ケアマネジャー(ケアマネ、ケアマネージャー)・介護支援専門員の業務を支援するケアマネジメントオンラインケアマネジャー(ケアマネ、ケアマネージャー)・介護支援専門員の業務を支援するケアマネジメントオンライン

小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

居宅にも影響、財務状況の届け出義務化

厚生労働省は先日、2024年度(令和6年度)の介護保険法改正について審議する社会保障審議会介護保険部会で、新たな財務状況の“見える化”を提起した。社会福祉法人や障がい福祉事業者に対しては、既に財務諸表の公表を課しているが、これまで対象外だった介護サービス事業者についても同様に財務状況の公表を検討するとしたのだ。

この点については、政府の経済財政運営の指針「骨太の方針2022」や、財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)財政制度分科会において既に示されていた。

同省はまた、介護サービス情報公表制度において、各施設・事業所の従事者1人当たりの賃金なども公表の対象とするとした。既に職種別の従事者の数や経験年数などが公表されていることを踏まえての提案で、これが実現する可能性は高いと言える。

さらに、介護サービス事業者に対して、財務諸表などの経営に関する情報を定期的に都道府県知事に届け出ることも提案した。届け出が義務化された場合、情報提供のための全国的な電子開示システムとデータベースが整備されることとなり、社会福祉法人と同じ仕組みが導入されることになるだろう。

小規模法人の負担増に懸念

厚労省はこれまで、3年ごとの介護事業経営実態調査(介護事業実態調査)の中で、介護事業者の決算データを収集してきた。しかし、これは一部の事業所を対象としたサンプル調査に過ぎず、介護業界全体の財務状況を的確に示しているとは言い難かった。介護職員の処遇改善加算などの検証についても同様である。

介護事業者の財務状況をデータベース化することで、エビデンスとしての確度が高まり、介護報酬改定や処遇改善などの際、より的確な施策につなげることができるだろう。

ただ、問題点もある。都道府県への提出が想定される決算データは、単に税務署に提出した決算書の数字ではない。複数の拠点や併設するサービスがある場合は、拠点ごと、サービスごとの損益計算書を、「会計の区分」に従って個別に作成し、提出しなければならないのだ。

来年10月からスタートする「インボイス制度」と共に、特に小規模法人での事務負担の増加が懸念される。

「会計の区分」とは何か

先述した「会計の区分」とは、厚生省令37号などの各サービスの解釈通知に規定された運営基準の一つだ。

同一法人で複数のサービス拠点を運営している場合は、その拠点ごとに会計を分けなければならない。これを「本支店会計」という。また、例えば、訪問介護と第一号訪問事業、居宅介護支援、障がい福祉サービス、自費サービス、一般事業など複数のサービスを営んでいる場合は、それぞれ分けて会計処理を行う。これを「部門別会計」という。

会計を分けるためには、少なくとも決算書を作成する段階で、別々の損益計算書を作成する必要がある。収入だけでなく、給与や電気代、ガソリン代など全ての経費を拠点ごと、部門ごとに分けなければならない。

この作業は、税務署に決算書を提出する際には求められていないが、「会計の区分」の要件となっている。

「会計の区分」の実務とは

厚労省は、複数の会計方法を提示している。収入については、国保連合会から提供される明細書で簡単に振り分けることができるだろう。経費については日々、部門ごとに会計伝票を分けて記載することが基本となる。

日常の経理で明確に分けることのできない経費は、共通経費としてまとめておき、月末や決算時に「按分比率」を使って各サービスの部門に割り振る。これを「共通経費按分」と言う。

「按分比率」の基準として、厚労省は「延べ利用者数割合」などを例示しているので、参考にしてほしい。ただ、それほど厳密に考える必要はなく、運営指導で担当者に説明できる合理的な基準を用いていれば問題はないとされる。

医療法人が運営する介護施設や社会福祉法人の会計基準にも同様に、「会計の区分」の規定がある。運営指導でこれを指摘された場合、通常は3年前までさかのぼって「会計の区分」に沿った決算書を再作成し、行政に提出することが求められる。

「会計事務所任せ」は危険

中小規模の事業者の場合、会計専門の事務員を雇用することは少なく、経営者自らが会計業務を行っていたり、会計事務所に記帳代行を依頼し、丸投げしたりするケースが少なくない。

会計事務所が行っているのは「税務会計」と呼ばれるもので、税金の計算のための会計だ。「会計の区分」における会計とは全くの別物だ。多くの会計事務所は、「会計の区分」の存在すら知らないため、事業者から依頼があっても、対応できない可能性もある。

「会計事務所に任せているから」は危険である。今後の決算情報の公表義務化や「インボイス制度」のことを考えればなおさらだ。

事業者は、介護事業に精通した会計事務所の選択が不可欠となる。今回、新たな財務状況の公表が提起されたことを機に、依頼する会計事務所をしっかりと見極める必要があるだろう。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

スキルアップにつながる!おすすめ記事

このカテゴリの他の記事

小濱道博の介護経営よもやま話の記事一覧へ

こちらもおすすめ

ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報

介護関連商品・サービスのご案内

ログインしてください

無料会員登録はこちら

ログインできない方

広告掲載・マーケティング支援に
関するお問い合わせ

ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは

全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。

ケアマネジメント・オンラインの特長

「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。