弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
実は役に立たない?!公のガイドライン
- 2022/07/19 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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2024年3月31日までに、全事業所が作成を求められているBCP(業務継続計画)。小規模の事業所では、あまり作成は進んでいないようですが、皆様の事業所はどうでしょうか。
BCPは災害と感染症の2種類を作る必要がありますが、ついつい対応を欲張ってしまい、実行が難しい内容を立案してしまっていることはありませんか。また「ご利用者の避難や救助、その後のケアについて、どこまでBCPに盛り込むべきか」という点に頭を痛めているケアマネさんも多いはず。何かと悩ましいBCPですが、作成のコツは法令上求められる最低限の「骨格」を見極めること。今回の特別編では、私が厚生労働省に尋ねるなどして確認したケアマネ版BCPの「骨格」について解説します。
実は役に立たない?!公のガイドライン
BCPを作成する上で公的な手掛かりと位置付けられているのが、厚労省が20年12月に公表した「業務継続ガイドライン」です。このガイドライン、無料で入手できることはありがたいのですが、問題は施設を想定した内容であるため、居宅介護支援については、ほとんど記述がないこと。そして、その少ない記述も、実際にはあまり役に立たない内容となっているのです。
例えば「居宅介護支援サービス固有事項」のページには、平時からの対応として次のように書かれていますが‥‥。
「災害発生時、優先的に安否確認が必要な利用者について、あらかじめ検討の上、利用者台帳等において、その情報がわかるようにしておくこと」
一見、「なるほど、もっとも!」という内容です。ただし、実現はほとんど不可能でしょう。なぜならご利用者の心身の状況や生活環境は、日々刻々と変化していくからです。現段階の情報を把握できるようにしておいたところで、来月にはご利用者が病院に入院してしまうかもしれません。さらに再来月には、退院したものの要介護度は一気に悪化しているかもしれないのです。
そのような変化が生じるたびに、利用者の情報を更新し、BCPを見直さなければなりません。「利用者台帳」という、BCP本体とは別のリストに記録するだけであれば、可能かもしれませんが、それでも大変な手間です。
読み進めていくと、ほかにも混乱することばかり書かれています。例えば‥‥
【災害が予想される場合の対応】
「訪問サービスや通所サービスについて『台風などで甚大な被害が予想される場合などにおいては、サービスの休止・縮小を余儀なくされることを想定し、あらかじめその基準を定めておく』とされており、利用者が利用する各事業所が定める基準について、事前に情報共有し、把握しておくこと」
これも理想を言えばその通りでしょう。だが、「利用者が利用する各事業所」を網羅しようと思えば数十、数百カ所に上ってしまいます。その全てに対し、サービス休止の基準を事前に聞き出し把握することなど事実上不可能です。さらにいえば、1カ所でもそのような基準を定めない事業所があればBCPは永遠に完成しないことになります。
役に立たない、というのは、辛口過ぎる物言いかもしれません。それでも厚労省のガイドラインがあまり参考にならないことは、分かって頂けたかと思います。雛形についても同様であり、「8.居宅介護支援サービス固有事項」のページは何も書かれていません。
頼るべきは「運営基準」
では何を参考に作成すれば良いのか―。その答えは「運営基準」にあります。
「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について(いわゆる運営基準解釈通知)中「(14)業務継続計画の策定等」には、以下のとおり定められています。
…業務継続計画には、以下の項目等を記載すること。なお、各項目の記載内容については、「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」及び「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を参照されたい。また、想定される災害等は地域によって異なるものであることから、項目については実態に応じて設定すること。なお、感染症及び災害の業務継続計画を一体的に策定することを妨げるものではない。
イ 感染症に係る業務継続計画
- a 平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取組の実施、備蓄品の確保等)
- b 初動対応
- c 感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)
ロ 災害に係る業務継続計画
- a 平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等)
- b 緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等)
- c 他施設及び地域との連携
実はこれこそが、ミニマムなBCPを作る上で「骨格」となる項目なのです。解釈通知はその元となる運営基準の詳細を解説したものですが、その運営基準は介護保険法から授権されています。つまり、解釈通知に書かれていることさえ守れば、介護保険法令を満たす、過不足のないBCPとなるということです。
この「イ(感染症)」と「ロ(災害)」で規定される項目建ては、実は施設から在宅(ケアマネを含む)まで全て同じなのですが、ケアマネ版BCPもこの項目を網羅していれば良いということになります。そう考えると気が楽になりますね。
長くなりましたので、次号ではこの「骨格」を元にした具体的な策定のポイントについて解説します。お楽しみに。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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