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厳しい内容ばかりの財務省の提案、実現しそうなのは?-その可能性を考える

財務省が改正で求める5つのポイント

いよいよ、次の介護保険法改正を見据えた議論が始まった。注目されているのは、4月13日に示された財政制度等審議会(財政審、財務大臣の諮問機関)での提案だ。

財政審での提案の主なポイントは、次の5点だ。

1:「利用者2割負担の対象範囲拡大」
2:「ケアマネジメントの利用者負担の導入」(ケアプラン有料化)
3:「軽度者サービスの地域支援事業への移行」
4:「介護保険施設の多床室の室料負担の見直し」
5:「経営の大規模化・協働化」

この中でも1、2、3については過去、何度となく議論されてきたことだ。読者の中には「またもや、やるやる詐欺?」と感じている人も多いだろう。また、「どうせ今回も実現されないだろう」と、考える人も少なくないはずだ。

しかし、私は次期改正においては、この5つのテーマのうち、1つもしくは2つは実現されると考える。理由は簡単だ。コロナ禍により財政赤字がおそろしく膨らんでいるからだ。

そこで今回は、この5つのテーマの中でも、特に実現可能性が高いものがどれか、考えてみたい。

実現可能性が高い「本命」はやはり…ケアプラン有料化?

上記の5つのテーマのうち、とりわけ実現可能性が高いのは、ずばり「ケアプラン有料化」だろう。

厚生労働省の資料によれば、2020年度の居宅介護支援費用額は約5000億円。仮に1割利用者負担で「ケアプラン有料化」を実現した場合、約500億円の財政効果が見込める。

ちなみに、今年2月から導入された「介護職員処遇改善支援補助金」のために割かれた国費は約1000億円。この施策で岸田政権は介護職員の給与月額9000円賃上げをうたっていた。

仮に「ケアプラン有料化」で確保した財源で「介護職員処遇改善支援補助金」と仕組みで、さらに処遇改善を目指すなら、月額4500円の追加の賃上げが実現できることになる。

いうまでもなく、この試算はごく粗いものだ。また「ケアプラン有料化」の財源で、ケアマネジャー以外の介護職員の処遇改善を実現するのも、ちょっと考えにくい。ただ、例えば「その財源でケアマネの処遇改善を目指す」という仕組みであれば、実現する可能性は高まる。対象者もより限定されるから、賃上げ幅も大きくなるだろう。

「ケアプラン有料化」が実現した場合、利用者には新たな負担が毎月1000円前後の負担増となる。それでも、一部の利用者の負担が倍に跳ね上がる「2割負担対象者の拡大」にくらべれば、国民からも理解も得られやすいように思える。

さらに「訪問介護、介護保険施設などには負担があるのに、なぜケアマネだけは特別扱いなのか」と、思っている介護関係者も少なくはないことも考えると、やはり、この提案は、他の案に比べれば現実味を帯びて見える。

次いで可能性が高いのは「利用者2割負担の範囲拡大」

「ケアプラン有料化」の次に実現可能性が高いのは、「利用者2割負担の対象範囲拡大」だろう。

今年の秋に実施される後期高齢者医療制度では、2割負担の対象が拡大される。具体的には、「単身世帯ベースで、年金収入+その他の合計所得金額が200万円以上」であれば、負担割合は1割から2割になる。

この後期高齢医療制度の改正を参考に、介護の利用者負担も議論されることになるのではないか。

もし、2割負担の基準が「単身世帯ベースで、年金収入+その他の合計所得金額が200万円以上」(※現在の2割負担の基準は、240万円以上340万円未満)まで下がれば、相当な財政効果が期待できる。

この提案が実現すれば、先に述べた「ケアプラン有料化」は見送られるだろう。二つの施策を同時に実施すれば、世論の批判は強くなり、政治的に問題になるからだ。ただ、参議院選挙の結果次第では、同時導入が検討されるかもしれない。

「軽度者サービスの地域支援事業への移行」は他の施策の動向次第

「軽度者サービスの地域支援事業への移行」については、他の改正案の動向次第だろう。

利用者へ大きな負担を強いる「利用者2割負担の対象範囲拡大」が実現すれば、「軽度者サービスの地域支援事業への移行」は見送られるだろう。

一方、「利用者2割負担の対象範囲拡大」が見送られれば、「ケアマネ利用者負担」と「軽度者サービスの地域支援事業への移行」が、実現される可能性が高まる。

多床室の室料負担の見直し案は「セコ過ぎる」

「介護保険施設の多床室の室料負担の見直し」と、「経営の大規模化・協働化」については、財政効果はほとんど期待できない。特に、多床室の室料負担の見直しは、決して裕福とはいえない高齢者層から、わずかな負担を強いる「セコすぎる」施策だ。

その点を財務省も厚労省も分かっていないはずがない。なので、この2つのテーマについては、議論はされても、利用者や事業者に大きな負担が生じるような大きな変化がもたらされる可能性は低い。

介護保険を「聖域」と位置付け、慎重な議論を

最後に、「そもそも論」を少し述べたい。

年間の介護の給付費は12.3兆円。そう聞くと、恐ろしく大きな額と思えるが、年金(約59兆円)や医療(約41兆円)と比べれば、その規模は小さい。実際、社会保障給付費全体の中で介護給付費が占める割合は、10%ほどだ。

それだけに、たとえ財務省の提案をすべて受け入れ、実現したところで、一気に財政健全化を実現するほどの効果が期待できるわけではない。

むろん、財政赤字が深刻化していることは看過できない大問題だ。

だが、だからといって財務省の提案に乗り、介護給付費を削減すれば、高齢者やその家族の生活へのダメージが大きい。さして財政効果を期待できない割には、社会的損害が大きすぎると思うのだ。それでもその提案の実現を強行すれば、介護離職がさらに増え、ヤングケアラー問題がさらに深刻化し、介護難民が急増することも考えられる。

案外知られていないが、一般会計の税収の推移をみるとコロナ禍といえども過去最高額となっており、2022年度予算は65.2兆円が見込まれている。バブル期の1990年度を凌いでいるのだ。(図参照)

一般会計税収の推移

財務省「一般会計税収の推移」『税収に関する資料』より作成
2020年度以前は決算額、2021年度は補正後予算額、2022年度は予算額(案)

こうした現実を思えば、介護保険制度については「聖域」と位置付け、より慎重に制度の在り方を考えてもよいのではないか。ぜひとも大局的見地から、介護保険改正の論議が繰り広げられてほしいものだ。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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