

結城教授の深掘り!介護保険
「サ高住への依存」を許す限り、居宅に将来はない!
- 2023/05/22 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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5月11日、財務省が居宅介護支援にも「同一建物減算」の仕組みを導入することを提案した。そこで今回は、この提案について深掘りしたい。
ケアマネジメントの公正中立性に疑義を呈する財務省
まずは、財務省が現状のケアマネジメントをどのように評価しているかについて、5月11日の財政制度等審議会財政制度分科会の資料を通して確認しよう。同分科会に財務省に示した資料では、厚生労働省の「高齢者向け住まい等における適切なケアプラン作成に向けた調査研究報告書(2023年3月)」に基づき、ケアマネジメントの問題点を表にまとめて指摘している。
表:改善すべきケアプランの傾向・課題(n=189、ケアプラン点検実施市町村)
個別性の欠如:利用者個々の意向や課題が考慮されることなく、ケアプランが画一的なものとなっていると思われた。 | 全回答の59.7% |
---|---|
過剰なサービス:利用者の意向や情報を考慮せず、アセスメントからは必要が見出せない住まい事業者と同一法人によるサービスを、ケアプランに設定していると思われた。 | 全回答の45.3% |
居宅介護支援事業所にフィードバック等を行っても、改善すべき課題のネックが住まい運営事務所との関係でもあるなどの理由から改善が進まない。 | 全回答の59.1% |
財務省財政審「財政各論③:こども・高齢化等(資料2)」2023年5月11日107頁より
端的に言えば、財務省はケアマネジメントの公正中立性に疑義を呈しているのだ。そして「一部のケアマネジャーは利用者の意向や課題解決よりも、事業所や系列法人の営利性を優先している」と指弾しているのだ。
残念ながら、財務省のこの指摘を完全に否定することはできない。この指摘がなされる前から介護業界では、営利追求を優先したサービス付き高齢者向け住宅での利用者の「囲い込み」が問題視されてきたからだ。そして一部のケアマネは、その「囲い込み」に積極的に関わってきてもいた。
つまり今回の財務省の指摘は、介護業界で問題視されてきたことを改めて提起したものだ。それだけに、厚労省や2024年度の介護報酬改定(24改定)について議論する社会保障審議会介護給付費分科会の委員も、財務省の指摘を無視するわけにはいかないはずだ。
「居宅介護支援にも同一建物減算を導入」24改定で実現か
この現実を踏まえた上で、財務省の具体的な提案を見直してみよう。
財務省は、画一的なケアプランや過剰なサービスといった問題事例が、ケアプラン点検によって見直された例は多くないと指摘。その背景には「サ高住の運営者との関係で見直しが進まない」現実があるとした。さらに、利用者にサ高住の入居者がいる場合と、それ以外の場合を比較するとケアマネジメントの所要時間が3割程度少ないとし、「サ高住等でケアマネジメントを提供する事業者には、同一建物減算を適用すべき」と提案している。
提案に盛り込まれている「同一建物減算」は、既に訪問介護で導入されている仕組みだ。既に“雛形”があり、導入しやすい仕組みともいえる。
まとめると、「居宅介護支援にも同一建物減算の仕組みを」という今回の財務省の提案は、介護業界内で以前から指摘されていた課題をうまくすくい上げた上で、実現しやすい形の解決案を示したものといえる。
ここまで絶妙な提案をはねのけるロジックは、ちょっと見いだせない。24改定に伴い、居宅介護支援にも同一建物減算が導入される可能性は極めて高い。
理念なきケアマネは退場を!
この財務省の提案についての私の見解を述べたい。結論から言えば、今回の提案に限っては、前向きに受け止めるべきと考える。
いまさら言うまでもないことだが、公正中立性の実現は介護支援専門員にとっての一丁目一番地である。しかし、先述した通り、その公正中立性に対し、さまざまな立場の人が疑義を呈しているという現実がある。
むろん私は、現場で活躍するほとんどのケアマネが公正中立性を体現し続けていることをよく知っている。十分な処遇改善もない中、制度の要として介護保険を支え続けている多くのケアマネには、本当に頭が下がるばかりだ。
ただ、それでもごく一部、営利追求ばかりを優先するケアマネも存在する。
そして、その一部の不心得者のせいで、多くのケアマネがいわれなき指弾を浴び、不必要としか思えない研修の受講を強いられているのだ。この理不尽な現状は、一部の不心得者がいなくならない限り永遠に変わるまい。ケアマネを目指そうという人だって増えることはないだろう。
だから私は声を大にして言いたい。営利追求ばかりに血道をあげる不心得者がいる限り居宅介護支援に将来はない、と。多くの良心的なケアマネを守るためにも、サ高住に依存し、営利追求のみに心をくだくようなケアマネは、即時即刻、退場していただきたい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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