弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
自らの人生を諦めたご利用者、どう支援?
- 2025/03/28 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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皆様が担当するご利用者の中には、生活保護などの援助を求めず、世捨て人のような生活を送ろうとする方もいらっしゃるのではないでしょうか。その選択すらも「個人の自由!」といえばそれまでですが、関わりを持ったケアマネジャーとしては、そこまで割り切って、見て見ぬふりをする訳にもいきません。自らの人生を諦めている人をどう支援していくのか―。事例をもとに考えてみたいと思います。
年金をもらえないのに生保拒否、サービスも付けられず…
収入が少額の年金だけなのに、生活保護にも頼ろうとせず、サービスを付けることが難しい方への対応に頭を痛めています。
ご利用者:78歳女性、要介護1、排泄・入浴は自立。集合住宅に長年一人暮らし。家賃は貯金を切り崩して払ってきたが、底をついてきた。若いころは夜の接客業を生業としていた。食事も自立して摂れるが、「お腹がすかない」と、何も食べない日も増えており、体重は落ち続けている。部屋は散らかり放題で、洗濯や掃除もろくにしていない。
結婚していたが、子どもを授からなかったことなどが理由で、30歳代に離婚。その後再婚したが8年ほど前に夫と死別。
利用サービス:福祉用具(手すり、外出用の杖)
このご利用者はご主人と死別して以降、わずかな年金(国民年金、月4万円)のみで生活しておられます。大きなケガや病気をしたことは無いのですが、加齢に伴う身体能力の低下で、どんどん要介護度は上がり、今年からついに要介護1になりました。
身体の衰えが進んでいるのは、生きようとする姿勢があまり見受けられないためです。
「もう、生きる気力はない。もらえる年金で生活し、死ぬだけ。早くお迎えが来てほしい」。
これが、最近のご利用者の口癖です。生活保護を受ければ、もっと自立支援に繋がるサービスを付けられるはずなのですが、申請を提案しても「それはしたくない。今さら国に迷惑かけたくない」の一点張り。節約したいという意識もあるのか、今では、食事も一日一回食べるかどうか。ほとんどセルフネグレクト状態です。
このまま体の状態が悪化しつづければ、大きな病気に罹患してしまい、家賃すらも払えなくなる可能性もあります。
せめて、生活保護を申請し、訪問介護サービスなどを使えば、最低限の生活環境は整えられると思うのですが…。このようなケースでは、ケアマネとしてどこまで関わるべきでしょうか。
A 「何もしない」はNG!対応方法について、事業所内や包括と協議して
「セルフネグレクト」とは「健康、生命および社会生活の維持に必要な個人衛生、住環境の衛生もしくは整備、または健康行動を放任・放棄している」ことを意味します。本件もその状態であるといえます。
ケアマネの運営基準第13条第6項には「(利用者が)置かれている環境等の評価を通じて利用者が現に抱える問題点を明らかにし、利用者が自立した日常生活を営むことができるように」しなければならないとされており、利用者の住環境を整えることもケアマネの業務範囲内といえます。
そして、本件のご利用者の住環境は、不衛生である上、食事も十分に摂れない状況にあります。手をこまねいて見過ごした場合、ご利用者が自宅内で、低栄養で倒れるなどのリスクも生じかねません。命を守るという視点からも、ケアマネができる範囲の手立てをとることが重要です。
ただし、ケアマネ自身が食事を運んだり、掃除をしたりする必要はありません。ケアマネとしてすべきことは、関係機関と連携し、問題解決の仕組みを導入するところまで。第三者的立場の支援者である以上、あまり個々の利用者宅の事情にまで深入りし過ぎない方が良いのです。
まずやるべきことは、ご利用者とよく話し合い、「これからどうしたいか」という要望を引き出すことでしょう。
具体的には、このままでは自宅で生活することが経済的に難しくなる可能性を、改めてご利用者に説明しましょう。当然、同じ事業所内のケアマネとも協議を重ねるべきですし、場合によっては地域包括支援センター職員や行政の力も借りて、生活保護について丁寧に説明・説得する必要もあるかもしれません。
さらに本事例を地域ケア会議に報告し、セルフネグレクトを地域課題の一つとして取り上げていくことや、行政にも実態を把握してもらい、ご利用者に生活保護の利用を促してもらうといった取り組みも有効でしょう。地域内のほかのケースへの予防策立案につなげるためにも、地域ケア会議への報告は有意義と思います。
手を尽くしても、事態が改善しないときの最終手段は…
これらの手を尽くしても、ご利用者の協力を得られず、自宅で一人暮らしを継続することが難しくなってしまった場合は、最終手段として老人福祉法第11条に基づく措置処分(やむを得ない事由による措置)により施設に強制的に入所してもらうという方法があります。
ただ、これは、飽くまでご利用者本人の意思ありきの対応。特に認知症でない場合、実現は難しいでしょう。
ちなみに本件の場合、このままの状態が続けば、利用者は家賃滞納で部屋を追い出されることになるかもしれません。そして、そのタイミングで行政が保護に乗り出すこともあり得ます。担当ケアマネだからといって、あまり自分を追い詰め過ぎず、「最後は何とかなる」という楽観的な見方を持つことも大切です。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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