

小濱道博の介護経営よもやま話
現実路線?居宅への提言から考える財務省の思惑
- 2023/05/26 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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財務省は5月11日に開催した財政制度等審議会財政制度分科会で、社会保障制度改革に関する提言を発表した。
この提言は、政府が6月にも取りまとめる骨太方針に影響を与える上、今後本格化する2024年度(令和6年度)介護報酬改定の審議における重要な検討課題となる。今回は、居宅介護支援に関連する部分について解説したい。
居宅にも「同一建物減算」導入を
同一のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に居住する高齢者に対して、特定の事業者が集中的にサービスを提供することで、ケアプランが画一的になったり、サービスの提供が過剰になったりするなどの問題が指摘されている。
このため、2021年度(令和3年度)の介護報酬改定では、「区分支給限度額の7割以上」かつ「利用サービスのうち、訪問介護の割合が6割以上」のケアプランを作成する居宅介護支援事業所について、行政が個別に点検する仕組みが導入された。
だが、点検で問題事例が見つかっても、サービスの見直しにつながった事例は多くはないのが現状のようだ。見直しが進まない背景の1つとして、サ高住の運営者側との関係が指摘されている。
また、厚生労働省の調査によると、サ高住の入居者がいる場合のケアマネジメントの所要時間は、いない場合と比べて約30%少ない。
こうした実態を踏まえ、財務省は、サ高住でケアマネジメントを提供する事業者に対して、同一建物減算を適用するよう求めた。さらに、既に同一建物減算が導入されている訪問介護などにおいても、より一層の減算を行うことで、適正化を図るべきとした。
同省は、サ高住の問題事例に対処するため、▽ケアプラン点検によるサービス内容の見直し▽居宅介護支援における同一建物減算の導入▽訪問介護の報酬のさらなる適正化―の3つを重要視しているということだろう。
同一建物減算の趣旨を考えると、この提言は納得できる部分も多い。2024年度の介護報酬改定に向け、注目の論点の1つとなるであろう。
LIFE活用で基本報酬の一本化も?
介護保険法は、介護サービスが提供される目的として、要介護者が自立した日常生活を営むことができること、すなわち自立支援を掲げている。
財務省は提言で、要介護度が進むにつれて介護報酬が高くなる現行の仕組みを問題視し、「自立支援や重度化防止に対する評価が不十分である」と指摘。その上で、「介護保険法の趣旨に照らして、自立度や要介護度の維持・改善などのアウトカム指標を重視した枠組みが重要だ」とした。
同省は、ケアマネジメントの基本報酬の場合、要介護3~5は要支援1・2の3.2倍になっている一方、労働投入時間を見ると、要介護3は要支援1の「1.3倍程度に過ぎない」と主張した。さらに、要介護3~5の利用者の割合を4割以上とする特定事業所加算(I)の要件を引き合いに出し、「要介護3~5への評価が手厚い」とも指摘した。
居宅介護支援については、2024年度の介護報酬改定に向け、LIFE(科学的介護情報システム)の活用を評価する「LIFE加算」の創設が検討されている。同時期に見直されるケアマネジャーの法定研修カリキュラムにおいても、根拠のあるケアマネジメントが求められている。
2024年度の介護報酬改定において、居宅介護支援の基本報酬が一本化され、LIFEの活用を評価する報酬体系に変わる可能性も出てきたといえる。
2割負担拡大など、迫る“宿題”期限
財務省は例年、極論を展開することで、厚労省との妥協点を見いだすやり方を取ってきた。
今回の提言も、事業の大規模化など極論と思える内容が盛り込まれてはいるが、全体を見ると、介護老人保健施設の方向性や人材紹介会社への規制など、現実的な主張が多い印象を受ける。居宅介護支援関連も、一概に極論とは言えない部分が多い。
2024年度の介護報酬改定に向け、厚労省と財務省の“綱引き”は既に始まっているが、本格的な審議の前に、昨年12月に社会保障審議会介護保険部会がまとめた意見書の“宿題”の期限が間近に迫っている。
“宿題”とはすなわち、▽高所得の第1号被保険者の保険料引き上げ▽後期高齢者医療制度に合わせ、介護保険の2割負担の対象を全体の30%にまで拡大▽介護老人保健施設等の多床室料の全額自己負担化―の3つである。
来年春の介護保険制度改正に向けた改正介護保険法は、5月12日の参院本会議で可決、成立したが、秋の臨時国会でその第二章が始まるだろう。今回の制度改正は、過去最大規模の見直しとなる可能性が見えてきている。しっかりと情報を精査し、事前に対策を取る必要がある。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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