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ついに実現「東京の主マネ法定研修の推薦要件撤廃!」-今後の影響を探る

東京都は4月から主任ケアマネジャーの法定研修(新規・更新)の受講要件のうち、勤務先の所在地がある市区町村の推薦を得る、という要件を撤廃することを決めた。全国的にケアマネ不足が続く中、この英断は高く評価したい。

良く知られているように、多くの都道府県が、市区町村の推薦を得ることを主任ケアマネの法定研修の受講要件としているが、推薦書が不要となれば、面倒な事務手続きの1つが撤廃される。受講者にとっては大きな朗報をいえるだろう。

そもそもなぜ推薦枠ができた?-主任ケアマネが「人気資格」だった時代があった

市区町村の推薦を得るという要件は、「法令的に必要」と位置付けられているわけではない。それでも、推薦が必要とされた理由については、主に次の2点が考えられる。

第1の理由としては、主任ケアマネ制度が導入された時期、申込者が多すぎて、研修の受け入れ枠が足りなくなり、何らかの選別基準を設けなければならなかったことが挙げられる。

希望すれば、それほど待機期間なしで主任ケアマネの研修が受講できる現在からは想像もできないが、かつて―それこそ私が新宿区で、公務員として働いていたころ―には、主任ケアマネは、研修を受講することすら難しい、人気の「資格」だったのだ。

そもそもなぜ推薦枠ができた?-質の担保保障のため

もう一つ、「質」の悪いケアマネ受講者をふるい落とすために設けられた、という理由もあった。業界での活動歴が長い人なら誰でも覚えているだろうが、介護保険制度創設時から、ケアマネの「質」の確保は、大きな課題と位置付けられていた。

特に訪問介護やデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの系列の事業所に従事しているケアマネの一部には、中立・公正性に反し、自前の介護事業所のサービス利用を促すケアマネも少なくなかった。いわゆる「囲い込み」と言われる行動である。なかには、ケアマネが「セールスマン」然とした役割を果たしている例すらあった。

このようなケアマネに主任ケアマネの研修受講を控えてもらうため、市区町村による推薦という要件が課されたという背景もあったのだ。市区町村は実地指導などを通し、「セールスマン」的なケアマネの情報は、かなり把握していたから、「推薦」の存在は、中立・公正性という「質」を保つ上では、一定の効果があったといえるかもしれない。

既に実施されていた「主任マネの更新研修受講資格の緩和」

「推薦」の撤廃とともに私が注目しているのは、東京都が、既に主任ケアマネの更新研修受講資格を緩和していた点である。

厚労省のガイドラインによれば(「主任介護支援専門員更新研修ガイドライン」、2016 年11 月)、主任マネの更新研修の要件として、行政や職能団体などが開催する法定外研修への参加(毎年度4回以上)が課されているが、都は2024年度、主任ケアマネの更新研修の資質向上要件を緩和。都内の事業所などで常勤専従で働いている人については、行政や職能団体などが開催する法定外研修への参加などの要件を事実上免除した。

法的拘束力がないとはいえ、ガイドラインは国が示しているものだ。それだけに、ほとんど全ての都道府県は、ガイドラインに沿った研修規定を維持している。

その規定を、大人口を抱える東京都が、思い切って緩和した点は、やはり大きく評価できる。

東京都のケアマネ待遇改善が、他自治体に拡大

さらに東京都は「居住支援特別手当事業(毎月1~2万円)」として都内で働くケアマネに一定の補助金事業も実施している。

これらの補助金事業も、主任ケアマネの法定研修に関する緩和も、他の都道府県には大きな影響を与えると考える。実際、千葉県柏市は、毎月9000円をケアマネに支給する「介護支援専門員処遇改善事業補助金」を設けている。

今後は、補助金制度だけでなく、主任ケアマネの法定研修の緩和についても、東京都と同様な動きが広がっていくだろう。特に、千葉、埼玉、神奈川といった隣接する自治体においては、東京との人材の奪い合いになるため、同じような緩和を実施せざるを得ないのではないか。

自治体からの変革の波が、国の制度を変える大きなうねりに!

ケアマネ不足が深刻化している現状を思えば、更新研修の要件の緩和や独自の処遇改善策など、自治体ができる対応は、どんどん実施すべきである。

そして、そうした自治体の取り組みが積み重なれば、国の制度を改善するきっかけにもなるかもしれない。例えばケアマネの処遇改善に対する補助金を独自の予算で支出する自治体が増えれば、いずれは国の予算額確保にも繋がるのではないか。

今回の東京都の対応が、「地方が変わり、国が変わる」大きなうねりを作る上でのきっかけになることを期待したい。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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