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「保険外は怪しい」と決めつけないで /神戸貴子(遠距離介護支援協会代表理事)

昨年春の介護報酬改定では、居宅介護支援の特定事業所加算の要件として、インフォーマルサービスの活用を推進する内容が新たに加わった。鳥取県米子市の看護師、ケアマネジャーの神戸貴子さんは、介護保険外サービスの利用を広げるため、2018年に「遠距離介護支援協会」を創設。現在、約200人の医療・介護従事者が登録し、勉強会などを行っている。なぜ、介護保険外サービスなのか―。神戸さんに同協会を立ち上げた経緯などを聞いた。

神戸貴子さん

―「遠距離介護支援協会」を設立した経緯を教えてください。

2014年に「わたしの看護婦さん」(現在は「わたしの看護師さん」に改名)という介護保険外サービスの事業を始めたことが背景にあります。なぜ、そのようなサービスを立ち上げたのかというと、私は20代の頃、働きながら介護と育児を同時に経験しました。いまで言う「ダブルケア」ですね。

夫の叔父と叔母の介護だったんですけど、看護師の資格を持っていたので、「困ったらここに相談すればいい」というのは、なんとなくわかっていましたし、「なんとかなるだろう」と思っていたんです。「嫁としてのポイントを上げてやろう」くらいの気持ちで(笑)。ところが、いざ始めてみると、ものすごく大変で…。

―どんなところが大変だったんですか。

まず、ケアマネさんが言っていることが全然わからない。専門用語が難しすぎる。例えば、サービス担当者会議。略して「担会」とか「ケア会議」とか呼ぶ人もいますが、そもそも、会議を開く目的すらわかっていませんでした。

とにかく、制度がややこしいんです。叔母の認知症が進んで、要支援から要介護に変わると、「ケアマネも替わる」と言われ、施設に入ると、また別のケアマネに替わる。ケアマネさんは一生懸命制度の話をしてくれるんですけど、「なんでですか?」と突っ込むと、みんなもごもごしてしまって、なんだか納得がいきませんでした。

育児をしていると、子供の行事などでどうしても出かけなければならない時があります。定期受診への付き添いは無理だと思ったので、ケアマネさんに「ヘルパーさんにお願いできないですか?」と頼むと、「それは家族がやることです!」と言われてしまいました。

「いずれ起業したい」 ケアマネの相談も

私が制度のことを理解していなかったせいもあると思いますが、仕事と介護、育児の両立って、ものすごく難しいと感じたんです。叔父と叔母を看取って、ようやく介護が終わった後も、私の心の中には“罪悪感”のようなものが残りました。

それからしばらく経って、私が30代後半になった頃、今度は、ママ友達の親の介護が始まりました。その時、彼女が「神戸ちゃんの苦しみがようやくわかった」と言ってくれて、「病院に付き添わないといけないけど、仕事の調整が大変だから手伝って!」とお願いされることもありました。

叔父や叔母のように、子供がいない夫婦もいれば、天涯孤独の方もいます。こうした方たちを支援することにビジネスチャンスがあると思って、7年前に起業しました。営業先がケアマネさんということも多いので、その時に、勉強も兼ねてケアマネの資格を取りました。

その後、順調に利用者が増えて、テレビの全国ニュースで取り上げられるようになりました。県外からの問い合わせも増えてきたので、仲間を集めようと思って、いろんな方とお話をしてみたら、「保険外サービスで起業したい」という方が結構いたんですね。

「気づいたら、受診同行に半日かかることもある。何かビジネスにならない?」というケアマネさんからの相談もありました。だったら、「勉強会を作ろう」と思って、「遠距離介護支援協会」を立ち上げたんです。

―「遠距離介護」と付けたのはなぜですか。

「遠距離介護」には、3つの意味を込めています。1つ目は、遠くに住んでいるという物理的な距離。2つ目は、近くに住んでいるけれども、活動する時間が全く違うという「時間の距離」。例えば、年老いた父親と同居していても、朝起きる時間が全く違うし、残業して帰ってきたら、父親はもう寝ている。ゆっくり話す時間も無いし、平日の日中の受診にも付き添えないという時間のすれ違いです。そして、最後は「心の距離」。価値観の違いなどで親子仲が悪く、「お互い会いたくもない」というケースです。これら3つの「遠距離介護」について、世の中に発信、提言していければいいなと思っています。

―勉強会では、どんなことをやっているのですか。

月2回、Zoomで定期的に集まって、例えば、保険外サービスを既にやっている方に、どのような活動をしているか話してもらっています。今週は看護師が多かったので、訪問先でワクチン接種後のお薬のことで相談された事例について検討しました。会員登録をした方を対象に、チェックテストも行っています。

登録者はまもなく200人を超えます。ケアマネさんの登録者は、居宅や包括で働いている方が多いです。ベースの資格が介護福祉士や看護師で、「いずれ起業したい」と考えて参加されている方もいれば、保険外サービスについて学ぶために参加されている方もいます。

介護保険が社会に対応できなくなった

―保険外サービスの利点は、どんなところにあるとお考えですか。

やっぱり、時間にとらわれず、不定期でも使えるという点ですね。保険内サービスだと、例えば、月曜日の午前10時に訪問入浴が入っていれば、当日に風邪をひいて「入浴は要らないから、代わりに薬局に薬を取りに行ってほしい」と思っても、「ケアプランに載っていないからできません」と断られてしまいます。その点、保険外サービスは融通が利きます。

介護保険と医療保険は同時に使えないので、あえて保険適用のサービスを使わないことで、ほぼ家族と同じ動きができるという強みもあります。比較的どこへもついていけますから。これ以上サービスを入れると、限度額をオーバーしちゃう時は、超えた部分を保険外に切り替えることもできます。

介護保険のサービスだと、ヘルパーさんがやれることは限られています。でも、例えば、「お彼岸が近いから、仏壇にお供えするお団子を買ってきてほしい」とか、「孫がやって来るから、孫のために駄菓子をいっぱい買ってきてほしい」とか、そういったお願いをしたい方もいます。

これって、介護保険のヘルパーさんではできないんですけど、保険外サービスを契約していれば、1時間は保険内のヘルパーとしての生活援助、1時間後に保険外に切り替えて、「別料金で、お団子を買いに行けます。お孫さんの駄菓子も」という話になれば、利用者さんの選択肢も増えますよね。もちろん、保険外だとわかるように、きちんと名札も変えています。

介護保険って、すごく賢くできているんですけど、創設から20年が経って、社会のニーズに対応できなくなっている気がします。ご家族が同居しているとか、ご近所に親戚が住んでいるとか、家族関係の前提が崩れてきています。

地元を離れて、県外で働くことは当たり前の時代になりました。また、極端な少子化が進む一方で、正規職員として働く女性も増えています。定年が上がり、働く高齢者も増える中、家庭の中に介護をする人がいないのです。家族が手伝って初めて成り立つ仕組みなので、介護者がいないと機能しなくなります。その穴を埋め、支えになるのが保険外サービスだと思っています。

「高齢者=お金が無い」ではない

―国はケアマネジャーに対して、インフォーマルサービスの活用を促していますが、介護保険外サービスの活用はあまり進んでいないのが現状です。その理由は何だとお考えですか。

私の中に「2対8の法則」があります。2割のケアマネさんは「保険外サービスを導入していい」と思っている一方で、8割の方は「保険外は怪しい」と考えているのです。

保険外サービスの利用が広がらない理由は、「高齢者=お金が無い」と考えるケアマネさんが多いからだと思います。

私はいつも言っているんですが、高齢者が何にお金を使うかは、その方の自由なんです。価値観は人それぞれ違う。それなのにケアマネさんご自身が、「保険外サービスにお金を使うべきではない」と決めつけているような気がします。

だから、「ワンコインのサービスなら紹介するけど、1時間3千円以上するようなサービスは絶対に紹介しない!」と考えてしまうのではないでしょうか。利用者さんへの愛情が強いばかりに、「お金が無くて、家族も頼れないのならば、私がついていく」みたいな感じで、無償で受診に付き添う方もいます。

―本当にお金に困っている方もいれば、現役世代より収入のある方もいる。資産に幅がある中で“間口”を狭めてしまうと、保険外サービスの利用が広がらない、と。

そうです。毎年、およそ10万人の方が介護を理由に仕事を辞めています。「介護離職」による経済損失は、年間で約6500億円に上るとする試算もあります。このうち一部が納税につながれば、社会保障にも良い影響を与えると思います。

離職せざるを得ないほど重度の方であれば、介護保険サービスを利用しているはずなんです。にもかかわらず、「介護離職」を防ぐことができないわけですから、保険外サービスのニーズはあると思いますし、その助言をするのがケアマネさんの役目ではないでしょうか。ご家族の対応が難しい場合は、「保険外サービスも選択肢の一つとしてある」と説明していただければ、ケアプランにもそれが生きてくると思います。

取材・構成/敦賀陽平

神戸貴子(かんべ・たかこ)
自身の介護と子育ての経験から、現在の介護保険制度は、介護家族に十分なサービスを提供できていないことを実感。より良い介護サービスを提供したいとの思いから、2014年に保険外で介護サービスを提供する「わたしの看護婦さん」(現在は「わたしの看護師さん」に改名)を開始。現在、NPO法人ライセンスワーク代表理事や鳥取県協働連携会議委員などを務める。内閣府男女共同参画担当大臣賞「女性のチャレンジ賞」(2018年)など受賞歴多数。看護師、ケアマネジャー。

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