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結城教授の深掘り!介護保険

事業者が利用者を選ぶ時代へ~間を取り持つケアマネは苦労する!~

年々、介護へのニーズが高まっているのに、ケアマネジャーもヘルパーも担い手は増えない。この状況が続けば、ほぼ確実に「事業者が利用者を選ぶ時代」がやってくる。いや、地域によっては、そうした状況が既に生じているのではないか。公的な介護保険である以上、事業者が露骨に都合のいい利用者を「クリームスキミング」(※)することはできないが、それでも、過度なクレームや要望を突き付ける利用者は、支え手を見つけることができなくなるだろう。今回は、利用者が事業者から選ばれる時代の実情と、その時、ケアマネが果たすべき役割について考えてみよう。

増えている、権利意識が強い高齢者!

昨今、介護人材不足が深刻化し、利用者と介護事業者の間を取り持つケアマネの苦労も増している。それなのに団塊世代以降の要介護(支援)者や家族には、いまだに「お客様は神様」という意識から脱却しきれない人が多い。というより、このような「権利意識」の強い利用者や家族は年々、増えているようだ。

肌感覚だが、約20年前に筆者がケアマネの仕事をしていたころ、クレーマーになるような権利意識が強烈な利用者は20人に1人いるかいないか、という程度だった。しかし昨今、現場関係者にヒヤリングをしていると、そうした利用者は10人に1人程度にまで増えているように感じる。

終わりつつある「古き優しき混沌とした時代」

「要介護者は社会的弱者である以上、ケアマネやヘルパーは、その要求にできる限り応じなければならない」
「ヘルパーをお手伝いさんと勘違いしている要介護者の要望についても、ある程度、受け止めるのがプロというもの」

―介護保険制度が発足した当初には、こうした風潮が現場にあった。

しかし、このような「古き優しき混沌とした時代」は、終わりつつある。過度な要求に伴う業務外のボランティア(いわゆるシャドーワーク)に取り組むだけの余裕がなくなってしまったからである。

事実、人材不足に悩む訪問介護事業者が、ケアマネの依頼を断っているデータも存在する(表参照)。今年4月、厚生労働省がケアマネのシャドーワークを問題視し、解決に向けた有識者会議を立ち上げたことも、「古き優しき混沌とした時代」の終わりを象徴する出来事といえる。

表  訪問介護事業においてケアマネ依頼を断った理由(複数回答:n=253)
人員不足により対応が難しかったため 90.9%
訪問先までの移動時間が長く対応が難しかったため 27.3%
早朝や夜間など特定の時間帯のサービス提供を求められたため 26.5%
看取り、認知症、難病等で技術的に対応が難しかったため 4.0%
過度なクレームやハラスメントがあったため 6.7%

社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)「資料1:訪問介護」2023年7月24日37頁より作成

「面談後でもサービス提供が断られる」のが当たり前に

ならば「古き優しき混沌とした時代」が終わると、ケアマネを含めた在宅介護の現場は、どのように変わって行くのであろうか。

現段階では、面談に至った利用者へのサービス提供を事業者が断るというケースは少ない。言い換えるなら、「面談の実施=サービス提供は、ほぼ確定」というのが現状である。

だが今後は、「面談の後でも、事業者がサービス提供を断る」というケースが増えるはずだ。その際、サービス提供を断る理由として、多くの事業者は次のような理由を掲げて来るに違いない。

「派遣できるヘルパーがいません」
「デイサービスにおいて、ご希望の曜日は対応が難しい」
「介護施設では、待機者がいるので、リストに入れておきます」

実際、筆者が現場関係者にヒヤリングしたところ、上記で述べたような状況が、現実のものになりはじめているという声も聞こえ始めている。

「介護職員ファースト」の時代、ケアマネが心がけるべきは…

このような介護現場の現状を踏まえ、ケアマネも「利用者ファースト」から「介護職員ファースト」に時代が変化していくことをしっかりと認識する必要がある。

現役のケアマネの中には、介護保険制度発足直後に資格を所得した「第一世代」がまだ多い。そして「第一世代」の大半は、かつての私と同じように「利用者ファーストこそが専門職の基本」と認識していると思われる。だが、この認識を貫き、連携する介護事業者にも同じ姿勢を求め続けてしまっては、今後、依頼を受けてくれる介護事業者は、どんどん少なくなっていくはずだ。

ならば「介護職員ファースト」が当たり前の現場で、ケアマネが心がけるべき工夫は何か―。まず挙げられるのは「利用者にサービス提供を断られないよう、穏やかな対応を促していく」ことだろう。特に権利意識が強い人に対しては、人手不足のため介護人材の確保が極めて困難であることを説明した上で、自身が快適に生活するためには、サービス提供を断られないようにすることこそが肝要ということを、噛んでふくめるように伝えた方がよい。そして、そうした説明をするためにも、過度な要求やハラスメントをしかねない人を見極めるインテーク技術が、より重要になってくるはずだ。

「利用者ファースト」を貫けば、逆に、サービスの質低下を招く!

最後に、この状況に関する私の考えを述べておきたい。一言で言えば、次の通りだ。

「『利用者ファースト』から『介護職員ファースト』への流れは否定できないし、現場もそれを前提に対応しなければならない」

上記のように考える理由は、少ない介護職員で「利用者ファースト」を貫けば、無理なサービス提供を介護職員に強いることになるからだ。そうなれば、一人ひとりへのサービスの質は低下せざるを得ない。

一方で「介護職員ファースト」に舵を切れば、先に述べたようなマナーに欠ける高齢者は、介護サービスが充分に受けられないことになるだろう。だが、マナーと常識をわきまえない一部の人のために、すべての高齢者のサービスの質を劣化させ、ただでさえ少ない介護職員の負担を重くし続けるべきだろうか?私はどうしてもそれを肯定することはできない。

美しき理想を追い求める姿勢を全否定するつもりはない。だが、その理想=「利用者ファースト」は、多くの介護職員がいたからからこそ実現できたものという事実を忘れてはならない、とも思うのだ。

※収益性の高い顧客だけに製品やサービスを提供し、収益性の低い顧客を無視する行為

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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