

結城教授の深掘り!介護保険
基本報酬を「フラット」にして、介護予防プランを居宅介護支援へ!
- 2022/09/30 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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2024年度の介護保険法改正に向けた議論が続く社会保障審議会介護保険部会で9月12日、注目すべきテーマが掲げられた。
「地域包括支援センター(包括)の業務負担を軽減するため 、居宅介護支援事業所が介護予防支援を直接担うことができるようにすべきか」である。
包括職員の「重荷」となっている介護予防プラン
同部会の参考資料によれば、包括の職員が負担超過と感じる業務のトップは「介護予防(要支援1・2)」。半数以上が負担超過と感じていた。他の業務では、負担超過と答えた職員が4割に達していないことを思えば、包括の職員にとって介護予防プランが、かなり重い負担となっていることは間違いない。=表=
地域包括支援センターにおける負担超過(過負担)業務(複数回答)
1 | 介護予防プラン(要支援1・2) | 55.7% |
---|---|---|
2 | 総合相談支援業務 | 38.2% |
3 | 地域ケア会議業務 | 29.0% |
4 | 権利擁護業務 | 28.4% |
5 | 認知症総合支援事業 | 17.2% |
6 | 生活支援体制整備事業 | 16.3% |
7 | 一般介護予防事業 | 11.2% |
8 | その他業務 | 8.2% |
社会保障審議会介護保険部会の資料を基に作成
介護予防プランが包括職員の「重荷」となっている要因は3つある。1つ目は年々、高齢者が増え続けていること。2つ目は、包括に新たな業務が次々と課されるようになったこと。そして3つ目は、居宅介護支援事業所が介護予防プランの受託に消極的であり続けていることだ。
3つの要因のうち、高齢者の増加は解決しようのない「現象」だ。だが2つ目と3つ目については、何らかの解決を目指せる「課題」である。
「予防は包括が丸抱え」では、劇的な業務簡素化は困難
ならば、「重荷」となっている介護予防プラン業務の負担を軽くするにはどうすればいいのか。また、居宅介護支援事業所への委託を促進するには、どんな施策が必要なのだろうか。
まず、介護予防プラン業務の負担軽減について。かつてその業務に携わった経験からしても、現行の体制を維持したままでは、劇的な業務負担軽減は不可能と考える。なぜなら事務作業が多少軽くなっても、要支援者に関わる手間は、あまり軽減されないからだ。
むしろ、要支援者のほうが重度の要介護者と比べ、時間を要することがある。例えば、要支援者への訪問は3カ月に1回でも構わないとなっているが、多くの担当者は要介護者と同様、毎月訪問するケースが多いと聞く。さらに言うなら、元気であるからこそ、ささいな問い合わせや要望も多い。
包括が介護予防プランを丸抱えしたままでは、その業務負担を軽くするのは難しいと言わざるを得ない。
ケアマネジメントの仕組みを06年4月以前に「復古」すべき!
結局、包括での介護予防プランの業務負担を軽くするには、居宅介護支援事業への委託を進めるしか道はない。そして、介護予防プランの居宅介護支援への委託を進めるためには、ケアマネジメントの仕組みを2006年4月以前に「復古」するのが最も早道だと思う。
委託方式を廃止して要支援1・2のケアプランを直に居宅介護支援事業所が担当できるようにすべき、ということだ。
そもそも要支援と要介護で、ケアマネジメントを担う機関が異なること自体が制度設計のミスではなかったのか?本来、ケアマネジメントは軽度者から重度者まで、同じ機関が担うべきであり、現在のような分断的形態は利用者の視点からもデメリットは大きい。
ただし、この提案をいきなり実現するのは難しいだろう。介護予防支援費が安すぎるという問題があるからだ。なにしろ、介護予防支援費は「利用者1人あたり約4300円」。人件費も工面できそうにない額だ。こんな報酬設定で、居宅介護支援事業所が要支援者を担当したがるはずがない。
この問題を解決するには、居宅介護支援の基本報酬を思い切って設定し直す必要があるのではないか。
例えば、現行の「要介護3・4・5」の約14000円のプラン代を、「要介護1・2」とほぼ同レベル(約10000円)に引き下げた上で、それによって捻出した財源を「要支援1・2」の支援費に分配するといった方法が考えられる。つまり、要介護度によって大きな格差がある基本報酬を、ほぼ「フラット」にするという提案だ。こうすれば、居宅介護支援事業所も、介護予防プランを請け負いやすくなるはずだ。
今こそ真剣に検討すべき「地域包括支援センター」の在り方
ここで問題になるのは、すべての介護予防ケアプランを居宅介護支援事業所に戻すと、一部の包括が減収となり、運営に支障が出る可能性がある点だ。
この問題の解決は、自治体に期待するしかない。別枠で予算を割いてでも、包括の運営を支援すべきだろう。というより、包括が取り組む事業の公共性の高さを思えば、その運営の安定化は各自治体の責務といえる。
最後に、私の提言が実現されるかどうかはさておき、この機会に自治体及び介護関係者は、包括の在り方を真剣に考えてほしい。単に介護予防支援費の動向といった狭い視野ではなく、高齢者福祉や介護予防を含めた保健、地域互助機能の再構築といった地域福祉がどうあるべきかという視点で考えてほしいのだ。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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