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いきなり飛び出したケアマネ試験の「合格基準緩和案」を考える

5月9日に開催された「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の議論で、ケアマネジャー不足解消に向けて「介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の合格基準を引き下げ、合格者を増やす代わりに、その後の実務研修の内容を充実させるべき」との提案があった。今回は、突然、飛び出したこの案について考えてみたい。

改めて、受験資格厳格化は「大失策」だった!

まず、把握しておくべきことがある。「ケアマネ試験の受験資格が厳格化されてからケアマネを目指す人が一気に減った」という事実だ。このことは、第20回(2017年)と第21回(2018年)の受験者数を比較すれば一目瞭然だ。

ケアマネの人材確保を考えるのであれば、この受験資格の厳格こそが「大失策」であったと認識しておかなければならない。特に、厳格化によって「ホームヘルパー等の資格に基づく介護等の業務5年」「無資格での介護等の業務10年」という経歴を持つ人が受験できなくなった点は、ケアマネにキャリアップしたいという介護職員の意欲を大きく削ぎ、成り手不足を招いた。以下の表からもわかるように「初任者研修修了者等など、国家資格はないが介護業務には従事していた」という合格者は、第20回までは一定の割合を占めていたのだから。(※第20回は駆け込み受験が多い)。

合格基準を下げる案について疑問

さて、ケアマネ試験については、もう一つの特徴がある。合格率の低さである。実際、2023年度の合格率は20.9%。介護福祉士(82.8%)や社会福祉士(58.1%)、看護師(87.3%)などと比べると、その低さが際立つ。

「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」において、合格基準を引き下げた上で研修などで質の担保を図ってはどうかとの提案があったのも、こうした現実があるからだろう。

「合格基準を引き下げることで成り手を確保し、その質は研修の強化で補う」という手法を、全否定するつもりはない。ただ、果たしてこのやり方で、合格者が大幅に増えるだろうか。国の試算では、2040年度までに約8万3千人のケアマネの上積みが必要とされているが、合格基準の引き下げは、その分を補えるほどの効果が期待できるだろうか。

残念ながら、それはありえない。

深刻化する一方のケアマネ不足に対応するには、まずは受験資格の厳格化を撤廃し、第20回と同様の規定に戻すべきだ。一方で、「ホームヘルパー等の資格に基づく介護等の業務5年」「無資格での介護等の業務10年」で合格した人には、他の国家資格取得者の合格者より、「介護支援専門員実務研修」の時間を多少増やすことで質を担保するようにしてはどうか。

むろん、多少研修時間を増やしたところで、確実な質の担保に繋がるとは言い難い点は承知している。そういう点に配慮するには、ケアマネ試験の合格基準そのものは今と同じような「狭き門」としておく必要もあるかもしれない。

せめて、更新研修廃止くらいのインパクトがある施策を!

だが、いくら受験資格の厳格化を撤廃したところで、その施策だけでは「時すでに遅し」だと思う。もはやケアマネを目指すという気運そのものが、介護従事者から失われつつようにすら感じるからだ。

ケアマネ試験の資格厳格化は、介護職員の処遇改善加算が充実しはじめ、介護保険創設時にケアマネになった世代が引退し始めたタイミングで導入された。つまり、現役の人材が減り始めた段階で、新人を受け入れる門戸を狭めたのだ。その上、ケアマネを目指さなくても、それなりに給与も確保できる環境が整ってしまった。今さら厳格化を撤廃し、門戸を広げたところで、「ならば、ケアマネを目指そう!」と考える人がそんなに増えるとは、とても思えない。

この状況を一変させるには、業界全体が刮目するような、インパクトの強い施策が不可欠だ。例えば更新制廃止くらいの衝撃は必要だと思う。

そもそも、現役世代を含めた若い世代の数が減り続けている以上、「ケアマネ試験の合格基準の引き下げ」といった新たな担い手確保の施策だけで、十分な人材が確保できる保証はない。

それよりも、「現在のケアマネを辞めさせない」「子育てなどで『退職』したケアマネ復職の促進」といった観点からの施策の実現に力を注ぐべきである。実際、ケアマネ資格を持っているのに、その資格を生かしていない人は多い。そうした「潜在ケアマネ」を活用する上でも、更新制廃止は効果的な施策になりうる。

残された時間は少ない

もはや、ケアマネ不足は、全国のどこにいっても実感できる。私自身が委員を務める某市の地域包括支援センター運営協議会でも、予防プランを受けてくれるケアマネ不足し、「待機要支援者」が生じたことが議題となっている。要支援2と認定された人を担当できるケアマネが、地域包括支援センターにも居宅介護支援事業者にもいなかったのだ。

こうした「ケアマネ難民問題」は日々、全国各地で深刻化し続けている。そして解決できる時間はあまり残されていない。「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」には、その現実をしっかりと踏まえ、抜本的な改革に向けた議論を期待したい。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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