弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

養子縁組は「仁義なき戦い」?

どんなところにでも図々しく顔を出し、正しく慎ましく暮らす人の生活を脅かす反社会勢力。そうした輩にとって、老老介護をしている世帯や独居の要介護高齢者、特に認知症の高齢者は、恰好の「カモ」といえるかもしれません。今回は、反社会勢力に狙われているかもしれないご利用者の事例と、その対応策を紹介します。

ケース 反社勢力と養子縁組してしまった利用者

◆担当しているご利用者と家族
ご利用者Aさん:80代、要介護3。アルツハイマー型認知症で日常生活はほぼ介助が必要。30年前に妻と離婚して以来独居。頼れる親戚もいない。
養子になった人:最近、本人と養子縁組した男。年齢・職業とも不詳。「困っているAをよい施設に入れるため、養子縁組した」としか言わないが、反社会勢力の構成員である疑いがある。
◆使っているサービス
通所介護(週2回)、訪問入浴(週2回)、福祉用具(ベッド)
◆相談者
40代の女性ケアマネ

反社会勢力の一員から騙されて養子縁組され、財産を盗られそうになっているご利用者がいます。
先日、担当している利用者Aさんの家を訪れると、見たこともない派手な靴が玄関にありました。不審に思い家に上がると、いかついダブルのスーツを着た大柄の男が胡坐をかいて座り込んでいました。どうみても堅気とは思えない風体でタバコを吸いながらテレビを見ていたのです。思わず「誰ですか、警察を呼びますよ!」と言ったところ、「ワシは、ついこの間、この人と養子縁組させてもらったもんですわ。ケアマネさんですか?自己紹介が遅れて申し訳ないですな」とご挨拶。

養子縁組?そんな話は完全に寝耳に水でした。驚いて「いったい、どういう経緯で?」と尋ねたところ、その男は自分がAさんの友人の親戚であること、その友人は最近Aさんが通うデイサービスに行くようになり、そこで再会したこと、友人が独居のAさんを心配し、「自由な身」であるというその男に世話を頼んだこと。そして男がAさんの家を訪れたところ、Aさんはひどく気に入ってくれて「毎日でも来てもらえるよう、養子縁組をしてほしい」と頼まれたこと―という、おおよそ現実味のない経緯を説明してくれました。

毎月来る私の顔も覚えていないようなご利用者が、ほとんど面識のない怪しい男を気に入り、養子にしたいと言い出すでしょうか?私は、傍にいたAさんに事の次第を理解しているか確かめたところ、「うん、そうなんだ」と答えはしましたが、次の瞬間には「どうしてこうなってしまったのか…」などとブツブツ独り言を繰り返し、正確に事情を把握しているようには見えませんでした。

その男は私の様子などおかまいなしで、さらにこんなことを言い出したのです。
「おやじ(Aさん)にはもっといいサービスを受けさせたい。幸い私の知り合いが、よいホームを運営しているので、そこに入居させるつもりです。ケアマネさんには長いことお世話になりましたが、再来月あたりには入居させる予定です」
またまた仰天!あわてて、その有料老人ホームの名前をたずねたところ、「暴力団が運営に関わっているらしい」といった、地域でも黒い噂が絶えないホームでした。
Aさんには、先代から受け継いだ実家の土地と古い家、退職金の蓄えがあると聞いています。この男は財産目当てでAさんに近づいたのではないでしょうか。このままではAさんは、土地も財産もすべて「養子」に奪われ、劣悪な環境で死ぬまで生活させられるという、最悪の未来しか残されていないでしょう。
私は一介のケアマネの立場ですが、何とか防ぐことはできないものでしょうか。

A こんな時こそ市役所、警察、弁護士と連携を!

養子縁組とは、血縁関係のない子どもと養親の間に法律上の親子関係を成立させる制度です。普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。本件は普通の方と思われますが、法律上嫡出子となり相続権が発生します。他に身寄りがないのであれば、事実上、子供として身元保証人等の役割を担うことになるでしょう。

本件のパターンは暴力団の「養子縁組ビジネス」といわれ、通称ネームロンダリングともいわれています。全国的にも被害者が沢山いるのです。

Aさんの人生と資産が食い物にされてしまう前に打てる手はあります。まず管轄の市町村の「暴力団排除条例」をチェックしましょう。難しければ最初から警察等の行政機関に相談するのでも構いません。

「暴力団排除条例」の中に「虚偽の養子縁組における措置」といった、本件を想定した規定があれば、市役所や警察に動いてもらいやすくなります。例えば東京都豊島区の条例にはこの規定があるのですが、区と警察署の緊密な連携を強化し、暴力団関係者による虚偽の養子縁組の防止を図っています。警察が問題となる男を、呼び出し、事情を聴取するといったことが期待できます。男としても、警察や市に睨まれたのではあからさまな動きはできなくなるでしょう。

最終的には無効確認訴訟

ただ、養子縁組というものは結婚や離婚と同じく、所定の届出を役所にすることで法律上の効力が発生する「要式行為」です。一度双方がサインした届出書を提出されてしまうと、役所は当人の理解判断力の有無等を審査することなく受理し、縁組が正式に有効なものとなってしまうのです。

これを覆すには、弁護士に依頼し、裁判所に養子縁組の無効確認訴訟を提起するしかありません。その道のりはかなり険しいものになることが考えられますが、このまま反社会勢力の餌食になってしまうよりはましといえます。一方で、男の方は財産の処分やAさんの入居などを急ぐでしょう。恐らくここからはスピード勝負になります。

また、Aさんは認知症であり、男に洗脳されたり恐怖でコントロールされていたりする可能性もあります。場合によっては行政の措置処分によりショートステイ利用なども必要かもしれません。

いずれにせよケアマネ一人で手に負えない場合は、事業所のメンバー間で共有し、さらに包括や行政機関など外部とも広く繋がってチームで対処していくことが重要です。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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