

結城教授の深掘り!介護保険
「訪問+通所」新サービス創設の衝撃―在宅の現場はどうなる?
- 2022/12/22 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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ヘルパー不足解消を目指し、在宅の2大サービスを複合へ
12月19日の社会保障審議会介護保険部会で厚生労働省から「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」が示された。いろいろポイントはあるが、まず注目すべきは、在宅での新サービス創設が盛り込まれたことだろう。
それも約3.4万カ所ある訪問介護事業所と、地域密着型も含めれば約4.5万カ所ある通所介護という、在宅を支える2大サービスを組み合わせて新サービスを作るというのだから、ケアマネジャーも注目しないわけにはいかない。はっきり言って、介護保険制度の20年余りの歴史の中でも画期的といえるできごとだ。
新サービスは、類型としては地域密着型サービスになることが見込まれている。創設の目的は、サービス間の人材の柔軟な運用による、介護人材不足の解消だ。ここ数年、訪問介護員(ヘルパー)の人材不足が深刻化したため、要介護者が増え続けているにも関わらず、訪問介護事業所は伸び悩むという状況が続いている。(図参照)、この現状を思えば、厚労省はデイサービスの職員が訪問の現場に出ることで、在宅の介護ニーズ増大に対応することを主に想定しているのではないか。
図:訪問介護事業所の推移

都市部よりも過疎化の地方に有効か
私も新サービスの創設については、大いに期待している。もっとも、この施策がヘルパー不足の決定打になるとは、ちょっと考えにくい。報酬設定や人員配置基準がまだ全く分からないので予測も難しいが、今のところ、確実に期待できるのは「デイサービスの利用者にとって、利便性がよくなり融通も利く」ようになることかと思う。
また、介護保険部会の資料などを見ると厚労省は都市部での効果を期待しているようにみえるが、むしろ私は、人口1~2万人以下の過疎化している地方での在宅介護サービスでのほうが、効果が期待できるのではないかと考える。
当然のことだが、ヘルパー不足は、都市部だけでなく、全国のあらゆるところで深刻だ。私自身の調査の経験などから考えれば、むしろ、過疎化が進行している地域では、「対応してくれるデイサービスはかろうじて存在するが、訪問介護事業所は見当たらない」という地域が少なくない。そして、その傾向は年々、深刻さを増しているようにすら思う。
新サービスがあれば、「買い物」などのちょっとした身の回りの支援などは、デイサービスの送迎の際にデイサービスの職員が担うことができるようになるだろう。訪問介護はおろか、コンビニエンスストアもスーパーも近くにはないような過疎化地域では、かなり使い勝手がよいサービスとなるかもしれない。
また、新サービスであれば、デイサービスの職員が送迎の際に身支度の世話や送迎後のケアも、現行の仕組みよりも、よりしっかりと実施できるだろう。そうなれば、老夫婦世帯や独居高齢者の「在宅生活」の限界点も伸びるように思える。
懸念される、介護人材の奪い合いの激化
ただし、懸念もある。まず思い浮かぶのは、デイと訪問の二役を求められる新サービスに、どれだけ人材が集まるかということだ。たとえデイサービスの事業者が新サービスに手を挙げたとしても、そこで働く介護職員は、訪問介護サービスを嫌がり、離職してしまうかもしれない。
また、新サービスを担う職員の要件がどのように設定されるかも、今後の介護人材の動向を考える上で重要なポイントだ。現行制度ではヘルパーは初任者研修修了者に限定されているが、デイサービスでは無資格者でも従事が可能だ。当然ながら、新サービスに参加するデイの職員に対し、一定の資格が求められることになるだろう。考えられる要件は「初任者研修修了者」もしくは「介護福祉士資格者」といったあたりだが、それが実現すれば、事業者間で有資格者の奪い合いは、ますます激化する。
さらに新サービス創設にあわせて、介護業界に参入したり、事業を拡大しようとしたりする企業も現れるのではないか。特に都市部ではその可能性が高いだろう。その結果、元からあった訪問介護事業所が人材の流出に悩まされることになるかもしれない。ペルパー不足への対応策として創設された新サービスが、新規参入事業者による人材獲得競争を激化させ、逆に訪問介護員事業者が縮小するという皮肉な状況が生じてしまうかもしれないわけだ。
ケアマネも、給付費分科会の議論の動向を把握し、早めの対応を!
このように新サービス創設は期待できる側面と、逆に人材が流動化してしまいマイナスとなる要素もあることをケアマンジャーは認識しておくべきだ。
少なくとも、新サービスによって人材が介護業界に次々と流入してくるようなことは、まずありえない。
思わぬ形でデイの使い勝手が良くなるかもしれない。逆に、今まで使っていたヘルパーが別の事業所に異動してしまい、ケアマネジメントそのものに支障をきたすことがあるかもしれない。
さらに地域密着型サービス、ということは、報酬は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護のような包括払い方式となるだろう。そうなると他のサービスとの調整も簡単ではなくなる。
いずれにしろ、「訪問介護+通所介護」が実現することで、ケアマネの業務も大きな変化を強いられるだろう。新サービスの基準や報酬は、来年開催される社会保障審議会介護給付費分科会で議論される。ケアマネも、その議論を把握しつつ、新サービスへの対応を早め早めに検討し、打てる手は打っておくべきだ。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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