弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

改めて見えてきたローカルルールの恐るべき実情

去る6月23日、日本ケアマネジメント学会主催の研究大会で、大阪府寝屋川市を提訴し勝訴したケアマネ事業所の裁判例について解説させていただきました。大入り満員で立ち見も出るほど盛況となり、皆様、真剣に話に耳を傾けていただけました。

当日は、法改正によりご利用者へ複数のサービス事業者を紹介し、説明するよう求めることができるとする義務が追加された点について、法改正以前のご利用者に対しては説明することが「望ましい」と記されているにもかかわらず、それを「義務である」と無理やり解釈するような、トンデモない自治体(トンデモ自治体)が確かに存在することなどを実例とともに説明いたしました。

そして。残念なことに、寝屋川市との訴訟が一件落着した後も、全国からさまざまな相談が寄せられています。

「余罪」から入り、無関係な調査を始めようとする役人

例えばある施設で、施設長と仲が悪い古参の職員がいました。(恐らくその職員と思われますが)その施内の誰かが「利用者が虐待されている」と市に通報しました。そこで市役所の高齢福祉課職員が運営指導の名目で調査に訪れたのですが…。

その役所職員は、一通り虐待に関する質問をした後、調査の終わり際に、虐待容疑とは無関係な職員のシフト表の提示を求めてきたというのです。

これは、拒否できるのでしょうか?

結論としては、拒否することができます。運営指導や監査は、あくまでその目的をはっきりさせた上でその範囲でしか実施してはならないというルールがあるためです。20224年3月31日の介護保険施設等の指導監督について(通知)別添1「介護保険施設等指導指針」によれば、運営指導について次のとおり「実施通知」をすべし、と定められています。

都道府県知事及び市町村長は、指導対象となる介護保険施設等を決定したときは、次に掲げる事項を文書により当該介護保険施設等に原則として1月前までに通する。
ただし、指導対象となる介護保険施設等において高齢者虐待が疑われる等の理由により、あらかじめ通知したのでは当該介護保険施設等の日常におけるサービスの提供状況を確認することができないと認められる場合は、指導開始時に次に掲げる事項を文書により通知する。

  1. ① 運営指導の根拠規定及び目的
  2. ② 運営指導の日時及び場所
  3. ③ 指導担当者
  4. ④ 介護保険施設等の出席者(役職名等で可)
  5. ⑤ 準備すべき書類等
  6. ⑥ 当日の進め方、流れ等(実施する運営指導の形態、スケジュール等)

また、行政手続法第35条第1項は、行政指導の方式として「行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない」と定めています。

本件では、もともと虐待について実態を把握するために調査に入ったのに、いつの間にか虐待と無関係な人員配置にまで調査対象を拡大しています。はじめに虐待という「余罪」から入って、シフト表などを何かしら叩いてほこりを出そうというこのやり方、現場でよくある上、最近増加しつつあるパターンですが、「運営指導の目的」から明らかに逸脱するものです。提出を求められた施設側としては、「介護保険施設等指導指針および行政手続法に従い、改めて運営指導の根拠規定および目的を記した書面をご提出ください」と返答し、その場では拒むことができるのです。

ただ、そうはいっても、「お上」に睨まれるのは怖いので、つい応じてしまう…という事業者が大半でしょう。それもやむを得ないかと思いますが、重要なことは、そもそも、こうしたルールが存在し、「行政も横暴や暴走をしないようルールに従わなければならないのだ」ということを一人一人が自覚することです。

相手によって、あからさまに態度を変えるハラスメント役人

また、ある施設では、オープニングスタッフとして数名の介護職を雇用したのですが、そのうち何人かには事務職や営繕(ボイラーや電気設備の点検、修繕)など、介護以外の業務も兼務することを想定し、雇いました。もっとも開設当初は営繕の仕事などは無いので、ほぼ全ての勤務時間が介護に割り当てられていました。そして、その実質勤務時間をベースとして計算すると人員配置基準を十分満たしていたので、施設としては問題なく毎月の介護保険を受給していました。

ところがこれを知った行政は、「純粋に介護に従事する職員として雇用したのでなければ、一人分としてカウントできない。人員配置基準を満たさないので、開設以来今までの期間分を返還しなければならない」と一方的に施設に告げ、1億円以上もの返還を求めてきたのです。

これなどは、いわゆる常勤換算の方法が問題となっているわけですが、算定のベースとなる各職員の「勤務延時間数」については「勤務表上、当該特別養護老人ホームの職務に従事する時間として明確に位置付けられている時間の合計数とする」と解釈通知に明記されています。このように、あくまで「勤務表の記載から判断する」とされているにもかかわらず、行政は全職員を一人ずつ呼び出し、長時間かけて日々の働き方を執拗に聞き出そうとしました。これに対し施設側は「おかしいのではないか」「何が判定の根拠になるのか」と繰り返し尋ねましたが、明確な回答は得られませんでした。

そこで筆者が施設の代理人となり議論の整理を試みましたが、そのとたん、行政の担当官は、施設長にいわせれば「まるで人が変わったように礼儀正しく、物分かりがよくなった」とのことでした。

このように、相手によりあからさまに態度を変え、現場職員を虐げるパワハラともいうべき役人も残念ながら存在するようです。

このコラムでも繰り返しお伝えしていますが、介護職員と行政は決して上下関係にあるのではなく、法令を元に対等な関係でなければなりません。指導や見解がおかしいと思ったら、臆せず法令に基づき質問や議論をすれば良いのです。行政側は、そのような動きに対し真摯に向き合い見解を説明する必要があります。決して「お上に逆らうなんて生意気だ」などという私情で事業所を追い込むようなことがあってはなりません。

虐待や違法な身体拘束の取り締まりが強化される中、残念ながら冒頭のような逸脱した指導が増えています。筆者は介護弁護士として、そのような指導から事業所を護る活動をこれからも続けていきます。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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