濃くて癖ツヨ、だから沼る「小多機のケアマネ」
※この記事は 2023年10月17日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
強烈なご利用者とご家族が、教えてくれたこと(後編)
- 2023/10/17 09:00 配信
- 濃くて癖ツヨ、だから沼る「小多機のケアマネ」
- うりさん
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小規模多機能型居宅介護、略して「小多機」。専従のケアマネジャーが配置されていることもあり、居宅介護支援事業所で働くケアマネには、ちょっと縁遠い存在でもあります。その現場に10年あまり立ち続けているうりさんが、小多機の濃くて癖ツヨな実情を、赤裸々に語ります!
小多機のケアマネとして13年間、多くのご利用者様・ご家族様に関わらせていただきました。前月に続いて、私にとって非常に思い出深い方をご紹介します。
夜、寝付けずにトラブルを起こすご利用者宅を毎夜訪問
もう一人の思い出深いご利用者様は、90歳の男性、「ビビさん」(仮称)。息子さんはいるのですが、ほとんど音信不通、親族は、遠くの県からたまにやってくる弟さん夫妻のみ。普段は独居状態でした。昔は建設関係の会社を経営しておられたのですが、私が出会ったころには、認知症がかなり進んでおり、「これ、おいしいんやぞ」と、古くなったサラダ油をジュースと勘違いして飲んでいたこともありました。
ビビさんの最大の問題は夜寝ないこと。外に出て行ったり、騒いで同じアパートの隣人に迷惑をかけまくって警察出動の騒ぎになったりしたこともあったそう。本来、緊急入所が適当なくらいな状態でしたけど、施設には空きがなく、まずは小多機で何とかお願いしたいとのことで、私たちと縁が生まれました。
ただ、施設入所が適当なほどの状態というのは、小多機のスタッフにとってもなかなかにしんどい。特に夜、トラブルを起こしがちというのは、やっかいです。
といっても、支援する以上、その問題から目を背けたら、おそらく、何も前に進みません。みんなで知恵を絞り合った結果、「夜、トラブルを起こすというのなら、夜、様子を見に行ってあげればいいのでは?」と誰かが提案し、ケアマネの私が、毎晩、ビビさんのお宅にお伺いすることになりました‥。
きりのない身の上話、帰ろうとすれば「なんでや!!」
ビビさんは、私の訪問を大歓迎してくれました。そして、まるで講談師のように、自分の身の上話をしてくれました。
太平洋戦争に出征した時の話や、戦争から帰って大阪の大きな建設会社に勤務した話。
故郷に戻り会社を立ち上げ、順調に業績も伸ばしていたところ、知人に騙されて、莫大な借金を背負ったこと。
そして、その借金のせいで、家族もばらばらになり、自分は生活保護を受けることになったこと。
放っておけば、朝まででも、身の上話をしてしまいかねない勢いで話し続けるビビさん。それがほとんど毎日、何カ月も続いたのです。うまく話を切り上げるタイミングを見つけられればいいのですが、そのタイミングを間違えると、「なんでや?わしの話が聞けんと言うんか!」と怒り出す始末。それでも帰ろうとすると、時には外まで私を追いかけてくるのです。腕をつかまれ、引きずられるようにして部屋に戻り、再び話を聞かされたこともありました。
とにかく、ビビさんは、さびしい人だったのです。尽きない身の上話を聞かされているうちに、そのことだけは強く実感できました。それを実感してからは、ビビさんが特に繰り返す話題について職員に伝え、うまくその話題を持ち出してみてはどうか、などと提案したりもしました。
そうした取り組みが功を奏したのでしょうか。うちに来るようになってから、徐々にビビさんは問題行動も起こさなくなりました。事業所に通いで訪れた時などには、持ち前の話術を存分に発揮。話の面白いおじいちゃんとして、ご利用者や職員の間で人気者になりました。
突然の余命宣告…最期まで職員が交代で病院に付き添い
そんなビビさんが、ある日突然、体調を崩し、入院しました。そして、いきなり、余命数日と宣告されていましました。
痛みを抑えるためにモルヒネを投与されたビビさんは、ほとんど話ができない状態です。それでも、病院には居たくないという、ビビさんの気持ちは、仕草や表情から十二分に伝わりました。他の職員にもその想いが伝わったのでしょう。ある若い職員は、病院の関係者に、なんとか自宅に返すことができないかと真剣な面持ちで尋ね、関係各所に連絡していました。ただ、ビビさんの容体の悪化はあまりにも急で、自宅での看取りの体制を整えることは間に合いそうにありませんでした。
「ほんなら、私たちが寄り添ってあげよっさ(※ならば、わたしたちが寄り添ってあげませんか)」
若い職員の提案で、職員同士が声を掛け合い、病院にかわるがわる付き添うことになりました。さびしがりやのビビさんを一人で逝かせてしまうのはあまりにも忍びない。私もふくめ、みながそう思っていたから、ごく自然にそれができました。そして、最期の時は、職員みなで看取ることができました。看取りの後には、長年、音信不通だった息子さんに、ビビさんが最後に書いた年賀状を渡すこともできました。
「癖ツヨ」のご利用者ほど、深い絆を育める
ご家族との縁は薄かったビビさんでしたが、小多機では、いつもビビさんの周りには職員や利用者がいて楽しそうな笑い声が聞こえていました。ビビさんの事を思うと、その笑顔と笑い声ばかりが思い起こされます。「癖ツヨ」なご利用者・ご家族であればあるほど、信頼関係が築ければ、深い絆を育むことができる。これが小多機の、他にはない不思議な魅力なのだと感じています。

- うりさん
- 「措置の時代」から介護業界で活動。ケアマネ歴は14年、そのうち13年間、小多機のケアマネとして活躍。座右の銘は「もまれてもまれてころがって、もっともっとまあるくなあれ」。
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