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「肩透かし」の骨太方針…それでも、油断はできない!

注目すべきは参院選後の議論の行方

7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針)が閣議決定された。その内容をみると先月、財政制度等審議会(財政審)が示した厳しい改革案(ケアプラン有料化、単品プランの報酬削減、要介護1、2の事業移行、2割負担の原則化など)は見当たらず、「肩透かし」の感が否めない。

しかし、だからといって「2024年度の介護保険法改正・介護報酬改定は安心だ」とは、言えない。過去の制度改正や報酬改定では、骨太方針には記載されていない新施策が導入された例もあるからだ。

そもそも、来月には参議院選挙が控えているのだから、票に響きかねない負担増の施策が、骨太方針にわかりやすく盛り込まれるとは思えない。

さらに言えば、今回の制度改正や報酬改定向けた議論では、過去の議論で積み残されたテーマを継続して審議する方針が示されている。そして、その積み残されたテーマの中には、ケアプラン有料化の導入の是非も含まれているのだ。

骨太方針の内容にかかわらず、参院選後に本格化するはずの介護関連施策の議論こそ、注視していかねばならない。

抽象的でも「恐るべき」2つの文言

その上で、改めて骨太方針を詳しく読み込むと、介護サービスを利用する人の負担増につながる、「伏線」といえる文言が盛り込まれていることに気づく方もいるだろう。

私は特に、以下の2つの文言に注目したい。

  • 「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し」
  • 「全世代型社会保障の構築に向けて、世代間の対立に陥ることなく、全世代にわたって広く基本的な考え方を共有し、国民的な議論を進めていく」

ひどく抽象的な文言ではあるが、要は、若い世代に偏っていた社会保障のための負担を、高齢者にも分担させようという内容だ。

そして、この文言が骨太方針に明記されたことで、ケアプラン有料化や2割負担の原則化といった高齢者の負担を見直すような施策も、「政府の方針に則った改革案として堂々と議論する環境が整った」と、みなすこともできる。

その意味では、今回の骨太方針は、財政審の提案をさりげなく、それでいて、余すところなく包含した、恐るべき内容といえるかもしれない。

防衛力の強化が、介護に影響する可能性

もう一つ、今回の骨太方針で注目しなければならないのは、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」ことが盛り込まれた点だ。

防衛力を維持・強化するための防衛関係予算は、2022年当初予算では約5.4兆円が計上された。GDPの1%程度で、年金(約59兆円)や医療(約41兆円)に必要な予算に比べると、少ない印象を受けるかもしれないが、防衛関係予算は、毎年、増額されてきた(図参照)。

防衛関係予算の推移
防衛関係予算の推移 財政制度等審議会財政制度分科会 歳出改革部会 『防衛』2022年4⽉20⽇2頁より作成

財政制度等審議会財政制度分科会 歳出改革部会 『防衛』2022年4⽉20⽇2頁より作成

この防衛関係予算をさらに増額させようというのが、骨太方針の趣旨である。

ただし、国の予算は無限ではない。骨太方針に従って思い切った防衛関係予算の拡大を実現するには、どこか別の予算を削るか、国債を発行するかの、どちらかしか方法はない。

このうち国債については、新型コロナウイルス対策で、かつてないほど盛大に発行したばかりだ。だから、この方法に頼り切るというわけにはいかないだろう。

やはり、どこか別の予算の一部を削った上で、防衛関係予算に充てるというのが、もっとも現実的な方法だと思う。

そして削る対象として、もっともわかりやすいのは、やはり社会保障関係予算だろう。なにしろ、社会保障関係予算は、国の一般会計予算の3分の1を占めているのだから。

例えば、2022年度の介護保険給付費は約12兆円。介護報酬改定で全体の改定率をマイナス1%にすると約1200億円、マイナス2%にすれば約2400億円の財源捻出が可能となる。その4分の1が国の負担であるから、マイナス2%の介護報酬改定でだけで600億円の国費(公費)をひねり出せる。

それに「ケアプラン有料化、2割負担の原則化」といった施策もあわせて実施した上、医療や福祉予算(生活保護基準の見直し含む)といった給付費も抑制すれば、もう一桁上の予算を確保できるはずだ。

既に述べた通り、防衛関係予算は総額でも5.4兆円ほどだから、何千億円の別予算を上乗せするだけで、相当な増額となりうる。つまり、社会保障関係費の抑制と受益者負担の拡大だけでも、防衛関連費の増大分のかなりの部分を賄えるはずだ。

もちろん、政府も表だって「防衛関連費増額のために社会保障関係費を抑制します」といった見解は示さないであろう。おそらく、社会保障関係費を抑制する大義名分としては「コロナ禍による国債発行額が大きすぎたため」といったあたりの理由を持ち出すと思われる。

今こそ「介護は聖域」の声を上げるべき!

とにかく、ロシアによるウクライナ侵攻などによって「安全保障」が注目されたことで、介護をはじめとした「社会保障」が、より厳しい環境に置かれていることだけは疑いようがない。骨太方針に財政審の提案が盛り込まれていないように見えるからといって、少しも油断はできない。むしろ、危機的状況になっているとすらいえるのだ。

このような情勢を鑑みても、先月号でも述べた通り、介護業界の関係者は「介護こそは聖域」といった声をあげていく必要があると思う。

言うまでもないが、財政政策と介護政策は表裏一体である。油断せず、介護施策の重要性を社会啓発し続けていくべきだ。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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