生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー

【ケアマネ小説】思い出のネコ

文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回はたくさんのネコと生活しているご利用者を担当するケアマネジャーさんのストーリーです。

その家は、朝のやわらかな陽光に包まれていた。だが、私はその穏やかなたたずまいに、軽いいら立ちを覚える。

(また、あの臭いをかがなければならないのか…)

私は香住。ケアマネジャーとして10年ほど活動し、多くの利用者を担当してきた。この日も利用者宅に向かっていた。

今回の訪問先は、80歳代の独居の女性、山田裕子さんの家。裕子さんは、軽い認知症の症状があり、要介護1の状態。日常生活の中で介助が必要だが、杖を使えば歩ける程度の体力はある。

裕子さんの家に到着し、呼び鈴を鳴らす。ゆっくりと歩み出た裕子さんは、笑顔で出迎えてくれた。もちろん、私も微笑み返す。(笑え、笑え。笑え!)と自分に命じながら。玄関には既にあの臭いが漂い出ていた。一カ月前に来た時には、玄関には臭いはなかったのに…。

そして、裕子さんがリビングの扉を上げたとたん、獣と排泄物の臭いが混じった、強い悪臭が押し寄せてきた。マスクなど何の役にも立たない。思わず顔をしかめ、うつむいてしまった私の耳に、「どうしたの?どこか、痛いの?」という優しい裕子さんの声がとどいた。

「…いえ、失礼しました。大丈夫です」。必死に笑顔を取り繕いながら顔をあげる。裕子さんは、足にまとわりつく野良ネコたちを撫でながら、私に席を勧めた。しかし、その椅子の上にもネコの先客が鎮座している。部屋の隅にはネコ用のトイレもあるが、あまり掃除されていないので、目も当てられない状況だ。

この家に住み着いてしまっている野良ネコは10匹はいるだろうか。夏ともなると、リビングはすさまじい悪臭に満たされてしまう。さらに心配なのは、ネコたちが持ち込むノミやダニだ。そしてネコは毎月、増え続けている。裕子さんが散歩帰りに、拾ってしまうことがあるためだ。

「田中さん、いらっしゃい。今日はいつもの定期の訪問?」。裕子さんの声には少しの警戒心と、どこか頼りなさが混じっていた。部屋に立ち込めている悪臭を気にしている様子はない。だが、腕を見ると、虫に食われたような赤い斑点がいくつか見えた。―今日こそは、言わねばならない。

「今日は、このネコたちについてお話ししたいことがありまして」。私は丁寧に切り出した。裕子さんは少し顔を曇らせたが、話を促すように頷いた。

「最近、裕子さんのお宅ではネコが住み着き、そして増え続けていると聞いています。ネコがいること自体は構わないのですが、衛生面での心配がありまして。特に、臭いやノミが問題になっているんです。できれば、ネコちゃんの数を減らす工夫をしていただけると…」。私は慎重に言葉を選びながら説明を続けた。

しかし、その瞬間、裕子さんの表情が急に険しくなった。「いやだ、そんなこと言わないで。たまちゃんは私と一緒にいるんだから。そんなことを言うんだったら、もう今日は帰ってちょうだい!!」

「たまちゃん?」。私は思わず反応した。裕子さんは、まるで特定のネコを指しているかのようにその名を口にしたが、彼女が決まったネコを可愛がっている様子はなかった。ただ、足にまとわりついてくるネコを、区別もせずに撫でてやっているだけだ。なのに、なぜ、特定のネコの名前が出てくるのか?その名前の背景がわかれば、もしかしたら、状況を改善するためのカギが見つかるかもしれない。そう思ったものの、裕子さんの強い拒絶に、話を続けることができなかった。

訪問を終え、家を出る際、足元に一匹のネコが寄ってきた。茶トラの人懐っこいネコだった。私はそのネコを撫でながら、再び考え込んだ。どうして裕子さんは「たまちゃん」という名前を出したのだろうか。

ふと、家の中を見渡すと、ここには、オレンジや焦げ茶の毛並みのネコしかいないことに気づいた。

「まさか、これって…」。

家を出た私は、裕子さんの息子・弘樹さんにメールを送った。お宅で昔、「たま」という名の茶トラのネコを飼っていたことはなかったかと。

すると、いつもは返信が遅い弘樹さんからすぐに電話がかかってきた。「確かにうちでは、30年ほど前に茶トラのたまというネコを飼っていましたが…。ケアマネさん、なんでたまのことを知っているんですか?」。弘樹さんの声には驚きが混じっていた。

私は裕子さんが現在、茶トラの野良ネコばかり拾ってきていること、そしてそのネコたちを「たまちゃん」と呼んでいるらしいことを伝えた。

弘樹さんはしばらく沈黙し、そして深い溜息をついた。
「母は、たまをとても可愛がっていました。でも、ある日たまは、母の目の前で車に轢かれて死んでしまったんです。それが母にとって大きなショックで、それ以来、ネコを見るたびに涙ぐんでいました」

後日、弘樹さんは裕子さんの家を訪れ、ネコについて話し合ったようだった。私はその結果がどうなったのか、心配しながら翌月の訪問日を迎えた。

訪問日、裕子さんの家を訪れると、たくさんのネコたちは姿を消し、あの臭いもほとんど消え失せていた。そしてリビングの机の上には、弘樹さんの字で書かれたメモが置かれていた。

「あなたのたいせつなたまは、赤と白の首輪をつけています」
「赤と白の首輪をつけていないネコは、たまではありません」
「あなたのたいせつなたまは、この世で一匹だけです」

そのメモの隣には、赤と白の首輪をつけた一匹の茶トラのネコが座っていた。あの日、私の足にすり寄ってきた人懐っこいネコだった。裕子さんはそのネコを優しく撫でながら、静かに「たまちゃん、たまちゃん」と繰り返していた。

後で弘樹さんに聞いたところ、赤と白の首輪をつけたネコ以外は、すべて里親とのマッチングを手掛けるNPOに預けたという。ならば、なぜ、あのネコだけ残したのだろう。思わずその疑問を口にすると、電話口の弘樹さんは、戸惑いながらも話してくれた。

「NPOの方と一緒に母と話し合ったところ、野良ネコたちがたまではないことは理解してくれました。またNPOの方が丁寧に愛情をもってネコたちに接している様子をみて、殺処分されるわけでもないことも認識してくれて、快くネコたちを手放すことになったんです」

「ところが、残ったあのネコだけは、どうやっても母の側から離れようとしない。そして聞いたこともないような、切ない声で母に向かって鳴くんです。それを聞いた母も『ああぁぁ、たまだ、たまの声だ。ごめんね、あの時、助けてあげられなくて。それでも、戻ってきてくれたんだねぇ…。きっと、この子はたまの生まれ変わりだよ、この子とだけは離れたくないよ!』って、ネコを抱きしめてポロポロ泣き出しちゃって…」

目頭が熱くなるのを感じた。私は、ネコを抱きしめる裕子さんの姿を思い起こしながら、心の中で祈った。裕子さんが、たまと共に過ごした日々を思い出しながら、これからも穏やかな時間を過ごせますようにと。そして、たまの生まれ変わりかもしれないあのネコと、新たな思い出を紡いでいけますように、と。

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