られたりしているわけではないのだから、虐待には該当しないのでは?」と思われたかもしれません。ですが、虐待の中には「経済的虐待」というものがあり、本件はこれに該当する可能性があります。

高齢者虐待防止法は、「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「不作為による虐待」、そして「経済的虐待」の5つを定義しており、「経済的虐待」は次のように定義されます。

養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。(法第二条第4項第二号)

本件では、BさんがAさんの年金を使い込んでいる可能性が高く、その影響でAさんに必要なサービスが提供できなくなりそうなのですから、Aさんを経済的に虐待しているという評価が成り立ちます。

もっとも、お金の使い道はプライベートな事柄であり、外部からはなかなか把握できないものです。それでも、高齢者虐待防止法では「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない」と明記しており(法第七条第2項)、ケアマネにもその義務が課されています。

実際に「通報」するタイミングは?

実際に通報するタイミングについて、高齢者虐待防止法では「虐待を受けたと思われる」場合としています。ですので、明らかに経済的虐待をしているという確証を得る必要まではなく、「サービスを提案してもお金がないという理由で断られる」「自分で年金を引き出し、自分のために使っているらしい」といった断片的情報の組み合わせでも構いません。

本件については、速やかに地域包括支援センターに通報する必要があるでしょう。なお、通報、というと、ひどく重々しく感じるかもしれませんが、法律では、そう表現されているというだけのこと。実際にやることは、普段から行っている他部署との「連携」「報告」と同じです。

当然のことですが、通報した人の素性は秘匿されます。ただし、実際に地域包括支援センターの職員が訪問などのアプローチをすれば、どこから報告がなされたかはBさんに勘づかれてしまう可能性があります。そうなると、Bさんが「何を勝手に役所に告げ口してくれたんだ!」などとケアマネを責めるような事態となるかもしれません。そうした事態を恐れ、先の選択肢では、アを選んだ方もいることでしょう。

しかし、家族の反発や報復を恐れていては高齢者を守ることはできません。

重要なことは各部署が連携し、チームで対応していくことです。慎重に内部協議を重ね、はじめは温和なアプローチを試み、Aさん、Bさん共に今の状態がおかしいことに気づいてもらうよう努めることができれば目的達成です。

それでも改善しない場合は、やむを得ず行政がAさんを施設に入れるという措置に乗り出すことも考えられます。ただ、そこから先は行政の役割であるため、民間のケアマネは関わる必要は無くなります。

外岡潤
1980年札幌生れ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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