弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
そもそも法的にOK?! あなたの地域のローカルルール
- 2023/05/19 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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介護業界にはいわゆる「ローカルルール」(Lルール)といわれるものがあります。制度を運用する市区町村ごとに扱う書式や法令・通知の解釈などが異なる状態を指す言葉です。
介護保険は国が定める全国一律の制度であり、地域によって扱いが異なるということは本来、あってはなりません。ただ、介護保険制度の保険者は市区町村です。そして、法令に違反しない限り市区町村に文言の解釈や運用などについて大幅な裁量を与える「自治事務」の仕組みで動かされています。そのため法令に反しない限り、市町村がⅬルールを作っても問題は生じません。
ただし、介護現場の方に話を聞くと、どう考えても理不尽なⅬルールがまかり通っているという現実があるようです。そこで今回は、Lルールについて相談事例を通して考えてみましょう。
驚愕!「入院中は要介護認定の申請ができない?!」
Q 実務について3年目のケアマネです。以前、ご利用者の家族から「父が入院中に要介護認定を申請しようとしたところ、行政の職員から『入院中の方の認定申請はできません』と言われてしまいました。そういうものなのでしょうか」との相談を受けました。
驚いて行政に確認したところ、「ルールです」と言うだけ。それでは退院後の介護サービスの提供がスムーズに行えないなど、デメリットをあれこれ説明したところ、最終的には奥にいた上司が出てきて「今回はお受けします」と言い、受理されました。
私はケアマネだったのでおかしいと気づき交渉することができましたが、私が介入しなかったらご家族は「そういうものか」と、あきめざるを得なかったことでしょう。このような誤ったルールを押し付けられた場合、ケアマネの立場ではどのように考え、対応すれば良いでしょうか。
A 介護保険法、介護保険法施行規則を確認し、法的根拠を尋ねましょう。
この指導は明らかに誤りです。入院中に介護保険のサービスを利用することはできませんが、申請自体は可能なので、その点を混同したのかもしれません。ご指摘通り、この誤った指導によりご利用者は多大な不利益を被っていた可能性もあります。
Lルールと言っても、「条例や指導根拠などに明文化されている」ものと「明文規定が存在せず、担当職員が口頭で都度指導する」ものに大別されます。本件は後者です。そして法令の規定に明らかに反している以上、もはやⅬルールとすら呼べないかもしれません。
おかしなⅬルールに直面したら…根拠規定を質問しよう!
行政の提示するⅬルールがおかしいと感じたら、まずは法的根拠を明らかにさせましょう。行政という機関はあくまで法令の実行部隊に過ぎず、法令に反することは許されないのです。
本件では、介護保険法第27条や介護保険法施行規則第35条が該当しますが、どこにも「入院中は申請できない」とは書かれていません。そして、「法令に書かれていない」以上、基本的に運用者が勝手に解釈を付け足してはならないのです。特に、本件のようにご利用者が申請できなくなるといった不利益を被る場合はなおさらです。
次回からは、おかしなLルールに直面したときは「その根拠規定は何ですか」と質問すると良いでしょう。もし条例など何らかの規定が示されたら、ネットで該当条項を確認し、問題となる文言の意味や文章全体の解釈について無理がないか検証します。その上で、介護保険法令に抵触し、ご利用者の権利が制約されるような規定である場合は、法令違反で無効と主張することも可能です。
【大募集!あなたを悩ませるⅬルール】
相談事例のようにⅬルールの中には、ご利用者の権利を不当に制約するものや、事業者の事務負担を増やしたり、足を引っ張ったりするものも相当数あるようです。そこで本コーナーでは、読者の皆様から「実際に見聞きした理不尽なⅬルール」を募集します。在宅ケアマネの業務に限らず、訪問介護やデイサービス、ショートなど関連するあらゆる事業形態について、経験したLルールを教えてください。その全てを取り上げることはできませんが、少しでも情報を持ち寄り、問題意識を共有することができれば、制度運用の適正化の第一歩につながるものと考えます。ご協力よろしくお願い致します。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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