生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー
【ケアマネ小説】古い日記・2
- 2025/01/16 09:00 配信
- 生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー
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文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回は、自宅で最期の瞬間を迎えようとしているご利用者を担当するケアマネジャーさんのストーリーです。
【この小説の前編】
【ケアマネ小説】古い日記・1
私が昭雄さんの家を初めて訪れたのは、春も終わりごろの昼下がりだった。ちょっとした段差で転倒し、足の骨を折ったことで歩行が不自由となり、要介護認定が下りたという昭雄さんの家を訪れると、丁寧に、しかし、ごく事務的に出迎えてくれた。
そして静かな声で、次のように切り出した。
「ご存じかもしれませんが、私は末期の肺がんを患っています。ステージ4だそうですよ。だから、あまり長くご迷惑をおかけすることもないでしょう。まあ、もって半年くらいですかね。短い間ですけど、よろしくお願いいたします」 「その間、私があなたにお願いしたいことは、できるだけこの家で、誰にも迷惑を掛けずに1人で暮らすこと。それだけです」
その後、私はさまざまな質問を投げかけた。だが、どんな問いにも昭雄さんは、必要最低限の言葉で、わかりやすく答えるのみ。そして必ず「とにかく、この家で最期まで過ごせれば、それでいいのです」と付け加えるのだった。
あまりに淡々とした、そして頑な過ぎる昭雄さんに、つい、私はこんなふうに問いかけてしまった。 「誰にも迷惑をかけず、という姿勢はご立派です。ご立派ですが…。本当に昭雄さん、それだけでいいのですか?何か、かなえたいことがあるなら、隠さず、はっきりと言ってください」 今思えば、口調も少し変わっていたかもしれない。まったく、我ながら未熟者だ。
だが、この言葉が昭雄さんに思わぬ変化をもたらした。うつむき、長く沈黙した後、今までとは打って変わったか細い声で、語り始めたのだ。
「最後は娘と、茜と一緒に過ごしたいんです。最期の瞬間、看取ってほしいなんて贅沢はいいません。その前、数日だけでもいいんです。一緒に食卓を囲み、他愛ない世間話をしたいのです。妻が、それをできなかったことを悔やみつづけていたから。私が最後の最後まで一人だったことを知れば、出迎えてくれるはずのゆりは、とても悲しむでしょうし。…いえ、ゆりが悲しむから、ではありませんね。私が、茜と、家族として過ごす時間が欲しいのです」
茜さんとは既に和解し、電話で連絡を取り合うくらいはしているらしい。ゆりさんの通夜の日、彼女が書き続けてきた日記を見た茜さんが昭雄さんに話しかけ、関係が回復したのだという。ならば、既に和解しているというのなら、共に過ごすことに何の障害があるというのか。
「『たまには一緒に食事をしよう』。そう言えばいいだけです。よろしければ、私から茜さんにお伝えしますが」
それでも昭雄さんは首を縦に振らなかった。
「そんなお願いをする資格、この私にはないんですよ。茜が一番、支えが必要としたはずの時、逆に家から追い出してしまった私には…」
暗い目でうつむく昭雄さん。かみしめた唇が、握りしめたこぶしが、小刻みに震えている。70年余りの人生で最も苦いであろう思い出に苛まれている老人を、説得できる言葉など持ち合わせていなかった。
これ以上、茜さんと過ごす時間をどう確保するかについて話しても、すぐには、いい解決策は浮かばないだろう。そう考えた私は話題を変えることにした。
最期まで自宅に過ごす、という昭雄さんの方針を貫くために、どうしても必要なこと―。「容体が急変した時の対応」について、確認することにしたのだ。
「わかりました。茜さんとの食事については、のちほど考えましょう。その前に、自宅で急に容体がわくるなった時の対応について、いろいろ確認させてください」
そう話しかけると、昭雄さんの表情は一気に落ち着きを取り戻した。さすがは上場企業を率いていた元経営者。自分自身のことになると、どんな状況でも冷徹に見極める姿勢を取り戻せるようだ。
だが、その冷徹な姿勢も、容体急変時には真っ先に茜さんに連絡が入るという話を耳にしたとたん、あっさりと崩れ去ってしまった。
「体調が崩れたら、夜中でも早朝でも、娘に連絡が…?!それは困ります。それが前提なら、1人で暮らすのをあきらめ、安心できる施設か病院に入らせてください」 「ちょっと待ってください!施設にいようが、病院にいようが、どこに行っても娘さんには、真っ先に連絡は入りますよ?」 「それでも、施設や病院なら専門スタッフがいるから、少しは安心できます。とにかく、娘にはできる限り心配を掛けたくないのです。自宅での生活は諦めます。できるなら明日にでも、病院か施設に入れるよう手配をお願いします」
もはや、何を言っても、取りつく島もない。最後には「とにかく、私は施設か病院に入りたいのです。それを叶えてくれるケアマネさんでなければ、担当してもらう意味もありません」と言い出す始末だった。
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