一人ケアマネの歩き方~独立を目指すケアマネのための実践ガイド~

「いつかはケアマネジャーとして独立したい」―。こんな思いを抱いているケアマネジャーの皆さんも多いのではないでしょうか。本連載ではそのような皆さんに向けて、居宅介護支援事業所の独立開業に向けた具体的なステップや経営のリアル、さらには独立後の生存戦略まで、“生粋の一人ケアマネ”である筆者の経験を交えながらお伝えしていきます。

独立後も、ケアマネジャーとして行う業務そのものは大きく変わりません。そのため、独立後の働き方については、イメージできている方も多いと思います。

ただ、いくらケアマネとしての実務経験が豊富であっても、開業準備はほとんどの方にとって初めての経験です。そのため、何から手をつけていいのか分からず、立ち止まってしまう方も少なくありません。

そこで今回は、私が実際に独立開業をした時のスケジュールをもとに、「この時期に何をすればいいのか」を時系列で整理してお伝えします。

具体的なお話に入る前に、独立に向けた準備の全体像をざっくりと確認してみましょう。

時期 主な準備内容
開業4カ月前 税理士との顧問契約、事務所の物件探し
開業3カ月前 法人設立、介護ソフトの選定、損害賠償保険への加入
開業2カ月前 電話・FAX番号の取得、事務所利用する物件の契約、事務所への備品搬入、指定申請書の提出
開業1カ月前 新しい介護ソフトへの利用者データ移行、事務用品の搬入、指定通知書を受け取る

開業4ヶ月前

独立を決意したら、まず取りかかりたいのが“土台づくり”です。
法人設立や申請の前に、税理士との顧問契約や事務所の物件探しなど、土台となる部分を固めておくことで、安心して次のステップへ進むことができます。

税理士との顧問契約

税理士との顧問契約は、法人設立前に結ぶことをおすすめします。会社の立ち上げから運営まで、一貫したサポートを受けることができるからです。法人の設立や各種届け出は、多くの方にとって一度きりの経験となるため、自分で一から調べて対応するよりも、専門家に依頼した方が合理的です。

事務所の物件探し

居宅介護支援事業所をどこに構えるかによって、固定費や働き方は大きく変わってきます。主な選択肢としては、▽テナント物件を借りる▽アパート・マンションの一室を借りる▽自宅の一部を活用する―の3つが挙げられます。

私自身は、アパートの一室を事務所として契約し、一人ケアマネとして問題なく運営できています。ただし、アパートを事務所として利用する場合は、必ず大家さんや管理会社の許可を得ましょう。

自宅での開業も可能ですが、保険者(市区町村)によって条件が異なるため、事前の確認は必須です。
一人で開業する場合、6畳程度でも十分対応可能ですが、将来的にスタッフを増やす予定があるのならば、最初から広さに余裕のある物件を選んでおくことをおすすめします。

開業3カ月前

開業まで3カ月に迫ったこの時期は、事業所を“形づくる”段階に入ります。法人の設立や介護ソフトの選定、損害賠償保険の加入など、開業に欠かせない基本的な手続きを進めていきましょう。

法人設立

居宅介護支援事業所を開業するには、法人格の取得が必要です。私は費用や手続きの簡便さから、合同会社を選びました。

税理士と顧問契約を結ぶと、多くの場合、法人設立の手続きを代行してくれます。私の場合も、税理士との顧問契約を前提に、合同会社の設立を無料でサポートしてもらえました。おかげで他の開業準備に集中することができ、とても助かりました。

介護ソフトの選定

介護ソフトの選定は、開業準備が本格化するこの時期から始めましょう。

毎月費用がかかる固定費のため、なるべく安く抑えたいというのが本音かもしれませんが、安さだけで選ぶのは要注意です。

介護ソフトは、ケアマネジャーが日々最も長く触れる業務ツールであり、介護ソフトの操作性や機能は、ケアマネ業務の効率に直結します。

新しいソフトに切り替える場合は料金だけでなく、操作性などの使いやすさを、実際に使っているケアマネさんに聞いてみましょう。

損害賠償の加入

介護保険制度において、指定を受ける事業所は「損害賠償に対応できる資力」を確保していることが義務付けられています。

そのため、居宅介護支援事業所の指定申請書には、損害賠償保険に加入していることを示す保険証書の写しを添付する必要があります。

指定申請書の提出は、開業2カ月前には済ませておく必要があるため、損害賠償保険への加入は、この段階(開業3カ月前)で済ませておくと安心です。

開業2カ月前

開業2カ月前からは、電話やFAXの契約、事務所物件の契約、備品の搬入など、実際に業務を行うための準備が本格化します。

居宅介護支援事業所の指定を受けるためには、この時期に指定申請に係る書類一式を保険者に提出する必要があります。

つまり、指定申請の手続きと事務所の環境整備を並行して進める、重要な1カ月なのです。

電話、FAX番号を取得

居宅介護支援事業所の指定申請書には、電話番号とFAX番号の記載が必須です。そのため、申請書を提出するこの時期までに、両方の番号を取得しておく必要があります。

私は固定電話やFAX機は設置せず、IP電話アプリとインターネットのFAXサービスを導入しました。これにより、外出先でも、スマートフォンやパソコンから電話・FAXの送受信が可能になり、どこにいても対応できる柔軟な環境が整いました。

事務所利用する物件の契約

指定申請書類には、事業所の外観や内部の様子がわかる写真と、平面図の添付が求められます。そのため、開業2カ月前のこの時期には、事務所として使用する物件の契約を済ませておく必要があります。

写真や図面の準備には、多少の時間がかかるため、余裕を持って動いておきましょう。

事務所に備品を搬入する

物件の契約を終えたら、早めに必要な備品を搬入し、業務が行える環境を整えておく必要があります。そして、各備品を事務所内に設置した上で、事業所内部の様子がわかるように写真を撮影します。

設置すべき主な備品としては、鍵付き書庫、相談室用のパーテーション、事務用デスクなどが挙げられます。私は初期費用をなるべく抑えたかったので、デスクや鍵付き書庫はリサイクルショップで購入し、自分で搬入しました。

指定申請書の提出

ここまで準備が整ったら、いよいよ、居宅介護支援事業所の指定申請書を保険者に提出します。さまざまな添付書類が必要になりますので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
以下は参考として、私が提出を求められた添付書類の一覧です。

居宅介護支援事業所の指定申請に係る添付書類一覧(※筆者地域の場合)
指定居宅介護支援事業者指定申請書
指定に係る記載事項
申請者の登記簿謄本または条例等
従業者の勤務体制および勤務形態一覧表
資格証(介護支援専門員証・主任研修修了証等)の写し
就業規則、雇用契約書または誓約書
事業所の管理者の経歴書
事業所の平面図
外観および内部の様子がわかる写真
運営規程
利用者からの苦情を処理するための措置概要
損害保険証書の写し
地域連携に関する内容
介護保険法第79条第2項各号に該当しない旨の誓約書
介護給付費算定に係る体制等に関する届出書

申請の受付期限は、開設予定月の前々月末日までとされています。例えば、6月1日に開設予定の場合は、4月30日が提出期限となります。記載内容に不備があった場合は、再提出を求められることもあるため、余裕を持って進めていきましょう。

開業1カ月前

この時期は、事務所運営の準備を整える“仕上げ”の段階です。

新しい介護ソフトへの利用者データの移行や、必要な事務用品の購入など、翌月1日から業務がスムーズに開始できるよう準備を進めつつ、保険者からの指定通知書を待ちましょう。

新しい介護ソフトへの利用者データの移行

独立開業されるケアマネさんの中には、それまで担当していた利用者さんをそのまま引き継ぐケースもあるでしょう。その場合、新しく導入する介護ソフトに、その利用者さんのデータをあらかじめ移行しておく必要があります。

データ移行は単なる引き継ぎ作業にとどまらず、ソフトの操作に慣れる機会でもあります。サービス利用票や居宅サービス計画書など、日常的に使用する機能を事前に操作しておくことで、開業後の業務をスムーズに始めることができます。

事務用品の購入

開業までにそろえておきたい事務用品も、この時期に一通り準備を済ませておきましょう。

主なものとしては、コピー用紙、ファイル、バインダー、筆記具、電卓、「テプラ」などのラベルライターが挙げられます。100円ショップやホームセンターを活用すれば、費用を抑えつつ、実用的な備品をそろえることが可能です。

指定通知書を受け取る

開業予定日の前月となるこの時期は、保険者による指定申請書の審査が行われます。特に不備や問題がなければ、月内には指定通知書が届きます。

私のもとに指定通知書が届いた時は、まるで受験の合格通知を受け取ったかのような喜びがありました。それまでの苦労が一気に報われたような感覚で、「いよいよ始まるんだ」と実感した瞬間でもあります。

次回は「独立型ケアマネの生存戦略」

今回は「独立開業の準備と手続き」について、私の実体験をもとに、開業4カ月前からの具体的なスケジュールに沿ってご紹介しました。

一つひとつの準備は地道な作業ですが、それらを積み重ねることで、安心して開業日を迎えることができます。これから独立を目指すケアマネさんが、この記事を参考にして、開業への一歩を踏み出してもらえたら幸いです。

次回のテーマは、「独立型ケアマネの生存戦略」です。

一人ケアマネとして長く安定して活動していくためには、介護報酬だけに頼るのではなく、多様な収益源や働き方を検討することも重要です。ケアマネの専門性を生かした副収入のアイデアや、私が実践する具体的な方法もご紹介します。ぜひお楽しみに!

ヒトケア
2012年にケアマネジャーとしてのキャリアをスタート。2015年には居宅介護支援事業所を開業し、現在も「一人ケアマネ」として活動している。ケアマネ歴12年以上の経験を基に、業務効率化や居宅介護支援事業所の立ち上げノウハウを発信するブログ「ヒトケア(一人ケアマネ)の仕事術」を運営。NPO法人タダカヨが運営する介護従事者向けオンラインPCスクール「タダスク」の講師も務めている。

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