生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー

【ケアマネ小説】瑠璃色の町

文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回は、脳梗塞を患った後、体の機能は戻ったのに、なぜか元気がなくなり、テレビすらもあまり見なくなったご利用者を担当するケアマネジャーさんのストーリーです。

梅の花が終わり、桜のつぼみが膨らみ始めるころ、私が住む町は青く染まります。青は、町に本拠地を置くサッカーチームのシンボルカラー。青というより瑠璃色に見える、深く良い色です。ただ、私はあまりサッカーに思い入れはありません。だから、瑠璃の旗やポスターやグッズなどに埋め尽くされた町の風景を見ると、逆にうんざりし、自分の気持ちまでブルーになることもあるのです。

君子さんの家に向って坂を上っている今も、私の気持ちは青く沈んでいました。

(今日は君子さん、元気を出してくれるかなあ)

私は中村恭子。ケアマネジャーとして、3カ月前から君子さんを担当しています。君子さんは半年前、脳梗塞を発症。その後、右半身に麻痺が残りました。特に肩やひじは動かすのが難しい様子ですが、杖で歩くことはできますし、食事も排泄も自分でなんとかできます。さらに、近くに住む娘の芳恵さんの補助があれば入浴もできます。

つまり、君子さんはちょっとした支援があれば、自分らしく生活していけるはずなのです。

しかし、現実の君子さんは、まったくといっていいほど元気がありません。いつ訪問しても、ベッドかソファーの上でぼんやりと過ごしており、テレビすらもあまり見ていないのです。娘の芳恵さんも、「脳梗塞の前には、もっと元気だったのに…脳梗塞は、人の元気までうばっちゃうの?」と、首をひねっているくらいです。

私が訪問したその日も君子さんはベッドの上から全く動こうとしませんでした。部屋に入っても挨拶をしても、「ああ‥」と、軽く私を見る程度です。

これまで何度もリハビリに取り組むよう説得してきたのですが、この日も、リハビリを勧める私に対し「それは、遠慮します」と答えるだけ。

思わず私は問いただしてしましました。
「あの~。芳恵さんも心配していますよ。リハビリをすれば、以前のように動けるようになるかもしれないんだし。せめて、なぜ、リハビリに取り組まないのか、その理由だけでも教えてもらえませんか」

「…以前のように動ける?それは無理です。だから辛いリハビリは、やりたくないんです」
「あの、なぜ、そう考えるのですか?申し訳ないですけど、それをお聞きしたいのです」
「だから!こんな体でスタジアムに行けるようになるわけないでしょ!」

突然、せきを切ったように話し始めた君子さん。きけば、彼女は毎年、何度もスタジアムに通っていたとか。スタジアムに通いつめるだけでなく、グッズを集めたり、チームが行う地域貢献活動にも行ったり、普段使いの服や小物まで、できるかぎりチームカラーの青に統一しようとしたりするほど、熱いサポーターだったとか。そして、言葉の終わりに、次のように付け加えました。

「芳恵も私と同じように、いえ、私よりずっと熱いサポーターです。あの子と一緒にスタジアムに行き、応援歌を歌うのが何よりの楽しみだったのに…」

翌日。私は芳恵さんに連絡を取りました。先にも述べた通り、私は、サッカーにそれほど思い入れはありません。そのせいか、君子さんの思いに寄り添うのが、今一つ難しく感じました。そこで君子さんも認める熱心なサポーター・芳恵さんの協力を仰ぐことにしたのです。

実際、芳恵さんは熱かった。打ち合わせのために会った日にも、わかりやすく青いスカーフを巻いて出向いてくれるほどに。そして、私から君子さんの様子を聞いた芳恵さんは、「まかせて!」と快諾。翌週に予定されていた訪問に、芳恵さんも同席してくれることになりました。

訪問のその日。芳恵さんは、青いメガホンを持ち、サッカーチームのロゴが入ったTシャツを着てやってきました。

「お母さん、今日、この後にスタジアムに行くから!」と、意気込む芳恵さん。しかし、君子さんは「…ああ、そう。気を付けて」と気のない返事です。
そんな様子にも構わず、芳恵さんは続けます。
「今日の試合はテレビ放映もされるってさ。スタンドも映るだろうから、ちゃんとテレビを見ておいてよ。応援歌、一緒に歌ってね!」
「…えっと、今日?」
「そう、今日!知ってるでしょ、ライバルとの決戦よ!お母さんもテレビ越しにパワー送ってよ!!」
「わかったわ…」
しぶしぶという様子でテレビを見ることを約束した君子さん。芳恵さんは、にっこり笑い、帰り際には、私に小さくVサインをして帰っていきました。

(いや、これでうまく行くのか?)

いつもと同じように元気のない様子でソファーに座ったまま、私たちを見送る君子さんを見ると、どうにも不安を隠しきれませんでした。

ところが。芳恵さんへの協力依頼が、大正解だったことが翌月にはわかりました。

次の定期訪問で君子さんのお宅を訪れ、玄関を開けると、すぐに「いらっしゃい!」とびっくりするほど元気な声が。そして君子さんが、杖を突いて玄関まで出迎えてくれたのです。部屋のテレビでは、推しチームの試合などを写したブルーレイディスクが再生されています。
「やっぱり、いいねえ。熱いねえ。ねえ、恭子さん。私また、サッカーを見に行くことができるようになるかな」
「いや、それは、リハビリをがんばれば…って、どうしんたんですか?元気になってくれたのは、とてもうれしいですけど、何があったんですか?」

聞けば、前月、芳恵さんにテレビ視聴を勧められたのがきっかけだといいます。
「あの日、テレビを見ていたら、一瞬だけど全力で応援歌を歌っている芳恵が映ったのよ。そう、私も以前、スタジアムで歌った『アオイ世界』を。その歌を聞いているうちに、そして試合を見ているうちに、『あのスタジアムに、また行けるようになりたい!』と思い始めたの」
さらに、その翌日、芳恵さんが推しチームの試合を録画したブルーレイディスクを持参。それを見ているうちに、「必ず、スタジアムに行き、娘と一緒に応援する!」という気持ちになったとか。

「ということで。恭子さん、私、また、スタジアムに応援に行きたい!そのために必要なことなら、何でも頑張ります。よろしくお願いします」

さっそく私は、ケアプランを検討し直し、訪問リハビリをケアプランに位置付けました。訪問リハビリが来ない日も、君子さんはがんばりました。推しチームの試合や芳恵さんから借りたブルーレイディスクを見ながら、スタジアムで応援している気分で、自主的なリハビリに取り組んだのです。

訪問リハビリをプランに位置付けて1年。君子さんの右上肢や右足の可動域はかなり広がり、ゆっくりなら杖なしでも立って動けるようになりました。そして、つい先週、目標だった母娘でのスタジアムでの応援も再開することができました。母娘の絆と推しチームへの熱い想いが、想定を超えた結果を生んでくれたのです。

ただ、ちょっと困ったこともあります、君子さんと芳恵さんが、さかんに私を仲間に引きずり込もうとしていることです。「恭子さん、もうあなたも『青の一味』よね?今度、スタジアムに一緒に行きましょ」とか。「恭子さんも似合いそう、この青が」とか。

青の一味って…。でも最近、ついつい青い服や瑠璃色のグッズを気にしてしまっている私がいます。来年あたり、君子さん・芳恵さんと私の3人で、青の一味の応援歌をスタジアムで歌うのも悪くはないかも。

スキルアップにつながる!おすすめ記事

このカテゴリの他の記事

生成AI×編集部で紡ぐショートストーリーの記事一覧へ

こちらもおすすめ

ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報

介護関連商品・サービスのご案内

ログインしてください

無料会員登録はこちら

ログインできない方

広告掲載・マーケティング支援に
関するお問い合わせ

ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは

全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。

ケアマネジメント・オンラインの特長

「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。

ご質問やお問い合わせはこちら

お問い合わせページ