

結城教授の深掘り!介護保険
滞る要介護認定、だがAI活用は救世主にはなりえない!
- 2024/06/18 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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要介護認定は、介護保険制度の根幹をなす仕組みだ。だが、申請件数の増加や専門職不足などで、認定が下りるまでの時間がかかり過ぎるという問題が起きている。こうした状況を踏まえ政府の規制改革推進会議は、「AIなどのテクノロジーを活用した要介護認定の迅速化、精度の向上」を提言した。今回は、この提言と要介護認定の現状について考えてみたい。
AI活用の効果は「やったほうがまし」な程度
厚生労働省の調査によると、要介護認定にかかる時間は2022年度の下半期で平均40.2日、法定の30日以内を大幅に上回っている状況だ(図参照)。
規制改革推進会議は、その期間を短縮するためAIの活用を提言している。具体的には、訪問調査の結果や主治医意見書などに基づいて行われる「二次判定」で、AIの活用を促進しようとしているようだ。

規制改革推進会議健康・医療・介護ワーキング・グループ「要介護認定の迅速化・正確性確保について」
厚⽣労働省説明資料17頁令和6年3⽉14日より
AIを活用し、要介護認定にかかる時間の短縮を目指すという方向性は正しい。ただ、「二次判定」に参加している委員によれば、「実際の審査では、1ケースに要する時間は数分。よほど1次判定に疑義がない限り議論することはない」という。
つまり、「AIが活用できそうな過程=あまり時間が掛かっていない過程」といえる。残念ながら、現段階ではAI活用に伴う要介護認定の時間短縮効果は「やらないより、やったほうがまし」という程度だろう。
認定調査員不足を解消しない限り、解決には至らない
そもそも、要介護認定が遅延している最大の原因は認定調査員(調査員)の人手不足にある。
要介護認定では、調査員の訪問よる情報収集が必要不可欠だ。もちろん、主治医の意見書も同様。つまり「人」が集めた情報こそが、要介護認定の基礎となっている。
それでもAI活用によって時間短縮を図りたいというのであれば、まず、少ない質問でも正確に判定できるよう、AIの精度を上げる必要がある。その上で、訪問調査の質問を74項目から30項目程度に減らすという工夫があり得るかもしれない。
質問が減れば、その分だけ訪問調査に掛かる時間も減る。74項目から30項目にまで減らせれば、調査そのものの時間は半分くらいに減らせるのではないか。
ただし、いくらAIの精度が高まり、30項目程度の質問でも的確な結果が導けるようになったとしても、利用者宅に出向く移動や調査に向けた準備、その後の記録作成などの時間は削減しようがない。
やはりこの問題は、調査員不足を解消しない限り、本質的な解決には至らないと考えるべきだ。
認定調査員確保へ、3つの提案
そこで調査員不足の解決に向け、3つの策を提案したい。
1つ目は、公務員の調査員を大幅に増やす案である。具体的には、公務員調査員(正規職員)を専従の専門職として雇用し、原則、認定調査は市町村職員が行うという仕組みにすることがあり得る。
2つ目は、現行の要支援1~要介護5まで7段階の認定区分(非該当含めると8段階)を、(1)要支援(2)軽度要介護者(3)中度要介護者(4)重度要介護者―に簡素化する案だ。簡素化が実現すれば、要介護認定審査会に関わる人件費が削減でき、効率的な運用が可能になる。しかも、認定区分が4段階になることで、調査項目も20項目程度まで簡素化できるだろう。当然、調査時間も短縮化できるはずだ。
3つ目は、調査員になれる人の基準を緩和する案だ。現行制度では、「特定資格(※)を取得し、実務経験を満たしたうえで、指定の研修を受ける」か「指定市町村事務受託法人か、指定居宅介護支援事業者に所属するケアマネジャー」のいずれかでなければ、調査員にはなれない。
この要件を少し緩めれば、調査員になれる人も増える。例えば、「今は資格を失効しているものの、介護支援専門員として働いた経験がある人」にまで広げる(もちろん、一定の研修受講は義務付ける)ことなどが検討に値するのではないか。
調査員になれる対象拡大こそが解決の早道!
私個人としては上記3つの案のうち、第1案の実現こそを期待したい。この案が実現すれば、認定調査の遅れは確実に解消されるだろう。だが、この案は人件費の急増が見込まれる。自治体の厳しい財政状況を思えば、残念ながら現実的とはいえないだろう。
第2案も、大きな効果が期待できるという点で魅力的ではある。ただ、7段階の区分が業界内で定着してしまった今、認定区分の簡素化を訴えても、多くの関係者は「ファンタジー」としか捉えてくれないないだろう。こちらも実現できる可能性は極めて低い。
結局、もっとも現実的な手法は、第3案だろう。もちろん、この案にだって「調査員の質の担保」などの課題は残る。それでも、財源の負担がもっとも軽いことや潜在化した人材の掘り起こしにつながることなどを思えば、有意義かつ現実的な案だと考える。
※特定資格に該当するのは「医師・歯科医師・保健師・助産師・薬剤師・看護師・准看護師・歯科衛生士・作業療法士・理学療法士・言語聴覚士・視能訓練士・社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・義肢装具士・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師・はり師・きゅう師・栄養士」

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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